大喧嘩。
クーちゃんが居なくなった事で、油断していたのかも知れない。
皆から愛されているね、と。
そう言われて信じ込みたかっただけで、ルツは単なるサイコパスで、私は上手く使われるだけの駒で。
最初は警戒していたのに、また、騙されたのだろうか。
「アシャ、少しこの場を借りて、私的な事をルツと話しても良いでしょうか」
『私は良いけれど』
「ルツ、真意を聞かせて欲しい」
《何の、でしょうか》
「全て」
《全て、とは》
「結婚も愛も、国に尽くさせる為、利用する為だったのか。そもそも、最初から、そうするつもりで」
《ローシュ、少し何か、誤解が》
「作戦は実行します、だから正直に答えて、聞いてたのアシャとの事。忘れる努力はする、恨まない様にもする、だから正直に答えて」
《私は、アシャとは何も有りませんよ》
「そう言うしか無いものね、気持ちが有るか無いかは証明不可能。アナタは頭が良くて理性的、私を利用する為に口説いたのかも知れない、それは良い。でも、手放しても良いとするなら、なら結婚なんて言わないで欲しかった。既に1度失敗してる私を思うなら、そんな事を言わないで欲しかった、そんな事をしなくたって私は」
国にも尽くすつもりだった。
王も好きだし、土地も好きだし、神様も好きだった。
前の世界で出来なかった事を、国の為にも、あの子の為にも。
『あの、多分、本当に誤解なのよ』
『そうですかね、少し違えば王と女王ですよ?』
《ぁあ、そう誤解しているなら、本気で誤解を解かせて下さい》
『確かに私達はソロモン神とシバ女王の様だと言われていたわ、けどお互い似た者同士って意味で、好意は全く無いのよ。今も昔も』
《はい、全く。寧ろお互いに相手を如何に利用するか、例え敵でも抱かれる女がアシャ、敵でも抱くのが私だと。そう言われていただけですよ》
『もっと言うと私が如何にルツを得るかで、大騒ぎしちゃったの、だってココに雨を沢山降らせたかったの。けれど私は王族だし、ココに根付く運命だから、雨を降らせる魔法が使えないって』
《能力かココへ来るか、それか真の首席の座を譲ってくれと、ウェザーメイカーの能力が欲しいだけなんですよこの人は》
『そしてルツは国の為に良い人材を探していただけ、私もそう。しかも交流期間は半年も無いし、男女は魔法によって住居ごと別れてたの。話したのなんてその騒動の時と、2人だけで会話した事は無いわ』
『ウムトが来る前、僕も聞いてたけど、2人だけの声しか聞こえなかったよ』
『ぁあ、他の者がちゃんと居たのよ』
《王侯貴族の方々ですよ、コチラ側の
『有るわよ、贈り物と一緒に記録させてるの』
《助かります》
「息がピッタリお合いで、流石似た者同士だと言われるだけの事は有りますね。そんな記録だけでどうにかなるとお思いで、そうですか、大変失礼しました、下がらせて頂きますね」
『そんな、待ってローシュ』
『だから言ったのに』
『ふふふ、悪手だったねルツ。ローシュが言う通り、疑わしい程に完璧なかばい合いだった、長年連れ添った夫婦みたいにね』
ぁあ、コレで殴る様な人じゃない筈なのに。
本当に愛しているのか、ローシュを。
『本当に違うのよローシュ、そう、ディオーネ様に』
「私用は自らに禁じてますのでご理解を、言い触らす事も作戦を止める事も致しません、それともギアスを使えば宜しいですかね」
『そんな、本当に誤解なの』
「どうあってもそう言うしか無いのでは?」
『それは、そうだけれど』
「私がウェザーメイカーの役目を引き継ぐなりなんなりしますよ、だからどうぞルツを大事にしてあげて下さい。私ではさぞ不便を強いるでしょうから、毎日会えますよ、最高なルツにね」
『それは他の』
「仮に他の王侯貴族の方が居て、あの言い方で、私が嫌な気持ちにならないとでも?なら期待外れですいませんでしたね、申し訳ございませんでした」
『その、アナタがルツの相手だとは』
「そう知らせなかったルツが悪いですね、はい、分かりました。どうぞお好きになさって下さい、ルツの方もそれで良いと言ってましたし、どうかもう関わらないで下さい」
《ローシュ》
「アナタにも言います、もう関わらないで下さい、もう私を引っ掻き回さないで」
《引っ掻き回してたのはウムトです》
『それ違うよルツ、だから言ったじゃん、こうなる前に話し合えって。その時にも居たんだよローシュは、話し合う為に近くで待ってたの』
《そんな、アレは違っ》
