問題が山積み、海割れ。

「ルツ、問題が山積み、の反対って何だと思う?」


 ローシュは偶に不思議な問い掛けをしてくる。

 最初は何か試されているのかと思ったんですが、単に疑問に思った事を口に出しているだけだ、と。


 対義語が無いなら作れば良い、そこにも頭の良さを感じて愛しいと伝えていたんですが。

 どうにも外見崇拝主義の洗脳が強く、信じて貰うまでに時間が掛かってしまい。


《反対なら海、なら、海割れ。ですかね》

「ぁあ、十戒のアレね、陸路隊なら良いけど海路側は目の前で起きたら困るでしょうねぇ」


《トンボロ現象か、強力な磁気の力か、だそうで》

「トンボロ現象、日本で見れるのよね、その現象」


《奇跡は稀だからこそ奇跡、さぞ大変だったでしょうね伝道師は》

「凄かったらしいわよ、農民に聞かれまくって困ったって噂だもの」


《識字率の高さにより、既に天国と地獄の概念が定着していた、やはり教育ですよね》


「本当、ね」


《本当に良いんですか、私と子をなして》


「赤髪で緑の瞳で長命、それだけでも十分に魔女扱いされる存在、しかもソロモン神の末裔ともなれば存在すら許されないだろう。そう思う者が絶滅すれば良いのよ、結局は差別主義者なだけ、滅びるべき種。有害物質以下、最初から無かった事にすべき存在、善神の対である真の悪」


 絶対悪、アンリマユ。


《本当に博識ですねローシュは》

「残念だけど物好きの常識、この対の存在の方を先に知ったのよ、メリジューヌ様もワイナミョイネン様も同じ物で知ったの」


《神話大全でしょうか》

「まぁ、聖杯戦争を主題とした物、ね」


《では、日本は》

「名将が主に、それと鬼か、武将か」


《神は?》


「あ、後は女性の文筆家と巫女様と、忍者と。まぁ、人が神と奉られるのは、寧ろ多いから。ぅん、神罰が怖いのも有って、そんな感じなの」


《無神論者では無いのでは?》

「向こうの一神教の神だけを信じないから、無神論者としていた、って噂ね」


《はぁ》


「あ、他だと画家も居るのよ、それに発明家も」

《ココには絶対に現れて欲しくないですね》


「そうね、永遠に現れないで欲しいわね」


 医科学だけなら良いんですが、世界を汚す武器の発明家だけには、本当に来て欲しく無い。


 例えローシュの子でも、もし転生者なら。




『ローシュ、ルツさん、少し宜しいでしょうか』


「はいはい、どうしたのネオス」

『文字の神は、いらっしゃるんでしょうか?』


「んー」


 どう考えても、菅原さんしか出て来ないのよね。

 オモイカネ様もクエビコ様も知恵の神様ってイメージで、文字、文ってなると。


『やはり、流石に』

「荒神様だった、菅原様ね、天才過ぎて妬まれて追い立てられて恨んだ。その魂を鎮める為に神と奉ったらしいの、正史ではね、そして勉学の神様になった」


『ローシュは信じてますか?』

「そうね、近くに神殿的な場所が有ったし、確かに居たとの証拠も各地に存在して奉られてるから。居るか居ないかであれば、居る、ね」


 不思議よね。

 他もこうなのかも知れないけど、そう、と言うより字の通り祀り上げられた感じがする。


 寧ろ存在を敢えて消して、より神性を高めてるのかしら、正史でもココでも。


『願うと、対価を取られてしまうかも知れないんですよね』

「ぁあ、ウチの方はちょっと違うのよ。神殿に行って助力を願って、主に貨幣を捧げる、そして叶っても叶わなくてもお礼に伺って再度貨幣を捧げる。その貨幣が多かろうと少なかろうとも、叶うかどうかは日頃から良い子かどうかと、運」


