第126話 家族の朝食

「サラちゃん、ミアをよくみせて?」

「いいよ」「…………」


 サラだけじゃなくミアもパタパタ手を動かして、了解してくれた。


「ふむふむ?」


 あたしはサラからミアを受け取って調べる。

 すると、ロアも手でミアを撫ではじめた。


「少しあたたかい」「りゃむ」

「そうなの」

「やわらかくなってる。ロアの鱗みたい」「りゃありゃあ」


 ロアの鱗は、竜の鱗なので、ものすごく強靱なのは間違いないが、なぜか少し柔らかい。

 その感触に、ミアの皮膚は似ていた。


「形は変わってないね?」「りゃむりゃむ」


 ロアもあたしと一緒に調べているつもりらしい。

 真面目な顔でうんうんと頷いている。


「ルリアちゃん、でも、動けるようになったから、ここのところとか」

「おおー、ひざとかひじだな?」「りゃむ」


 全く目立たないが、膝や肘に当たる部分に関節ができていた。

 股関節や肩関節もできている。


「腰はうごく?」

「…………」


 するとミアは無言で腰をくねくねと動かした。


「おお、動いている」


 それにあたしの言葉がわかるようだ。


「あたまいいな?」「りゃむ~」


 ロアも頭良いと言って褒めている気がする。


「…………ぁぅ」


 なぜかダーウが腰を動かして、僕も言葉がわかるとアピールし始めた。


「…………ダーウもあたまいいな?」

「わぅ」


 あたしはダーウのことを褒めて撫でた。


「なあ、クロ。ミアはなにたべるの?」

『植物だから水なのだ!』

「植物だから水なのか。えいようは?」


 あたしはサラにもわかるように、クロの言葉を繰り返す。


『栄養は魔力とか精霊力なのだ!』

「ほうほう、魔力と精霊力……」

『ルリア様にロアにスイもいるし、クロと精霊もいるから。心配しなくていいのだ』

「ふむふむ、その辺りにある魔力とか精霊力をかってにたべるってこと?」

『そうなのだ。そもそも、このあたりは人形が守護獣になるぐらい精霊力が豊富なのだ』

「ほえー。サラちゃん。ミアは水だけのんでたらだいじょうぶみたい」

「そうなんだ! ミア、水飲もうねー?」

「お、水であるな? ならばスイの出番であるからして!」


 スイが右手の人差し指を上に向けて、その先に水球を出現させる。


「サラ、あげていいであるか?」

「いいよ?」

「よかったのである! ミア、スイの水を飲むのである!」


 そういって、ミアの顔あたりに水球で触れる。


「…………」


 ミアは嬉しそうに手足をパタパタさせると、水球はすぅっと小さくなった。


「おお! 飲んだのである! サラ。見た? 見たであるか?」

「見た見た。すごいねぇ」

「ほあー。スイの水を飲んだのであるー。ルリアもみたであるな?」

「見たよ。飲んだねぇ」

「ふへへ、スイの水を飲んだのであるなー。ミアはかわいいのである」


 スイはとても嬉しそうに尻尾を揺らしているし、ミアも手足をパタパタさせていた。

 そこに、侍女がやってきた。


「お嬢様方。朝食の準備が出来ましたよ」

「わかった! サラちゃん、いこ」

「うん。…………あ、どしよっか? だいじょうぶ?」


 サラ少し不安げにミアを見る。


「そだなー」

 あたしはクロをチラリと見る。


『やっぱり、人形が動くと人はこわがるのだ。かあさまたちなら、多分大丈夫だと思うけど……』

「そっかー。念のためにだな?」


 やっぱりミアが動けることはばれない方が良いだろう。

 あたしは、侍女に聞こえないようミアに小声で囁く。 


「あのな? 動けることかくせる?」

「…………」


 ミアはピタリと動かない。


「うん。その調子だ。サラちゃん、いつもみたいに抱っこしていこ」

「わかった。ミア、動かないでね?」

「…………」


 やはり、ミアは動かない。

 あたしとサラの言葉を完璧に理解しているのだ。


「いいこだねー」「いいこいいこ」

「……」

 あたしとサラに撫でられると、ミアは嬉しかったのか一瞬ピクリと動いた。


 あたしとサラが着替え終えると、みんなで食堂へと向かった。

 あたしはロアを抱っこして、サラはミアを抱っこする。


 ダーウ、キャロ、コルコはあたし達の後ろをはしゃぎながらついてきた。

 スイは、あたしの服の腰あたりを掴んでついてくる。


「今日の朝ご飯はなんであるかなー?」

「スイは何がすき?」

「全部うまいのであるがー。卵を焼いたのがうまいのである。ふわふわでー」

「オムレツだな。あれはうまい」

「おいしいねー。サラも好き」


 そんなことを話ながら歩いて行く。


 食堂に入ると、上座に父と母が座っていた。

 その近くにマリオンの席がある。

 そして、マリオンの下座に兄と姉が向かい合わせに座っていた。


「サラ。こちらにいらっしゃい」

「ルリアはこっち」


 サラは姉に、あたしは兄に呼ばれて隣に座る。


「かあさまの隣で無くていいの?」


 あたしが尋ねると、母が笑顔で言う。


「もう急いで作法を身につける必要がなくなったから。ゆっくりね」

「なるほど? やはりルリアは完璧だったか」

「全くもって完璧ではないわ」


 母は何事にも完璧と言うことが無いと言いたいのだろう。

 いくらあたしの作法が完璧に近くとも、まだまだ上があると言うことに違いない。


「作法は、奥が……ふかいのなぁ?」

「ルリアまだ、浅瀬も浅瀬よ? まずは正面のリディアを見て真似しなさい」

「ほう。だからねえさまがあたしの前に座っているのかー」

「そうよ。ルリア。この姉のことを真似するのですよ」

「わかった」


 姉は張り切っているようだった。


「サラちゃんはルリアをまねするといい」

「ダメよ? サラはギルベルトを真似しなさい」

「あい」


 サラは素直に頷いた。


「サラは、ルリアと違って、僕と同じく将来当主になるからね。だから僕の真似をして」

「がんばります!」

「まあ、僕と違って、サラはもう男爵閣下で当主だけどね」


 そういって兄は優しくサラに微笑んだ。


「……ギルベルト様。どうか厳しくご指導いただければ」


 マリオンがそういって、頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る