地図とちょっと違うけど、利便性最優先。
「何でじっとしてられませんかね、ヴニッチ候」
《ガキみてぇに俺を甘やかそうとするからだ。別に良いだろ、ヴェリカ・クラドゥシャとツァジンを落とす予定だったと、アルモスから聞いてるぞ》
「アルモス候」
『いえ、もしですよ、セルビア州のヴォイボディナ地区をルーマニアやハンガリーと割譲すれば、牽制になるかと。ノービサードとスレムスカ・ミトロヴィッツァ迄をクロアチア州で』
《ハンガリーのセゲドからズレニャニン、ベリグラードまでのコッチをハンガリーに割譲してだ》
「その街道沿いと川のコチラ側をルーマニアへ、何故」
『偽一神教が用いているとして渡して頂いた、この地図。ベリグラードの栄え方からして、ココが要所、要かと』
《力を削ぎ、川沿いを監視出来た方が楽だし、上手く行けば黒海との水路を使わせて貰えるかも知れないだろ》
「ルーマニアは鎖国状態だと」
『ブルガリアと交渉出来れば、ルーマニアも折れるかと』
あら、コレ、正史派どうのこうの言ってられないかも。
《しかもポジャレバツ辺りまで、この街道沿いをブルガリアに譲渡すれば、ルーマニア側に許可を得るのはそう難しくも無いだろ》
『それとオシェイクのコチラ側はハンガリーに割譲するつもりです、橋を建てる余力も無いですし、土地を生かせませんから』
《職人が居れば取り合いになるんでな、殆どは他国に逃げ出した》
『それとチャコベツはスロベニアへ、我々には国家統一より平定を優先すると伝える時に割譲するつもりです。そうすれば逃げた職人達も戻って来るかも知れませんし、そうでなくても近くには住んでくれるかも知れませんから』
「成程ね、けど」
『勿論、クロアチア州の最南端はドゥブロブニクのココまでとし、それ以降の港はそのままに、追い詰め過ぎると反感を買い過ぎてしまいますし』
「その割に、ちゃっかりツァヴタットを入れてるのね」
『ココまでがドゥブロブニクの領地ですから、地図的にも』
《ボスナ・ヘルツェグ州にはこの港街が有るんだ、大丈夫だろ》
窮鼠猫を嚙む、だから追い詰め過ぎない、背水の陣をさせない。
あらー、知将と知将を混ぜ合わせたのはミスったかしら。
凄く魅力的な提案だわ。
「そうね、先ずは休憩しましょうか、更に詳しい情報が欲しいし」
『ヴェリカ・クラドゥシャとツァジン、それとクルパとビハチの情報ですね、どうぞ』
まぁ、どう攻略したかと言えば、セレッサと白銀を使って。
と言うか遊んで貰ったと言うか、ヴニッチ夫人が私になり代わりロッサ・フラウとして夫婦で城攻めをして、ヴェリカ・クラドゥシャとツァジンの領主の首を取った。
そうして州境を下げさせる為、先ずはビハチを制圧。
そのままビハチの領主を連れクルパ向かいへ、そこで領主同士で相談させ、降伏させた。
「ヴニッチ家、優秀過ぎ」
もう私達の支援、不要なのでは。
『エレナ』
《マチルダ、夫から聞いたわ、ロッサ・フラウは怒って無いそうよ》
『そう、良かった、アナタを信頼して無いワケじゃないのだけれど』
《独断と言えば独断だもの、けれど休めと言われて休めないわよね、戦線をもう少し下げないと》
『そうなのよ、ザグレブまでは距離が有るけれど、戦線を下げてから橋を落とした方が安心よね。職人には悪いけれど、燃やした方が目立つし』
《平定されたらきっと戻って来てくれる筈、職人にはしっかり褒美を用意して、また建てて貰いましょう》
俺ら、と言うか嫁同士が意気投合して、こうなった。
だから俺は悪くねぇだろ。
『そうね、けどハンガリーやスロベニアに居るかも知れないのよね。そうなると、向こうの味に馴染んでるかも知れないわよね?』
《どんな料理が有るか、後でロッサ・フラウに聞いておくわね》
《あのな、お前ら》
『アナタ、どうかしたの?』
《いや、後で俺が聞いておくから、お前らはもう休んどけ》