『じゃあ先ずはさ、アシャにローシュが相手だって伝え無かった理由は?そうしたら、アシャももう少し言い回しを気を付けたんじゃない?』
『もう言い訳にしかならないけれど、ちゃんと』
「だとしても、ルツはワザとやったんですから、どうかお気になさらず」
《それは謝罪します、理由が有るんです、私のせいで不自由な人生を選んで欲しく無かったのと》
あら。
雄弁だと噂だったルツが口籠もるなんて、まさか、本当に。
「と?」
『嫉妬して欲しかったのね?』
《アシャ》
「はいはい、もう息が合うのは良く分かりましたから、もうほっといて」
ぁあ、私が余計な事を言ったせいで、本当に扉が閉められてしまった。
『そう長年連れ添った夫婦みたいなの、本当にもう止めた方が良いよ』
『ごめんなさい』
《ウムトにも言われたので殴っておきましたが、本当に違いますからね》
『もうそう言う問題じゃないんだよ、本当にお似合いだって事を、言動でソッチが示したんだもの』
ぁあ、コレ、私どうしたら良いのかしら。
『ごめんなさい、そうじゃないの、同志的なもので』
『そう説明しても逆効果だよ、愛情関係無しに夫婦になるべき、王侯貴族では常識だよね』
『そう、私が王族だから』
『しかも頭が良いなら分かるでしょ、ルツも、自分が逆の立場ならどう思う?』
《ローシュが私より賢い、素晴らしい王族に認められて子を請われたなら》
『見合うのかも知れないって、居なくても死なないって、どうして言っちゃったの』
『強がりだったって正直に言いなさいルツ、ローシュの為に強がったって』
『でも無駄だよね、自分達はソロモン神とシバ女王の様に他人を利用するって、言っちゃったんだし』
『違うのよ、その当時は愛も恋も分からなかっ』
コレ、私が言えば言う程、ルツとお似合いだと思われてしまうし。
けど私はもう、本当に恋も愛も知ったからこそ、そんな事はしてはいけないと知っているのに。
けどもう、何を言っても。
ぁあ、何て事なの、本当にルツとローシュの幸せを願ってるのに。
『アーリス、どうだいコレ、名誉の勲章じゃないかな』
『ウムト、引っ掻き回すなって言ったよね、僕』
『膿み出しには痛みが伴う、理解には話し合いが必要。仮に私が何もしなくても、いつかは膿んで、腫れて、膿みを出さなきゃならなくなった。違うかな?どうしてアシャ様の事を言わなかったのか、どうして離れる事も検討すべきなのか、その説明をルツはすべきだったんじゃないかな?』
『だとしても、時期とか機会とか』
《ローシュを手放したく無くて、離れて行動すると言う選択肢が私の中に全く無いと、そう思わされる出来事が有ったんです。冷静に、良く考えればそうすべきだと理解出来るのに、その時には全く思い付きもしなかった》
『それだけ好きなら』
《だから怖くなったのも有るんです、離れて何か有った時、私のせいで判断を誤って欲しくない。アシャの事も、言えばいずれは噂に辿り着き、私がローシュを利用する為に口説いたと再び誤解されるかも知れない。私自身もソロモン神の血が本当に流れているかも知れないと、その事を言うのにも、凄く躊躇いが有ったんです》
『ルツは不器用過ぎないかい?』
《自覚してます、だから大事な事で悩んでいる時に、悩ませたくなくて》
あら、扉が。
「アナタとアシャが知り合いだと分かった瞬間に、お似合いだなと思ったの、そうあるべきかも知れないと思ったの。少し嫉妬して、そう普通だから、余計にお似合いだろうと思ったの。私は石ころだから、金や銀にそこらの石を填め込む人は居ないでしょう、その位に私は私を石ころだとしてるの。だからお似合いだなと、さっきのも、私とルツではあんな風にはならない。ルツが合わせてくれてるだけ、それはいつか重荷になる筈、だからルツの条件を飲む。忘れて切り離して好きな様に生きます、私にはアーリスが居るから大丈夫、さようなら」
ダメよ、私のせいだからじゃなくて。
ダメ、ルツも愛や恋を知らなかっただけ、そうして長く居過ぎてしまったから。
あぁ、神様、女神様精霊様、お願いですから誤解を解いて下さい。
《凄い拗れとるんじゃけど、解いてもええじゃろか?》
ディオーネ様。
何か、ドアから生えてるみたい、体半分こ。
あ、開いた。
「ダメです、ラウフェンの、だけでは無く神々は総じて口が上手くてらっしゃるので」
『いやココはウチのルツの為に言わせておくれ、そして君の為にもね、ローシュ』
『あぁ、お願いします神様、どうか紐解いて下さいませ』
