第124話 帰宅

 屋敷に帰ると兄と姉とダーウたちが出迎えてくれた。


 あたしが馬車から一歩降りると、

「わふわふわふわふわふっ!」

 ダーウに顔をベロベロと舐められる。


「ダーウ、お留守番できてえらいなー」

「わふぅわふぅ!」

「うわ、おしっこもれてるぞ。外でよかったな?」


 ダーウは喜びのあまり、興奮しすぎておしっこ漏らしていた。


「りゃむ」


 ロアは静かに飛んでくると、あたしの顔に正面からぎゅっと抱きついてくる。


「ロアも留守番できてえらいなー。……お腹がやわらかい」

「りゃむ」


 ロアは赤ちゃん竜だが、中型犬ぐらいある。

 そのロアが顔の正面に抱きついているので、なにも見えない。


「きゅきゅ」「こここ」


 キャロがあたしの足に抱きついて、コルコが足に体を押しつけてきた。

 見えないが感覚でわかる。


「キャロとコルコも留守番できてえらい」


 そんなあたし達を見て兄が呟いた。


「ルリアは動物まみれだね」

「ルリア! 大丈夫だった? 陛下を激怒させなかった?」


 心配していた姉はあたしをロアごと抱きしめる。


「優しかったよ! ルリアは作法が完璧だからみんながびびってた!」

「……どういうこと?」


 姉の困惑している声が聞こえる。

 ロアが顔にへばりついているので、姉の表情はあたしにはみえない。


「まあ、中で話そうか。おいで」


 父がそういって、あたしたちは屋敷の中へと向かう。

 相変わらずロアが顔にへばりついているが、サラが手をつないでくれるので問題なかった。


「……スイちゃん、どうした? どうして、そんなところに隠れてるの?」


 あたしが気になったのはスイが物陰からじっとこちらを見ていることだ。


「なぜ、ばれたのであるか? ロアに……目を塞がせたというのに」


 ロアが顔にへばりついたのはスイの差し金だったらしい。


「なんとなく?」


 もちろん、見えていないが、スイの気配はどでかいのでわかる。


「……スイちゃん。ルリアは怒ってないよ?」

「ほんと?」

「うん」


 きっと昨晩王の寝室に忍び込んだことがばれて、怒られると思ったのだろう。


「よかったのである~。ロア、もう目を塞がなくていいのである!」

「りゃむ?」


 だが、ロアはどかない。どうやら顔にくっつくのが好きらしい。


「まあ、いっか。あ、スイちゃん、いま目がふさがってるからダーウのおしっこ掃除できる?」

「お安い御用なのである」


 スイがダーウの漏らしたおしっこを水魔法できれいにしてくれる。


「ありがと。スイちゃん」

「ばうばう~」

「ふへへ、いつでも言うのである!」


 あたしとダーウはお礼を言って、そのまま書斎へと向かう。

 書斎についたあたしはまず顔からロアを剥がす。


「りゃむ~?」


 剥がしたロアをテーブルの上に仰向けで乗せる。

 そして、そのお腹をこちょこちょしながら、説明した。


「ロア。まえがみえないからな」

「りゃっりゃっりゃ、りゃむ~」


 ロアは嬉しそうに尻尾を振って。羽と手足をバタバタさせる。


「きもちいいか? ほれほれー」 

「りゃっりゃっりゃ~」


 ロアはお腹の刺激がすきなのかもしれなかった。


 一方そのころ、スイはサラに、棒人形を手渡していた。


「ミアはいいこにしてたのである」

「ありがと、スイちゃん」


 あたし達は、長椅子にそれぞれ座る。

 父と母が並んで座り、その正面にマリオンとサラが並んで座る。


 あたしとスイは、マリオン達の隣にある長椅子に座った。

 そして兄と姉はあたしとスイの正面の長椅子に一人で座る。


 ダーウはあたしの膝のうえに顎を乗せ、キャロとコルコは足元であたしに寄り添っている。

 それぞれの机の上にはお菓子が沢山乗っていた。


「父上。王宮はどうでしたか?」

「一から話そうか」


 そういって、何があったのか、父が兄と姉に話していく。

 その間、あたしはお菓子をむしゃむしゃ食べる。


「お屋敷のおかしもうまい」

「…………ぴぃ」

「しかたないな?」


 鼻を鳴らすダーウに少しわける。


「りゃむ」


 ロアは姉にお腹を撫でられながら、お菓子を食べさせてもらっていた。


「陛下が、じいちゃんと呼べと? あの陛下が?」


 兄はやはりそこが気になるらしかった。


「そんなにびびることか? じいちゃんは、じいちゃんだよ?」

「僕がお爺さまと呼んでしまったときは……襟首を掴まれて持ち上げられた」

「こわっ。あまりそんなことしそうに、みえないけどなー」

「そして、お前は孫であるまえに臣下であろう? なんだ? 叛意でもあるのか? って」

「こわ~」


 あの王からは想像も付かない姿だ。


「でも、ルリアが気に入られたみたいでよかったよ」

「本当にそうね。どうなることかと。作法はまだまだだし……」

「ねえさまも怒られた?」

「私の場合は、カーテシーしたら、いきなり手を叩かれたわ、鞭で」

「ええ……こわっ。ねえさまは失敗したの?」


 すると母が笑顔で言う。


「失敗してないわ。七歳だったけどリディアは完璧だったの」

「じゃあ、なんで?」

「子供らしくないって」


 完全にいいがかりである。


「あたしは完璧だから、たたかれてたかもだな?」

「ルリアは完璧ではないわ?」

「はは。またまたー。むしゃむしゃむしゃ」


 母は場を和ませようと冗談を言う。

 それにしてもお菓子がおいしい。


「ルリアをどうやって守ろうか考えていたのだけど……、まあ、良かったわ」


 そういうと、母はふぅーっと息を吐いた。


「お疲れ様。アマーリアは、ずっと張り詰めていたものな」

「あなたこそ。ずっと緊張していたものね」


 そんなことを言って、父と母は微笑みあっている。


「むしゃむしゃむしゃ……。とうさま、かあさま。お菓子を食べるといい。つかれてるとうまい」

「そうね。いただくわ。……あら美味しい」

「ああ。いつもより美味しく感じる。甘さが染みる」


 父母もお菓子を食べてほっと息を吐く。

 きっと、ここ数日、緊張しっぱなしだったのだろう。


「私も、生きた心地がしませんでした」

「マリオンもお菓子を食べるといい。うまい。むしゃむしゃ」

「ええ。ありがとうございます」


 マリオンもずっと緊張していたらしい。

 それからも兄と姉は質問を繰り返し、父と母は優しくそれに答えていった。

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