『だそうだから行きましょうエレナ』
《失礼しますわね、マティアス候》
《ぁあ、おぅ》
暫くは大人しくしてくれそうだが。
「ごめんなさい、ウチのセレッサが水浴びに、ココへ行っちゃって」
ロッサが指差したのは、ビロ・ポリエのブシュコ湖。
《トラミスラフかリブノでも落とす気か?》
「いえ、何か本当に、水浴びに気に入ったみたいで。トラミスラフもリブノも落とす気は無いのよ、本当、けれど思いっ切り見られたのよね」
《殺さなかったのか?》
「見逃してたわ、多分、水が汚れるからだと思うんだけど」
《手頃なのがコッチ側に、プロロシュコ湖が近くに有っただろうに》
「ペルチャ湖にも行ったのだけど、何故かブシュコ湖が気に入ったみたいで」
『まぁ、竜のお導きと言う事で、後でトラミスラフを落としましょう』
「ごめんなさいね本当」
赤い染料をペルチャ湖で落とした事で、攻めずに様子を見ていたシニの領主が兵士や領民と共に、スプリトに投降して来た。
川が赤く染まり、コレ以上の争いを恐れての事だとか。
《アレか、セレッサの染料か》
「安全な染料よ、それこそ舐めても大丈夫なのだけど」
『聖なる書に赤い川は不吉とされているんです、スプリトには領主一家と弱った者だけを受け入れ、残りはこのまま南下させましょう』
《噂も広めるんだな》
『はい、ついでに色水も、何ヶ所か流しましょう』
「なら、セレッサ用のとは別で、茜色ですけど良いかしら?」
『お任せします』
そして彼女が行ったのは、染物の色落としだった。
「助かります、色々と試したかったので、丁度良かったですわ」
『綺麗な色ですね』
「コッチが“アカネ”で、コレが“スオウ”と“ベニ”、東洋の色なんですよ」
『東洋の色』
「ザダルが無事に開港すれば、きっと直ぐに見慣れた色になるかと」
『赤がお好きなんですか?』
「いえ、青や緑が好きですね、それに白と黒」
『紫色は?』
「ぁあ、いえ、そうでも無いですね」
『そうお好きでも無いのに、染めて着る理由は何ですか?』
「なら領主のお仕事はお好きですか?」
彼女が好んでしている事は、極僅かだ、と。
赤く染まった手からしても、彼女は神ではなく、どうやら人間らしい。
『いえ』
「まぁ、そう言う事ですよ」
そして竜の目から流れる川、ツェティナがすっかり真っ赤に染まり、オミシュから海へ流れ出た頃。
同領主は降伏した。
《彼の言う通り、綺麗な赤色ですね》
城の裏手、風通しの良い日陰に様々な赤色の糸や布が干されている。
影響力を示す為、威光を示す為の赤。
「ルツにしてみたら保護色よね」
《そう好きでも無いんですけどね、血の色は》
「色んな意味で、よね。けど別に、寧ろ羨ましいと思うわよ、少なくとも有能な血である事には変わり無いんだし」
《なら、子供はどうしましょうか》
「気が早過ぎる、と言うか立ち聞きしてたわよね?」
《アナタと奥方への配慮も兼ねて、ですよ》
「それはどうも、そんなに信用ならないかしら」
《いえ、アナタを信じてますが、寧ろアナタが私を信じて無いですよね?》
「まぁ、誰にでも良い顔をすると言うか、誰にでも色目を」
《少なくともココではしてない筈なんですが》
「そうなのよね、少なくとも私の見える所では、ね」
《なのでいつも見える位置に居ようかと》
「あら上手、成程」
《それにアルモス候は信用して無いんですよ、男として》
「そこは、流石に弁えてるんじゃない?」
《なら誘ってみて、どう反応するか賭けてみましょうか》
「それで来られても困るし、特に欲しい物も無いので却下。はい、終わり、戻りましょう」
《はい》
ローシュから腕を組まれるだけで嬉しい。
確かに、もう泣けないかも知れない。
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