『それで叶うなら、便利過ぎでは?』

「なのよね、だからもう凄い信仰されてて、一生に1度は誰もが参る感じで。梅が好きな方で、梅も菅原様を好きだから、飛梅って話が残ってるのよ」


『それは、どんな』


 菅原様は草木を置いて居を移らねばならず、悲しんだ庭木のウチ、桜は悲しみのあまり枯れてしまった。

 松と梅は飛んで行こうとするも、松は途中で力尽き、その場に根を下ろした。


「そして梅だけが一夜にして彼の元に辿り着き、根を張り花を咲かせた」


『まるで千夜一夜物語の様ですね』

「ぁあ、そうね。それで、どうして文字の神様を?」


『海は繋がっている、なら、異国の神の助力を得られるかと。ローレンスにだけ辛い仕事を任せるのは、いたたまれなくて』

「ぁあ、けどまだ、そう決めてはいないのよ」


 ほぼ確定では有る。

 けど、ポルトガルに着くまでは考えさせて欲しい、他に方法が無いのかを。


『ローレンスやファウストに聞かせても良いですか、先程の話』

「あ、果物の木と言うか花として、それこそ椿の様に花と香りを愛でる木なのよ梅って」


『なら実は?』

「食べるわ、塩漬けか砂糖漬けか、お酒にも漬けるわね」


『身近な木なんですね』

「なら葡萄にしちゃいましょうか、凄く綺麗で良い匂いの花を付ける、ブラドの飛び葡萄。ダメね、何か笑い話にしか感じないわ」


『梅の説明からしてみますね』

「そうね、紅と白、それが混ざってたりもする可愛い花で。名前にも良く使われたり、字名や家名、家紋にもなってるの」


『やはりローシュは、シェヘラザード様のように利発な方ですよ』

「あ、神様としていらっしゃるのかしら、凄い美しいって向こうでは伝わってるのよ」


《こう、そう言われると、出たくなるモノよね》


 えっ。




『あの』

「シェヘラザード様で?」

《そうだけど、寧ろ、どうして驚いてるのかしら?ココは海の上、海路、船乗りや商人に語り継がれた物語を私が王に話した。とされてるいる、ならココは私の領域よ?》


「あ、お邪魔しております、ローシュです」

『ネオスと申します』

《ふふふ、律儀ね》


「あの、ずっといらっしゃったので?」

《それもだけれど、彼が海は繋がっているとし、アナタも認めたのも有るわ》


「成程」

《ねぇ、もっと語って》


「そんなに無いですよ?」

《もう、さっきの神話大全の事、面白そうな話の気配を感じるわ》


「ネオス、取り敢えずお茶菓子とお茶をお願いね」

『はい』


 私が言ったから、なのだろうか。

 また、ローシュと同じ姿の女神が現れた、ただ違うのは服装。


 砂漠地帯の王族の服装をしていて、多分、ファウストの目の毒になってしまうだろう。


《ネオス、もう良いんですか》

『実はローシュの元に女神様が降臨されました、シェヘラザード様です』




 ネオスが気にしてた異国の服って、寒そう。


『またローシュと同じ姿に見えてるのは何でだろ』

《女神様のご配慮かと、誘惑する様なお姿を見せては、ローシュが気にするでしょうから》

《お優しい方なんですね》


《いや、いえ、優しい方は優しい方だとは聞いてはいるんですが》


《が?》

《話すのも、聞くのも大好きな方だそうで、コチラの話が尽きるまで手放してくれないと言われています》


『ウムトに相談したら?』


《ローシュが本格的に口説かれますよ、シェヘラザード様に好かれたとなれば、確実に嫁にしようとしますが》

『えー、だめぇ』

《でもアーリスさん達が我慢し通しになっちゃうかもなんですよね?》


『僕達は良いけど、寧ろローレンスだよね』

《彼には頑張って貰う為にも、なんですが。いえ、寧ろ逆に良い機会なのかも知れません、今回は義務感からの行為に近くなってしまうでしょうから。ローレンスに任せましょう》


