自信。

 モロッコへ飛んだのは良いけれど、いきなり王族の方に会う事になり。

 話し合った結果、魔道具の姿見を設置しルツ達も呼ぶ事に。


《お久しぶりです、アシャ》

『相変わらず若々しいわねルツ』


《魔法学校の同期生なんですよ》

『2つ有って、私はコチラの、だけれどね』


「えーっと、ソロモンさんの?」

『そうなの、あぁ、皆さんも寛いでくれて良いわよ』

《どうも》


 こんな事態になってるのにアレだけど、ジェラシーだわ。

 似合うのに、どうして。


 いや、ルツはルーマニアを守る為、アシャはココを守る為。

 ソロモンさんとシバ女王と同じ状態になってしまうものね、けど勿体無い、似合うのに。


『でだ、私から説明させて貰うけど良いかなローシュ』

「お願いウムト」


 何かもう、実は心配のし過ぎで、単に空回ってるだけかも知れないのよね。

 いえ、それはそれで良いんだけど。




『黒く塗った部品を漁船に乗せるか牽引し、アソーレス諸島か、どちらかの領地で組み立てているかも知れない。船乗りとしては安全の為にも黒く塗ってはいけない、夜間航行をしてはいけないと当たり前になっているけれど、犠牲を出してでも目を欺こうとされれば見落としているかも知れない。とね』


 ネオスやアーリスの為に、ウムトが説明する事に。

 ローレンスにも聞かせるか悩んだのですが、未だ建造中であれば探って貰う必要が有る、出来れば乗り込んで燃やして欲しいんですが。


「でも、取り越し苦労かも知れないな、と」

《ですが、神々や精霊は》

《アレじゃ、天使除けがなされとる領域は神性は不可侵じゃし、船に施されとったら探知は不可なんじゃよ》


《セレッサ》


 ローシュの様に小首を傾げて。


《存在に触れとらんで、良く分からんのじゃろ、見知らぬモノの存在を感じ取るのは神にも不可能じゃし》


 そうだとでも言うかの様に、セレッサがローシュの周りを。

 何を考えているのか、少し暗いと言うか。


《ローシュ》


「悪として考えた最悪の状況の1つとしては考えたのよ。けど、もし善意で何か他に理由が有るなら、それこそ膿み出しの為なだけで。もし、犠牲を出さない為の何かの作戦なら」

《なら先んじても問題は無い筈、その可能性も含めて先住の方にご説明すれば良いだけでは》


「向こうの様に渡来のモノを歓迎するなら、区切りとして受け入れるなら、滅びを享受するなら止められない」

《動きましょう、アーリスと行って下さいローシュ》


「そうね、先ずは確認してみないとね」


 そうして私はココに残り、ウムトは船へ。

 そしてローシュはアーリスとネオスと共に、ロウヒの家へ。




《あら、もう恋しくなってくれたのかしら?》


「ロウヒ、コレから少し先の不安な事をお話します」

《そう、心して聞くわ、どうしたの?》


 彼女が言うには新大陸で偽一神教者が騒動を起こすかも知れないと、それこそ向こうの世界で有名な魔女裁判を同じ地で起こし、各地に散らばる信者を一斉蜂起させる為に。


「若しくは、この地で起こすかも知れない、もっと言えば同時に起こすかも知れない」


《そうして騒動を起こす理由、狙いは何なのかしら》

「魔法の消滅、そして医療や科学の発展の為か、自分が使えないから自分と周りを同じにしたいのか。ハッキリ言って、全く分かりません、全ては私の想定です」


 魔法の無い世界から来るとされる、御使い。

 彼女は凄い魔女だとは思ってたけれど、どうやら御使いの様で。


《その、アナタはココをどう思うのかしら?》

「私は周りに恵まれているので、とても良い世界だと思っています。なので悪しき御使いと思われる者が、何故騒動を起こすのかは、私には全く分かりません」


《そう、だからこそ守りたいとも思ってくれているのね》

「守れるなら、はい。ですので隣りの自治区について、何か聞ければと」


《そう、そうね、ちょっと待っててね。うん、はい、私の作ったジャムと私を示すククサ。コレを渡せば私の知り合いだと分かる筈、行くのよね、東欧の黒い魔女さん》


「私を知ってたんですか?」

《いえ、けれど繋ぎをと言わない時点で既に繋がりが有ると言う事なのだろうし、そうなれば私に念の為に筋を通してくれただけだと思ったの。隣りの自治区が他の国の者と関わる事は、そう多くは無い、なら少し前に組まれた同盟に関わるのかしらと。そしたら限られるじゃない、御使いを管理させる同盟を訴えた国には竜が居る、そして隣りにも竜。ブリテンの方かもと思ったけれど、隣と繋がりが有るのは寧ろルーマニア、簡単な推論よ》