アシャは驚くよりも本気で懇願しているし、ウムトは驚いて固まってるし、ルツはもうずっと床に蹲ったままだし。
ローシュは、ドアの隙間からコッチを見てはいる。
『ルツ、請うべきは君の筈だ、何を遠慮しているのかな』
デュオニソス様、笑顔だけど目が笑って無いし、声が凄い怒ってる。
《デュオニソス様、コレからも私やローシュが見誤る位なら、ローシュが死ぬ位なら》
『見誤る、とは何だろうか。愛や恋が目を曇らせ、思考を鈍らせると思うのは勘違い、だとは思わないんだろうか』
《ですが、私はローシュを》
『ローシュに作戦の虚を突かれて拗ねてる様にしか思えないよ。あの時、君は自分の気持ちを素直に言うべきだった、恥とせずにローシュ言えば良かっただけ。あまりにも離れたくないからこそ、そうして分かれて行動する事が頭に無かった、それ程にも愛している。とでも言えば済んだのに君は本当に愚かだよルツ、君は愛していると言うよりも自分の恥を隠す事を優先させた、ローシュが愛しいと思ってくれると知っていたのに判断を誤ったのが本当に僕は許せないよルツ』
デュオニソス様、凄い怒ってる。
やっぱり神様って息継ぎしないで良いのかな、凄い、後で真似してみよう。
《アレじゃよ、かのパルマ公が必死で口説こうと愚かさを見せた時に、ローシュは可愛いとかんぐぐぐ》
「私を巻き込みながら私の愚かさまで暴露しないで下さいディオーネ様」
『そう愚かな事かなローシュ、僕にしてみたら慈愛だとも思うよ、愚かさを切って捨てぬ優しさ。何でも愚かだと切って捨てていたら、いつしか世界中が選民思想に辿り着き、果ては神は死んだと叫びなら人々が処刑し去勢する様になる。かも知れない』
「近年では、力への意志はニーチェの著者とは」
『妹が寄せ集め、書いたとされてるんだろう、かの独裁者の為に』
《もう、アレじゃよ、ルツ坊とアシャは確かに似ておったが、問題は愛も恋も同じく知らんかった事じゃ。じゃがアシャは結婚し愛と恋を知ったが、ルツ坊はまぁ、こうじゃし》
蹲ったままだもんなぁ、見た事無いよ。
それこそ大人がこうなってるの、初めて見るかも。
『ルツ、子供みたいだね?』
《分かってます、だから余計に恥ずかしいんです》
『ルツ、愛って時に恥ずかしいんだよ、それが正しい場合も有る。ね、ウムト君』
『はい』
はい、だけ。
ウムト凄いビビってるじゃん。
『何でウムトは凄いビビってるの?』
『あの、私が、良いかしらね?』
『あぁ、うん』
『この地にね、山の方に行くと神殿が有るのよ、そこにはバッカス様もだけどオルフェウス様もモザイク画で描かれているの』
『ぁあ、オルフェウスの事で恐れてるんだね。そう、僕のマイナスに何を悪い事をしたのかな、この吟遊詩人君は』
デュオニソス様に向かって神とはアポロン様だけだーって言って、デュオニソス様か
可哀想過ぎるからってアポロン様が琴座って星座にした、って言うけど、どう考えても面白いからって星座にしたとしか思えないんだけどなぁ。
『いえ、どちらの神も私は神だと思っております。ただ少し、傷口を浅く見積もってしまったかも知れないと、そう反省しています』
《まぁ、元はコヤツの意地っ張りが原因じゃし》
『以降はルツが君の初恋の時よりも繊細だと考慮して慮ってくれたら死に目を引き千切りの刑に処された様な状態にはしないと誓っても良いかも知れないね』
一息で、凄い。
《お主は良く頑張ったぞアーリス、流石は風の子じゃ》
『僕って風の子だったんだ?』
『例えに近いけれど、そうだね、君は善の風の子だ』
《じゃが、じゃよね、他国で大騒ぎをしおってからに》
「すみません」
『いや、ローシュの気持ちは痛い程分かるよ、僕も同じ事をアリアドネに言われたらと思うと。分かるよ、大丈夫、君は何も間違ってはいない。すまないね、僕やアリアドネの躾が行き届かなくて、だからルツにも試練を与える事にするよ』
「いや、いえ、もうルツの事は」
『ダメだよ、怒りで我を忘れて良いのは戦いの時だけ、でもコレはもう既に和平交渉の段階。このままではルツだけじゃなく君は傷付いたままになる、だからその絡まった紐を解かせておくれ、でないと君の心にそのまま食い込み、果ては引き千切れてしまうよ』
『ローシュ、痛そうだし、解くだけ解いてみよう?』
「解く、だけなら」
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