『そうだね、ファウストはネオスの部屋で待ってて』

《はーい》


 それからローレンスの部屋に行って、事情を伝えたんだけど。


『取り敢えずご挨拶してきますね』


 そうやって挨拶だけして、諦めたみたいで、ネオスとファウストと勉強を続けて。




《何ですかウムト》

『ルツ、ローシュはどうしたのかな?飽きられてしまったのかな?』


《女性には色々と事情が有るとご存知無いんですか、可哀想な無知具合ですね》


 コレは、ケンカでもしたのかな。


『どうしたんだい、ケンカなら相談に乗るよ、私の方が経験者だからね』

《結構です、お暇なら帳簿を見直しては》


 うん、コレは何か有るね。


『そうですか、余計なお世話をしましたね、では』


 そうして改めて見回ってみると、本当に誰もローシュの相手をしている気配が無い。

 コレは。


《あ、ウムトさん、何かありました?》

『見回りだよ、異常が無いかの確認だ。いつもと違う音や何かは無いかな?』


《んー、僕は聞いて無いです》

『そうか、何か有ればいつでもおいでね、他の人にも伝えておくれ』


《はい》


 さ、子も去った事だし。


『ローシュ、ご機嫌如何かな』


 ノックはしたけど、出て来てくれるかな。


「ウムト、どうかしたの?」

『少し気になる事が有ってね、良いかな?』


「そう、ちょっと待ってて」


 おや、誰か居るのかな。

 まさか、乗組員には手を出すなと伝えていたのに。


『ローシュ』

「どうぞ、シェヘラザード様よウムト」


『どう見ても、君に見えるんだが?』

「ぁあ、アナタもなのね、折角の美人さんなのに」

《この子にとって今の美人は、アナタって事よ、ふふふ》


 声は違うけれど、どう見てもローシュ。


『このキャラバンを率いるウムトと申します、宜しくお願い致しますね、シェヘラザード様』

《まぁまぁ、座って、ふふふ》


『ありがとうございます』

「ウムト、シェヘラザード様の事はどう伝え聞いてるの?」

《生まれや謂れね》


『キャラバンの女神、シバ女王とソロモン神の子孫だとされています』

《ほら、ね》


「そして他の商人の娘に美しさを妬まれ、愚王に嫁がされる事になったので、キャラバンが千の物語で諭し凌げと伝えた?」

『はい、当時船乗りにも商人にも愛されていたシェヘラザード姫を守る為、彼らは話を捧げた。そして我々もまた、子孫でもあると考えています』


「成程、今でも愛し愛されている神様なんですね」

『ですがルツは西欧側に近いのでソロモン神の事を気にしていますが、私は寧ろ、誇りであると考えています』

《でも商売には腹芸も必要、ソロモンの名を滅多には口にしてはいけないわ》


『はい、ですがローシュは賢い女性です。理解が有ると私は思っているのですが』

「賢王だと思いますよ、内緒ですけどね」

《そうね、ふふふ》


『ローシュ、妻になって下さい』


「無理ですよウムト、アナタの事は信用してます。でもアナタの愛情を全く信用出来無い、鵜呑みに出来無いので無理です。どんなに愛していると言われても、誰よりも良い女だと言われても、どうせ他にも同じ事を言ってるのでしょうね。としか思えないので、絶対に無理です」