「参りました」

《ふふふ、そう隠す気も無かったのでしょう。さ、もう行って、騒動を起こされたらどこまでも地が荒れてしまう。人々の為、私やアナタの為にお願いね》


「はい」




 セレッサの手の中でローシュが大事に抱えてるのは、ロウヒから貰ったジャム。


『何で影に入れないの?』

「もしかしたら発酵させて楽しむのかも知れないなら、こうしてた方が良いから」

『フルーツワインですか?』


「かもだし、まぁ良いじゃない、向こうまで特に何も無いのだし」


 変。

 ルツとアシャが挨拶してから特に変。


『ローシュは何を気にしてるの?』


「何か間違えてたら嫌だなと、見落としてたら嫌だなと思って」

『それは全員の責任じゃない?』


「いえ、コレで何か見落としや間違いが有ったら私の責任、先を知ってて考える力も有るんだもの。馬鹿だけど、ココでは良く考えられる方だとなってるのだし、その分だけ私に責任がある」

『でも神様でも何でも無いんだよ?』


「そこよね、本当にただの石ころなのに、こんな立場に居る。そこが間違いなのよ、出来無い側なのに出来無いといけない側に居る、でも無視出来ない。大きくて重い責任が有ると思ってしまってる、そうじゃないかも知れないのに、その判断をしなきゃいけない」

『僕は間違って無いと思うよ?何も無ければそれで良いし、心配したり考えろって、備えろって言うのは間違って無いと思うよ?』


「けど、そうする事で余計に一神教を拒絶されても嫌だなと。生きてく場所によって少し考え方や生き方が違うだけで、それと同じで宗教に良い悪いも無い、なのに悪いのが来るかもと言ってしまったら」

『僕もネオスも居るんだし、誤解が無い様にする、足りなかったら足せば良いんだから大丈夫。ね?』

『はい、足り無さそうだと思ったら言います。それでも拒絶するとなったら、その地の者が決めた事、きっとローシュでは無くても同じ結果になると思いますよ』


「ありがとう」


 ダメだ、他にも悩んでるのに、全然言ってくれない。




《風の精霊ムジェから話は聞いているよ》

「あの」


《病も無いと聞いている、それでも滅ぶなら滅ぶんだよ私らは》

「それが嫌なので離れていたいのですが」


《全てを拒絶し、隔離は無理だ、濁って腐る。人も水も風も流れてこそ、受け入れる者を我々は選んでいるだけ、さぁおいで。まだ寒いんだ今の時期は、火に当たりなさい》


「ありがとうございます、あの、コレを」

《ぁあ、西の魔女のジャムは上手いんだ、クルミの樹液を煮詰めてるんだよコレは》


「へー、クルミも樹液が取れるんですね」

《樺のより食べ易いんだ、ほら、食べてみなさい》


「いえ、作り方を教えて貰うので大丈夫です。じゃあコレは」

《ククサか、もう分かってると思うが私らは北限の、ソッチで言う先住民族。サミーだサハだと分かれては住んではいるが、アイヌも私達と同じ、こう生きてる者達。ただ違うのは海に覆われてる事、そうして国、として生きねばならん地の者と繋がりを持っているに過ぎない。どうしても対話は必要だよ、話さなくては分からない事も沢山有るからね》


「はい」


《ぁあ、ディーマが来たか》

『すみません、どうも飛ぶのは苦手で、少し遠くに降りたんですよ』


《全く、服を着るか走るかどっちかにしなさい、どっちも不自由してどうするんだい》

『すみませんどうも、お久しぶりですね』

「はい、どうも」

『どうも』


《コレを連れてくかい》

『ダメ、セレッサが居る』

『あぁ、どうも、こんにちは』

「ブリテン、更に西の島国の竜なんです」


《それでか、不思議な色なワケだね》

『僕らは地味と言えば地味ですからね』

『良いの、僕は戦う為だもの』


《腹が青いんだろ、良い色だよ青は、良い空の色だからね》

『僕の腹は白ですからね、ありきたりでつまらないと良く言われてるんです』


《白なんざ季節の半分は見てるんだ、青は貴重だよ》

『だそうで』


「あの、コチラに来る事や騒動は無いとは思うんですが」

《逃げる為だけなんだろうかね、アンタの為かも知れないよ》


「私の?」

《食い物が違うだろう、それこそ言葉も草木も、草木も違えば色も違う。湖の魚は海では生きられない、そう元の場所に帰してやった方がアンタの為になる、そう思ってるのかも知れないね》


