第87話 サラとルリアと人形遊び

 あたしはサラ、ロア、ダーウに見守られながらペンを手にする。


「まずは……ヤギたちのことから書こう。えっと……」

『きのう、りょうみんがきました。すいろがいわでふさがってこまっていましたが――』


 そのような情報はとっくに父のもとに報告が上がっているだろう。

 だから、大事なのはこの先だ。


『ヤギはすっごくでっかくて、ウシとイノシシもとてもおおきかったです』

「あとは、ヤギたちが活躍したことを書いて……」

『ヤギたちをかいたいです。いいこなので、やくにたつので、かいたいです』

「これでよしっと」


 サラに字を教えるためにも、あたしは書きながら音読しながら書いていった。

 一応、岩が割れたら嫌な気配が消えて雨が降ったとかも書いておく。

 これだけかけば、父なら、きっと調べてくれるだろう。


「いよいよ、ほんだいだ。えーっと『ドラゴンの子をひろいました』……いや、ほごがいいな?」


 あたしは『ひろいました』を線で消して『ほごしました』に訂正する。

 拾った子ならともかく保護した竜の子を捨ててこいとは、父も言いにくいに違いない。

 あたしは、自分で自分の戦略家ぶりに、感心した。


「これでよしっと。かあさま。これをとおさまにとどけて!」

「はいはい。ちゃんと届けますよ」


 母に任せれば安心だ。

 ふと、あたしは窓の外を見る。雨はどんどん激しくなっていた。


「そとで……遊びたいところではあるのだけどなー」

「お外は危ないし、雨だからやめましょうね」


 そのとき、サラが笑顔で言う。


「ルリアちゃん、おにんぎょうであそぼ」

 サラの尻尾は元気に揺れている。


「そだね。あそぼっか」


 昨日から、姉から貰った人形で、遊びたいとサラは言っていた。

 昨日は手紙を書いた後に遊ぼうとしていたら、領民がやってきたのだ。


 ちなみに人形は、昨日のうちにあたしたちの部屋に運んである。


「そだな。かあさま、部屋であそんでくる」

「はい。もうわるいことしちゃだめよ?」

「わかってる!」


 あたしたちは、自室へと走って戻った。


 自室に戻ると、サラは机の上に姉から貰った人形を並べていく。

 しっかりと木の棒の人形もサラは並べた。


 サラが並べる人形をダーウは近くにお座りして、ロアは机の上から見つめていた。


 ちなみにキャロは寝台のあたしの枕の上で寝ているし、コルコは窓際で外を見張っていた。


「ルリアちゃんが、おきゃくさまね?」

 サラに人形の一体を渡された。

 

「わ、わかった。おじゃましまーす。とことこ」

「わー、よくいらっしゃいました」「りゃ~」


 サラは棒の人形を操って、出迎えてくれる。


「おみやげにパンをもってきた」

「まあ、ごちそうね! いっしょにたべましょ」


 ダーウが「パン?」と反応したが、とりあえず無視しておいた。


「どうぞ、おちゃです」

「わかった。うまい。ぐびぐび」「りゃむりゃむ」


 すると、ロアも一緒に飲むふりをする。

 ロアは赤ちゃんなのに、あたしたちの言葉がわかっているのかもしれなかった。

 とても賢い赤ちゃんである。


「わふ?」


 あたしとサラが食べるふりをすると、そのたびにダーウが口の匂いを嗅ぎに来る。

 本当に食べているのか確認しているらしい。

 もし食べているなら、自分にも分けて欲しいと考えているに違いない。


「おちゃが、パンにあう!」「りゃ」


 遊んでいるうちにあたしも楽しくなってきた。

 いつの間にかクロや精霊たちが周囲に集まってきている。


『おちゃのむ!』『ぱんがうまい!』『おひるねをさせてもらおう』


 精霊たちも一緒に遊んでくれる。

 だが、残念ながら、サラには、精霊たちの声は届かない。


「こちらのモサモサのおきゃくさまが、おちゃをおいしいとおおせだ」

「まあ、おかわりもありますの」


 あたしが通訳して、一緒に遊ぶ。

 クロは遊びに参加せず、キャロの隣で眠っていた。


「まあ! 赤ちゃんがおもらししてしまいましたわ」

「りゃむ?」


 どうやらロアが赤ちゃん役に就任し、お漏らししたことになったらしい。

 本当は漏らしていない。ロアはお茶を飲むふりをしていただけである。


「おしりをふかないと!」

「おしめをしないといけないわ」


 あたしとサラはロアを仰向けにして、タオルでお尻を拭く。


「りゃっりゃ!」

「きれいになりましたねー。おしめしますよー」

「りゃ~」


 あたしとサラがタオルをロアの腰に巻くと、ロアは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 ロアには立派な尻尾があるので、うまく巻けないが、まあいいだろう。


 その後、赤ちゃんロアと人形で、一時間ぐらい遊んでいたら、サラがうとうとし始めた。


「おひるねのじかんだ!」

「まだ、だいじょぶ……」


 あたしはサラを抱っこして、寝台へと運ぶ。

 サラと抱きあう形で、お尻を支えて抱っこして歩いていく。


「ふぬー」


 サラは重いが、あたしは剣術訓練をしているので、抱っこすることができるのだ。


 サラを寝かせた後、その横に木の棒人形と赤ちゃんロアも寝かせる。

 あたしも寝台に入ろうとすると、クロが言う。


『少し話があるのだ』

「む? なに? サラ、いいこいいこ」

 あたしはサラの柔らかい髪を撫でながら、クロを見る。


『昨日、みんなで考えたのだけど……。ルリア様に戦い方を教えるのだ』


 クロは真剣な表情でそう言った。

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