ユーゴスラビア王国。
『で、今日は、ユーゴスラビア王国の事を聞きたいって?』
「それからスイスも、この子の嫁を探さないといけないので、警戒すべきはそうした者と関係している娘さんですから」
『まぁ、そう言う事にしといてやるか。スイスは兎も角、確かにユーゴスラビア王国は不穏だからな』
「オーストリアでも聞きました、なので不安なんですよ、ウチの子に何か有ったら困るので」
ウチの子て。
殆ど年は変わらないだろうに。
『貴族位、名や紋章の奪い合い状態だと聞いてる。印章を作れるヤツが殺されたりだ逃げ出したりだで、新規の印章の指輪が作れないらしい』
「相当、荒れてますね」
『パルマ公が死んだのが伝わっただろう頃からだな、どうやら支援されてたらしい、ウチに来て直接取り引きを持ち掛けられたんだ』
「したんですね、取り引き」
『合法的に奪ったのが代替わりしたんだと挨拶に来てな、印章の指輪と前任者のサイン入りの手紙を持って、ベラベラ話して帰ってった』
「マトモそうなのは?」
『クロアチア州のアルモス候だろうな、ウチと接してる、要は隣だ』
「なら取り引きもなさってるんでしょうか」
『先代からだが直接は無い、比較的穏やかと言うか、確実に俺より上だ』
「成程」
『そこ以外は分からん、気が付けば直ぐに代替わりしてるし、その場限りの取り引きしかしてねぇし』
「賢い選択をなさってるんですね」
『だがスイスは別に構わんだろうに』
「お身内でもいらっしゃるのかしら」
ぁあ、しまった。
知らなかったか。
『アレだ、従兄弟が居るんだよ』
「ほう」
コレ、黙ってる方が女王への背信行為かも知れないと思われかねんな。
『平民だったがスイスに行かせた時に気に入られて、ウチに養子に入れて、婿入りさせたんだ』
「ではアチラの貴族とも繋がりが有るんですね」
『まぁ、向こうも表立っては無いが女系制でな、しかも再婚。従兄弟を守る為と、ウチとの繋がりの為にな、良いヤツなんで粗末に扱われない為だ』
「良く、パルマ公を誤魔化せましたね」
『アンタ、王宮に現れたロッサか』
「王宮に現れたロッサ、とは」
あー、踏み込んじまった。
『今の無しにしてくんね?』
「そうですね、何の事でしたっけ?」
『ぁあ、パルマ公な、アレの指示通りの裏帳簿と品物を渡してただけだ』
「それだけココは豊かだったのか、民からの信頼が有っての事か」
『両方だな、ヤベェのが居るから暫くコレでと。見事に隣の領主が自堕落ぷりを晒してくれたんで、ウチはウチで何とかするか、とな』
「結構、明け透けに、ぁあだからスイスと縁続きに」
『外で大っぴらに言わんでくれよ、信頼関係も大事にしてるんでな』
「どうせ、察しが良い者には逃げた先で伝手を作っておくから頼ってくれ、とか言ってたんでしょう。ウチの弟より姑息で素晴らしいですね、生きるのが1番ですから」
『それ褒めてるよな?』
「勿論」
アレだな、姉って言うか母上だわ。
『アンタはアレだな、母上に似てるわ』
「ふふふ、実はお母様の知り合いかも知れませんね」
怖いわ本当。
良かった、粉を掛けないでおいて。
《母親とは》
「はぁ、面白かった、それだけ恐れてくれたなら不用意な事は言わないでしょうから問題無いわ」
ローシュ、久し振りにずっと笑ってたと思う。
《ローシュ、そこまで私の父親が気になりますか》
「スイスに逃げ込むなり暴れる度胸は無いでしょうし、そも余力も無い筈、国としても大きさからして対処出来る可能性は高い。ならユーゴスラビア王国か、大回りのポーランド経由ならキエフ共和国の神々が知らせてくれる筈、ならやっぱりユーゴスラビア王国じゃない?」
《ですがハンガリー経由も有り得ますよ》
「他の神を恐れてるからこそ自分達の国を作ろうとした、自分達の為に神々を追いやった、やり返される事を恐れてる筈だから可能性は低い筈」
《どうして言い切れるんでしょうか》
「向こうでの事を鑑みて、虐げたから虐げられる事が怖い。それに神々経由で知らせてくれる筈、行きたくないならアナタがスイスかハンガリーに行けば?」
『ルツは、ローシュを心配してるんだよね?』
《はい》
「ならアシャになら行かせた?誰になら行かせられるの?」
ルツは父親と国の事、ローシュも同じ事を気にしてるけど、少し方向が違う。
向いてる方向は確かに同じなのに。
《信用しています、信じています、ですが心配なんです》
「何をどう心配してるの?」
《言い難いんですが》
「色目を使う事?何が悪いの?」
ルツが外交手段として使ったから、自分もする。
して欲しく無いなら、しなければ良かった。
《間違っていました》
「口説いていた女に聞かせる事がね、それ以外には別に間違って無いと思うけど、私が口説き落とされるとでも思ってるの?」
利益になるなら、前のルツなら許せてた。
自分のモノだから。
けど今は違う。
《例え利益になるとしても、出来るだけ避けて欲しいんです》
「そっ」
『ローシュ、それだけ警戒しろって事だよ、あのユーゴスラビア王国の貴族なんだから。どんな手を使うか分からない、それだけ気を付けて欲しいんだよ、ね?』
《はぃ》
「信じてくれないのね」
『違うって』
「違くない」
『じゃあローシュは自分が良い女だって認める?』
「そ、なら」
『だからルツも上手く出来なかったんだし、ローシュも、もしかしたら僕と仲違いさせられるかもだし、ね?』
「仲違い、まぁ、確かに想定外だったけど」
『ね、予想しない事も起こるかも知れない、だから迂闊な事はしない様にしようね?』
「まぁ、気を付けるわ」
『うん、準備しよう』
本気で意味が分からない。
確かに、仲違いさせられるかも知れないのは想定外だけれど。
利益になる為なら、別に。
ルツだってしたのに、どうして私はダメなの?