「かも知れませんね」

『ローシュ』


《何を悩んでるのか、聞かせてくれないなら行かせられないよ。私は神でも精霊でも無い、だが何かを抱えている事は分かる、それは何だい》


「あの人は、とても頭が良い、とても理性的な人です。叶わない恋だと判断した時点で諦められる程に頭が良いんだと思います、だから、私には良い点しか無いから好きになれたのかも知れないと。もしそうだとしても、流石だなと感心しますし、上に立つ者ですから当然だとも言えます。分かっていたし良い点だと思っていた、でも本当に私では無くても良かったのかも知れないと突き付けられた時、本当に一緒に居るべき人と居られる様にすべきだと思ったんです」


 アーリスが気にしていたローシュの悩みとは。


『アシャ様の事ですか』

「ソロモン様とシバ女王が本当に好き合っていたとしても、一緒に居る事は叶わなかった、それと同じだったのかもと思うとね。寧ろどうにか叶えるべき、それこそ正しい道なのかも知れないと思って」


《正しいとは何か、だ。お前の心配する宗教の者もまた、正しさに囚われていると思うが、それは正しいのだろうかね》


『私が思うに、結果、後で分かる事だと思います。正しいとするのは、今から先に生きる者が決める、考える事。最善を講じても失敗する事はあります、ですが間違いでは無い筈です、最善を尽くしてこそ正しさとなるのだと思います』


「私にとっての最善は、執着せず、相手の為を思い手放す事でもある。だから、ネオスにとっても良い場所なら、住み着いてくれて構わないからね。ディーマ君、ネオスをお願いします」

