第76話 食糧確保作戦

 大人なら、いや、成長した五歳児ならば、二、三日食べなくても我慢できる。

 実際、前世のあたしは、二、三日ごはんを貰えないときも多かったが、我慢できた。

 とても辛いが、死にはしなかった。


「ロアは赤ちゃんだから。がまんできないし。びょうきになるかもしれない」

「たいへんなの」

「そう。たいへん」


 あたしは考える。ロアを満腹にできる量のご飯を素早く確保しなければならない。

 ヤギたちやフクロウたちにご飯を集めてもらうのも時間がかかる。

 明日から、いやお昼ご飯以降ははそれでいいかもしれないが、朝ご飯に間に合わない。


「こうなったら……キッチンにしのびこむしかないな……」


 見つかるリスクはあるが、それが最も確実で早い。


「おこられるかもだけど……ロアのご飯のほうがだいじ」

 サラが真面目な顔でそういって、うなずいた。


「サラがしのびこむ? サラ、あしはやいよ?」

「しのびこむなら、ルリアがてきにんだ。クロのこえがきこえるからな?」

「どういうこと?」「わふ?」

「クロはルリアにしかみえない。だからていさつにさいてき」

「あっそっか!」「わふぅ!」『ふふん』


 サラとダーウが感心している横で、クロはどや顔して胸を張っている。

 クロは、母にも侍女にも従者にも絶対に見つからない。

 だから、クロに偵察してもらって、いないことを確認してあたしが侵入すれば安心だ。


「かあさまが近づいてきても、きづけるしな?」

「……かんぺきな作戦だ」

「そう。ルリアはせんりゃくかだから」

「きゅう?」


 その時、キャロがタンスから取り出したハンカチを首に巻き付け始めた。


「キャロ? ……はっ! それでご飯をはこぶのだな?」

「きゅ!」


 ひと声鳴くと、キャロは窓から雨が降る外に走っていった。


 あたしはタンスから大きめのタオルを取り出した。


「これにご飯をつつむと、たくさんはこべる」

「おお」


 器用で小さなキャロは、誰にも見つからず、ご飯を手に入れて来るだろう。

 だが、いくらハンカチで包んで運んだとしても、キャロは小さい。

 ロアが満腹になる量のご飯を運ぶのは難しい。


「ルリアも、はやくむかわねば。サラちゃん、ダーウ、コルコ。ロアをたのんだ」

「わかった」「ぁぅ」

「あれ? コルコは?」

『コルコなら、さっき窓から外にでていったのだ』

「あめなのに?」


 いつもの巡回に行ったのかもしれない。いや、ご飯を集めに行ってくれたのかも。


「でも、コルコならしんぱいないな」

『心配ないのだ』

「サラちゃん。もし、かあさまがこっちにきたら、ごまかしてな? すぐもどるから」

「わ、わかった」「わぁぅ」


 あたしがいないことがばれたら大変だ。

 サラに時間を稼いでもらっている間に、大急ぎで部屋まで戻らねばなるまい。


「では、いってくる」


 あたしはタオルを腰に巻き、部屋の外へと歩き出す。


「りゃぁぁぁ」


 するとロアが、サラの腕から飛び発って、あたしに抱きついた。


「どしたロア。そんなかなしそうに泣いて」

「ルリアちゃん、ロアはおいてかれるとおもったのかも」


 あたしもサラのように思ったのだが、クロがロアを撫でながら言う。


『……ロア様はルリア様が心配なのだ』

「どういうこと?」

『一人で、どこかに行って敵に会ったり迷子になるかもと思ったのだ』

「そっか、ありがと。サラちゃん、ロアはルリアがしんぱいなんだって」


 赤ちゃんなのに、あたしのことを心配してくれるなんて。

 ロアは記憶が無くてもとても優しい。


 あたしはロアを撫でながら、優しく説明する。

「だいじょうぶ。家のなかだからだいじょうぶ」

「りゃ?」

「うん。すぐもどってくるからね? サラちゃんとダーウとまってて」

『ロア様。ルリア様は大丈夫なのだ』


 あたしとクロでロアを安心させてから、サラに抱っこしてもらう。


「ロア、サラといっしょに、まってようね」

「……りゃむ」

「ダーウもたのむな?」

「わふ」


 ダーウは「まかせろ」と堂々と尻尾を揺らした。

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