《納得してませんね》
「そらね」
《好きだから心配してるんです》
「で、好きだから嫉妬させようとするのね」
分からない。
私は嫉妬するのは嫌なのに、どうして。
《気を引きたかったんです、アナタの》
「稚拙が過ぎる」
《私もそう思います、2度と同じ行いも、似た事もしません》
「では何故、そう考えが変わったの」
《先日、あの領主とアナタを見て、どの様な気持ちになったのかを理解しました》
「は?」
『気が合ってたじゃない?』
「アーリスまでそう思ってるの?」
『夫婦って言うか、やっぱり親子か兄弟かな?』
「ほら」
《全く同じでは無いですが、ローシュが不快に思った理由が、良く分かりました》
「別に、似合うと思ったのは本当よ。穏やかで優しい、頭も良いアシャ、アナタがモロッコで生まれ育ってたら結婚したでしょう」
《いえ》
「何故言い切れるの、と言うかそれ程の想像力が有るならどうして」
『ローシュ、ルツは童貞だよ?13才の子には難しいんじゃない?』
「50年は生きてるでしょうが」
《すみません》
「もう良い、ほっといて、寝るわ」
それこそ逆に、もしかしたら母親は手紙にすらも嘘を書いてるかも知れない、それはルツをユーゴスラビア王国から遠ざける策。
そうなれば父親すら犠牲者かも知れない。
けどもし悪人で、まだ生きてるなら、内緒で殺さないと。
『大丈夫、記憶の食い違いのせいだよ、思い出せばきっと分かってくれる筈』
《なら、良いんですが》
『もうちょっとで船が着くし、そしたら怒ってるか聞いてみたら良いよ、きっと怒って無いよ』
トリエステから船でユーゴスラビア王国のクロアチア州の港、リエカまで。
トリエステ領主の好意により、私達はイタリアから来た貴族だとして船に乗り、そのままクロアチア州の領主アルモス候の城まで。
城の有るザグレブまでは馬車で。
コレであの領主が裏切れば、キャラバンに領主交代をさせるか、殺させるか。
《だとしても、すみませんでした》
『誤解は解きたいものね、仕方無いよ』
《それでも、早計でした》
『好きだった頃の名残り、まだ残ってるって事だと思うよ?』
《だと良いんですが、このままだと愛想を尽かされそうで》
『好きの反対は無関心だってローシュが言ってたよ、僕もそう思う。だからほら、怒ったり悲しんだりしてるんだし、大丈夫』
まだ、辛うじて繋ぎ止められているだけ。
『如何でしたか、ココまで』
「馬の早替えが見事でした、早く輸送するにも素晴らしい手段ですね」
『ですが休憩もままならず大変でしたでしょう、お食事は部屋に届けさせますから、ゆっくりしていって下さい』
「お気遣い頂きありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きますね」
『いえいえ、では』
不思議な香りと気配を纏った3人の貴族が、私の領地にやって来た、今はイタリアと名を変えた国から。
パルマ公の知り合いかと思ったが、あの馬車移動を喜ぶとは。
《男性は白い肌に赤い髪、緑色の瞳、もう1人は黒髪に青い目。女性の容姿は真っ直ぐな黒髪に黒い瞳、肌の色は蜂蜜色》
『ヘレナ、白では無いんだね』
《はい、お顔からも東洋か東欧かと》
『成程、すまないね、侍女の格好をさせて』
《いえ、楽で好きですよこの格好、なのでもう少し事情を探らせて下さい》
『頼むよ、けれど殺されない程度に頼む、私には君が必要なのだから』
《勿論》
トリエステの領主が送り込んで来た客人は、どちらなのか。
善人なのか悪人なのか、賢人か愚者か。
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