『待って下さい、話し合って下さいルツさんとアシャ様と』


「上手く考えてからね」

『そんな、もしかしたら思い違いかも』

《どうしたって否定するだろうよ、利が無ければね。なら策を練って真偽を見極めさせた方が早い、人は人の心を、己の事を全て理解している生き物では無いんだよ》


『だとしても、それは過去で』

「過去だった、かも知れない。ありがとうございます、お邪魔しました」

『いえいえ、またいつでも来て下さい、次はレバーを用意しておきますね』

《あぁ、それは良い、食べにおいで》


『待って下さいローシュ』

「違うなら思い違いだとして前と同じ様に元に戻るから大丈夫、はい、カバン。頑張ってね、元気でね」

『じゃあねネオス』


 セレッサの膜に拒絶され、置いて行かれた。

 私はまだしも、ルツさんを手放してローシュは幸せになれるんだろうか。


《ほら、めそめそするんじゃないよ、お前は愛されてるからこそココに居るんだ。ディーマ、端まで送ってやんなさい》

『はいはい、ちょっと待ってて下さいね、服を脱がないと破いてしまうので』




 アンジェリークと合流して、ローシュ様とお別れする事に。


「王様、この子に手を出したら嬲り殺しますからね」

『丁重に可愛がるよ姉上。宜しくアンジェリーク、ファウスト』

『宜しくお願いします』

《宜しくお願いします》


「それと、この子は刺繍職人の子、この子も丁重にね」

『はいはい、すまんね忙しない人で、宜しく頼むよ』

『“宜しくお願い致します”』


「良い子でね、元気でね」

『はい』

《ローシュ様も、何か元気無いですよ?》


「お腹が減ってるからかも知れないわ、今日は忙しかったから」

《美味しいソーセージ沢山作って待ってますから、無事に帰って来て下さいね》


「ありがとう、じゃあね」


 そう言ってセレッサの手の中に収まって、黒海に戻っちゃった。


《王様、どうしたらローシュ様が安心して、落ち着けますか?》


『まぁ、先ずはお前らがココに良く馴染んで、元気にデッカくなる事だろうな』

《もー、だけじゃなくて、僕らには何も出来ませんか?》


『国は家だ、家を綺麗に守ってやんのも凄く大変で大事な事だからな?』

『あ、苗、刺繍の前に作付けしないと』

《ですね》


『そうそう、出来る事から始めて、そっから増やすもんだ』




 船には私とローレンス、そしてアーリスだけ。

 コレは、絶好の機会なのでは。


『ローシュ、何が心配なのかな』

「ルツとアシャがお似合いだと思って、ウムトもそう思わない?」


『ぁあ、君でも嫉妬や引け目を感じるんだね』

「意外にも普通なのよ、ガッカリしてくれたかしらね」


『そう女らしい弱い部分は、凄く、そそる』

「あら逆効果だったわね、残念、おやすみなさいウムト」


 たったアレだけの会話でココまで深く考えると言う事は、それだけルツを愛しているんだろう。

 けれど同時に手放そうともしている、愛ゆえに。


 ぁあ、そうか、ソロモン神とシバ女王を重ねてか。

 成程、面白い。


『ローレンス、話し合おう』

『何を、ですかウムトさん』




 アシャ様とルツさんが、もし、好き合っていたとしたら。


『まるでソロモン神とシバ女王みたいだろう』


『だとしてもアーリスが居ますから付け入る隙は無いですよ』

『果たして、本当にそうかな』


『一応聞きますが、どうしてそう思ったんですか』

『アシャ様とルツをくっ付ける為には、アシャ様の代わりにローシュがなるだろう、そうすればルツはアシャ様とルーマニアに行く。そして寂しいローシュを慰める役に、アーリスは勿論、君や私も加えられる可能性が出る。王族は妾を持つもの、だからね』


『そう上手く行きますかね』

『動きを監視するにモロッコは良い立地だ、直ぐにも動けるし、御使い様を支援する組織を作るにも王族の方が動かし易い』


 アシャ様はルツさんと同じく、ソロモン神を祖とする魔法学校のSolomonariソロモナリアだそうで。

 どの立場的にも一緒には居られなかった、そう考えるのは妥当だとは思う。


『どう確かめるんですか、気持ちを』

『忘れさせたら良い、ローシュの事を忘れて過ごせばどうなるかを見れば、聞くよりは正確な答えが出せると思うよ』


『それは』

『ローシュの為だよ、真の愛を知っているからこそ、抜け漏れの無い愛でなければ彼女は満足しない。だからこそ悩んでると思うのだけど、君は同じ立場だったら甘んじるのかな』


『俺は、だとしても手伝えませんよ』

『そう悩んでいるかを君が確認してくれるだけで良いんだよ、きっとローシュは確かめるかどうか、その方法でも悩んでる筈だ。だから君が尋ね、意識させる、考えても良いと背中を押してあげるだけで良いんだよ』


 彼は商人。

 しかも5人もの妻を持つとさえ言われる凄腕の商人、実に口が上手い、少なくとも俺はローシュに確認して欲しくなった。


 自分が付け入る隙の為じゃなく、ローシュの納得の為、何かしら動いて欲しいと既に思ってしまっている。

 ルツさんに気を付けろとは言われていたけれど、ココまで凄いだなんて。


『考えておきますね』


 そう考えられる時間は僅か。

 スペインに着いたら何も出来なくなってしまう、ローシュにもルツさんにも。


「ローレンス、どうかしたの?」

『ウムトさんに、3つの試練が課せられてるんですよね』


「まぁ、うん、そうだけど」

『俺にも課して貰えませんか?』


「例えば?」

『生きて戻る事、しかも洗脳も無しに無事に、そして地図を得て帰って来る事』


「そう地図よりアナタの命が優先だから、最後のは却下ね」

『アーリス、何か良い案は無いかな?』

『それこそ何か、魔道具でも良いんじゃない?』


「ぁあ、けど」

『子までは望みません、けど偶にで良いので愛して欲しいんです』


「1つ、無事に生きて戻る事。2つ、地図か魔道具か何かを得て帰って来る事。3つ目は、その2つがこなせたら教える」

『うん、だから無事に帰って来ないとね』

『はい』


 俺が出来る事は、この位。

 本当ならルツさんにも3つの試練を、と言いたかったけど、俺は生きて帰って来れないかも知れないから。


「えっ、ちょっと待って」

『良いじゃん、ルツとは3人で良くしてるんだし』

『えっ』


『大丈夫、大丈夫、慣れたら楽しいよ』

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