第119話 謁見後、王の私室にて

  ◇◇◇◇


 サラの叙爵が終わり、あたし達は謁見の間から退室した。

 入った時はあたし一人だったが、出るときはみんな一緒だ。


「きんちょうしたー。ルリアちゃんは、一人でだいじょうぶだった?」


 緊張から解放されたサラはとても元気だ。


「ルリアはだいじょうぶだった」

「すごい! サラは緊張してうまくできなかった……ルリアちゃんは緊張しなかった?」

「しない。ルリアの完璧なさほうに、みなびびってた」

「おおー。さすがルリアちゃん!」


 そんなことを話ながら、あたしたちは侍従の案内で王の私室へと向かう。


 王が、話があるから待っているようにと言ったからだ。

 応接間でも控え室でもないのは、王の信頼の証に違いなかった。


 王の私室は、謁見の間からは、少し離れた場所、王宮の最奥に近い場所にあった。


「ここが王の部屋ってやつかー。いがいとじみだな?」


 あたしたちは王の私室の中へと入る。


 控え室の内装は豪華だったが、王の私室は質素だった。


「ほほう? あっお菓子がある! これ食べていいのか?」


 テーブルの上にお菓子が乗っている。

 あたしとサラは、返事を聞く前にお菓子を食べる為に椅子に座った。


「どうぞ、ご自由にお食べください」

「ありがと! サラちゃん食べよう」

「うん!」


 あたしとサラがお菓子を食べていると、父達は真剣な表情で相談し始めた。


 父達が座るのはローテーブルの前に置かれた長椅子だ。

 父達の前のテーブルにもお菓子が乗っているが、誰も手をつけていなかった。


「陛下の真意がわからぬ」

「悪意ではないとおもうのだけど……」

「サラのことを認めてくださっているのは間違いないように思いますが……」


 部屋の中には侍従もいるので、とても小声だ。

 あたしは耳がとても良いので聞こえるが、侍従には聞こえていないだろう。


 どうやら、父達は、王の狙いがわからないらしい。

 きっと、そのうち王が来て説明するに違いないので、あたしは気にせずお菓子を食べる。


「このクッキーうまいなぁ! ね、サラちゃん」

「うん、美味しい」

「ねえ、このクッキーどこでかったの?」

「これは王宮の料理人が焼いた物ですよ」


 侍従が教えてくれる。


「おおー。さすが王宮のりょうりにん。すごいねぇ。ありがとうと伝えて?」

「お褒めの言葉ありがとうございます。料理人も喜ぶことでしょう」

「うん」

「紅茶をお淹れしましょうか? それともミルクの方がお好みでしょうか?」

「そだなー。こうちゃがのみたい! さとうとミルクがたくさん入ったの。サラちゃんは?」

「サラも同じのがいい」

「かしこまりました」


 侍従は父達にも飲み物の好みを聞いてから、退室した。


 すると、父があたしに向かって真剣な表情で言った。

「ルリア」

「ん?」

 父は部屋の中を無言でぐるりと見回した。


「王宮にはどこに誰がいるかわからないんだ」

「ほほう。あれだな?」


 密偵とかそういうやつだ。あたしは詳しいのだ。あたしも部屋の中を見回した。

 周囲にはふわふわと精霊が浮かんでいる。


『この部屋には床下とか、天井裏とか壁の裏とかに隠れている奴はいないのだ』

「おお」


 こっそり付いてきてくれていたクロが、床から顔を出して教えてくれた。

 密偵の類いはいないようだが、父が警戒しているので、サラと一緒に父の近くに移動する。

 お菓子のお皿も一緒に持っていくことを忘れてはいけない。


「……ルリア。父が去ってからのことを教えてくれるかな?」


 父が小声で話すので、あたしも、お菓子を食べながら小声で話す。


「…………そだなー。もぐもぐ。どこから話せば良いか……まずマリオンも呼ばれてー」


 マリオンが呼ばれて、二人になった後、あたし一人で謁見の間に向かったこと。

 そこで重臣達が色々言っていたけれど、王に抱っこされたこと。

 そして、王が激怒して、重臣達が平謝りしたことを。


 そんなことをあたしは語った。


 サラを虐めた従弟のことは言わなかった。

 あれはあたしとサラと、従弟との問題だ。


 なにかあれば、またボコボコにしてやればいい。

 もし従弟の親が出てきたら、そのときに父に言いつけてやれば良いだけだ。


「ルリアは陛下のことをどう思った?」


 父は一層声を潜める。


「じいちゃんのこと?」

「ルリア。陛下と呼びなさい」


 母に窘められたが、

「じいちゃんが、じいちゃんと呼べっていったんだよ?」

 あたしがそういうと、父が固まった。


「陛下が、本当にそうおっしゃったのか?」

「そう」

「我が子にも父と呼ばせなかった陛下が……」


 直後、扉が開かれて、王が入ってくる。

 慌てて、立ち上がろうとする大人達を手で制すと、王はあたしの隣に座った。

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