『本当は嫁が居ない、としてもでしょうか』

「そうね、惚れそうも無いから、ごめんなさいね」


『なら子だけで諦めます』

「ソレ、承諾してませんからね?」


『私の崇める神の様に、必ず手に入れますよ、ローシュ』

「ぁあ、あの話最高ですよね、スパイスと水差しの話し」

《ソレも王に話した1つなのよ。ふふふ、今日はもう帰るわ、またねローシュ》


「はい、ありがとうございました」


『男性と2人だけで部屋に居るのは良くないですよ、ローシュ』

「したいなら湯浴みをして、そのドアの向こうに有るの」


『案内してくれませんか?』

「良いわよ、はい、どうぞ」


『一緒に入りましょう』

「はいはい、お湯を出すから先に入って」


 何処に繫がっているのか、確かに暖かい水が。


『凄いですね、ブリテンの技術は』

「ほら、早く脱いで、バレて邪魔されても知らないわよ」


『では、お先に』


 積極的なのは、やはりケンカしての事なのだろうか。




《ルツさん、ウムトさんが今さっき様子伺いに来たんですけど》

《もう気付かれましたか》


《野生の勘ですかね》


 ローシュ様がシェヘラザード様って女神様に日が暮れるまで占領されて、2日目。

 ルツさんも誰も話に加わらせられないからって、日が出てる間中、ローシュ様はずっとお話してるらしい。


 しかもお姿が過激だからって、僕が合わせて貰えたのは1回だけ、ベール越しだけど肌が多く見えてる服なんだなってのは分かったんだけど。


《まぁ、それでもシェヘラザード様が居るなら、流石に乱暴な事はしないでしょう》


《でも》

《他にも居ますから、海運、海路の女神は》


《シバの女王様ですか?》

《はい、主に3神を崇めていますからね、キャラバンは》


 だからローシュ様が欲しいって。

 優秀なのは分かるんですけど、後回しにして欲しいな、出来たら1番最後が良い。




「皆、ちょっと来て」


 俺やファウスト、全員が呼ばれ、ローシュの部屋に行くと。


《ローシュ、ウムトとしたんですか?》

「してないわよ、断ってもしつこそうだから浴室に連れ込んで針を刺したのよ、ほら」

《シェヘラザード様はどうしたんですか?》


「今日は珍しく先に帰るって、それでウムトと2人だけになって、面倒だから刺しちゃった」


《何も、直ぐに刺せば良かったのでは》

「諦めさせるには1番じゃない?」


《あぁ》

「はい、起きて」


『はっ、ローシュ』

「この状況を理解して、諦めてくれないかしら?」


『いや、見せつける位は出来るよ』

「凄い強気ね、流石だわ」

《諦めて下さいウムト、君のではローシュには不釣り合いです》


『ルツ、君はそんなに凄いのか』

《いえ、寧ろ君より小さいです、なのでローシュの体を守る為にも身を引いて下さい》


『いや、嫌だね、具合を確かめるまでは諦めないよローシュ』

「惜しかったわねルツ」

《では、ローシュを思うならさっさと浴槽を洗って出て下さい、任せましたよローレンス》


『あ、はい』

《行きましょうローシュ》


『はぁ、良い湯だな、寝てたのはほんの少しか』


『凄いですねウムトさん、俺なら心が折れてたかも知れません』

『私は選ぶ側では無く選ばれる側だと思ってるからね、選ばれなくて当然だとも思ってるから、当然の結果を常に受け入れているだけ。なんだけど、今回は驚いたね、騙されるとは思わなかったよ、全く』


『ウムトさんでも、ですか』

『だから折れる前に、逆に、余計に欲しくなった。諦めさせる為に容赦が無いのも良い、うん、凄く良い』


『ですよね、ふふふ』

『君もか、モテるなローシュは』


『はい』

『となると益々欲しいな』


『実はとある国の女王様でも、ですか』


『アレは貞操、貞節を守ったと表す為、一晩だけの同衾だと書かれているのだと思ってるんだ。私はねローレンス、ずっと口説いて、ずっと閨を伴にしていたんだと思う。そして妊娠し、動かしても大丈夫な月日が経ってから、帰した。帰すしかなく、仕方無く、帰したのだと思ってるいるんだ。その方が愛に満ちているだろう』


『はい』

『そしてある種の異類婚姻譚、もう会いに行かなかった事で、お互いに成果を得た。そう思わないと悲恋になる、王と女王の出会いは悲恋でしかない、そうは思わないかい』


『確かに、はい』

『けど、幸いにも君も私も王では無い。どうだろう、共闘しないかい』


『流石ですね、どうすればそうなれますか?』

『こう、本題から遠のかせるんだよ、それこそ手品と同じく。そうして油断させて、考えを舵の様に一気に変えられそうな隙を作る、そして何より本気にならない事』


『本気だから失敗した、と』

『正攻法を先ずは試して、だよ、それから抜け穴を探すのさ。はぁ、もう上がるかな』


『ありがとうございました、俺が洗っておきますから、お茶にでも行って下さい』

『助かるよ、では頼むね、有望なローレンス』


 この数日の事を、少し後悔している。

 命運だからと、ローシュの部屋を一切訪れなかったからこそ、こうしてウムトさんが入り込んでしまう隙を与えてしまったのかも知れないと。


 俺が会いに来ていれば、ローシュに手間を掛けさせなかったかも知れない、抱く機会が得られたかも知れないのに。


《ローレンス》

『あ、ルツさん、何か』


《折角、浴室が温まってますから、お湯を貯めておいて下さい》

『はい、分かりました』


 義務だと思われてまで、抱かれて欲しくない。

 出来るならローシュに抱きたいと思われたい、同情では無く、愛情を向けて欲しい。


『ローレンス、僕ら先に入っちゃおう、洗ったげる』

『良いんですかアーリス、ローシュを放っといて』


『今はファウストと話してるし、お風呂掃除のご褒美ご褒美』


 洗うのが上手い。

 きっとローシュで慣れているんだろうな、羨ましい。


『あの人、次は裏道を探すって言ってましたよ』

『あー、けどまぁ、無理だろうね。僕と同じで相手が居ると無理だし、才女だって評価すら受け入れて無いから、だから根本的に無理なんだけどね』


『そう言っておきますよ、無駄でしょうけど』

『一緒に裏道に行っても良いよ』


『いえ、ローシュは喜ばないと思うので』


『誘うのも?』

『はい、断り難いでしょうし、受け入れられても義務感からだと俺が思いそうですし』


『そっか、うん。後で少ししてから部屋においで、話し合おう』


 アーリスが体を綺麗にするのはローシュの為、俺が体を綺麗にするのは、自分の為。

 少しだけ虚しい。

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