堅牢な砦街、カーコーディ。

 カーコーディはスコットランド語、ココでスコットランド語が混ざるから更にカオスになるのね。

 成程。


『もー、また覚え直し?』

「言葉って変化するのよアーリス、仕方無いわ」


 訛りまくった結果、フランス語と誤認される日本の方言も有るのだし。

 うん、本当にアレは貴族を吊るせって歌のままだものね。


 寧ろ、それこそ転移者や転生者が不意に口ずさんだ歌が、広まったとか。

 そうよね、ペニシリンが出来た理由だって言い訳だ、と考えれば辻褄が合う。


 アレかしら、ココの人が寧ろ向こうへ行ってしまって、サンジェルマン伯爵やパラケルススと名乗った。

 とか。


 有りうる。

 居うる。


 けど、逆に凄く可哀想よね、ココでは既に人権が成立して衛生観念も広まってる。

 なのにもう、それこそマリーアントワネットに転生したら、発狂するのでは?


 そう、向こうのシャルル6世も、もしかして。


『ローシュ?』

「あぁ、何でも無いわ、乗り換えね」


 そうして港で小舟に乗り換え、直ぐ横のお城へ、浜から上陸。

 出来立てほやほや、綺麗なお城。


《ようこそ、メアリーがお世話になったそうで》

「いえいえ、寧ろコチラがお世話になってるんですの、本当。ごめんなさい、曰く付きの子をお任せしてしまって」


《いえ、さ、どうぞ》


 メアリー夫人の夫のお姉様、けれどお体が弱く領主業は夫がこなしているんだとか。


『あぁ、メアリーの家で見た肖像画に確かに似た方だ。どうも、夫のフランクです、宜しく』

「宜しくお願い致します、ローシュと名乗らせて頂いておりますが、ココではルアンドですかしらね?」


 めっちゃ巻き舌するのよね、最初のル。


《まぁ素晴らしい発音ですこと、さぞお勉強なされたんでしょ?》

「いえ、耳が良いとは褒められるのですけど、文字が全く。ブリテンの単語が少し読める程度ですから」


 ルーマニアの文字も殆どダメなのよ、しかも王は悪筆で、だから書記官の任が出来た位だし。


《そんなの、信頼出来る方が居れば些末な事、是非お話を聞かせて頂戴》

『キャスリン、先ずはゆっくりして頂いてからだ、ね?』


《そうね、ふふふ、案内するわ》

「あぁ、ダメですよ、冷たい空気は程々にとメアリーからも言い付けられてるんですから」


《ありがとう、じゃあ少しだけお部屋を案内するわね》

「はい、少しだけでお願いしますね」


 残念な事に、ご子息はご長男様だけ。

 その事についても、メアリーには少しだけ様子を伺って欲しい、と言われたのだけど。


《ねぇルアンド、少しだけ相談に乗って頂けない?》


「モノによりますよ、何でもは知らないので」

《もう、ふふふふ、コレだけ男の子達を良い子に躾けられてる秘訣を教えて欲しいの》


「あら、暴れ馬の様な元気なお子様で?」

《そうなのよぉ、もうすっかり発情期を迎えた種馬並みに盛っちゃって。しかもウチの1人息子でしょ?もう言い寄られて言い寄られて》


「ですが、お伺いした限りでは」

《婚約者が居るのに、よ。最初は会話や社交術、交渉術が上手くなればと放置してたのだけれゴホッ》


「フランク様も知ってらっしゃる?」


 頷いて、呼吸を整え。

 辛いわよね、この時代の喘息。


《はぁ、ごめんなさいね》

「いえ、お子様が生まれてからだそうで」


 成人喘息は向こうでも原因不明なのよね。


《そうなの、こんなに体質って変わるモノなのね》

「脱毛も多いそうですからね」


《そうなのよ、カツラが作れるんじゃないかって位に抜けて、もう泣きそうになったわ》

「知人も嘆いていましたが、生憎と私はまだで」


《あ、その事じゃないのよ》

「息子さんの事ですね」


《そうなの、はい、お部屋はどうかしら?》

「まぁ、海側の、それに上等なガラスで」


《流石ねルアンド、私が海が好きだからって、フランクが頑張っちゃったの》

「羨ましい限りですわ」


 尽くせど尽されず、向こうの私の体はもう死んだか。

 まだ実は5秒しか経ってなくて、向こうに戻るのだとしたら。


 ぁあクーちゃんに会えるのよね。

 成果を報告しないと、きっと喜んでくれる筈。


《この中に、ルアンドのお相手は居ないの?》

「赤髪の方が、一応、婚約者と言う事になってますわ」


《色男過ぎない?大丈夫?》

「ご心配無く、既に童貞は頂きましたもの」


《もう、ふふふふ》

「あまり興奮なさらないで、お体に触りますわ」


《ありがとうルアンド、ふふふ》


 私の1つ下で16才の子が居る、コレがココの一般的、なのよね。

 寿命が伸びても変わらない、出来るだけ子孫を早く残し、家を継がせる為に良い教育を施す。


 貴族とは、政治家、国を支え守る基盤。

 縦では無く横軸、子孫ではなく家を繋ぐ者、それがココの貴族。

 

「まぁ、お風呂場がタイル張りだなんて、凄い」

《内緒だけれど王室で作る際の練習場だったの、だから粗が有っても見逃してあげて》


「成程、そう言う事なんですね」

《ふふふ、使い方は侍女に聞いて、ゆっくりなさって》


「はい、ありがとうございますキャサリン夫人」

《キャサリン》


「はいキャサリン」




 キャサリン夫人とご子息の事が気になるから、と早々に入浴を切り上げられ、再び客室へ。

 それから早めの夕食を取り、再び部屋へ。


 ローシュはココ以上に発達した世界から来たにも関わらず、城や設備、それこそ食事を喜ぶ。


《何でも喜んでしまうんですね、ローシュは》

「だって意外にも中医学的な発想が取り入れられての、品数の多さなんだもの。しかもソイソースにソイペーストが有って、もう、お米が食べたくて仕方無かったわぁ」

『オスマンでは凄い食べてたし買ったしね』


「ぁあ、でも魚醤も捨て難いわよねぇ、植えたいわ米」

『植えようローシュ、ローシュが言ってたお米と卵を炒ったの食べたい』


「ぅう、私も流石に食べたくなってきたかも」

《ローシュ様、味付けはどうするんですか?》


「悩むわぁ、拘ったらキリが無いんだけれど。そうねぇ、ソイソースを使ってじっくり煮込んだお肉のタレを少し、それと塩胡椒だけね」

《何か、美味しそうな気がする》


「それと鳥の骨を煮込んでスープにして、身は、もう王宮料理にしちゃいましょうか。カラアゲ」

《カラアゲ?》


「皮付きのままぶつ切りにして、コレもソイソースを使って、味を染み込ませるのに氷室で。って言うか大丈夫かしら、今年の氷室」

《失敗したら処分しろと伝えて有るので大丈夫ですよ、どうせ適当に行うから失敗するんですから、恥をかいて貰ってから処分です》


「まだ派閥で揉めているのね」

《アナタの様に外を知りませんから》

《ねー、ローシュ様、味を染み込ませたらどうするんです?》


「あぁ、一緒に漬け込んだ皮で包んで、お粉を付けて揚げるの」

《丸焼きより美味しいですか?》


「そうねぇ、そのまま丸焼きでも良いわねぇ、カリカリの皮を切り取って、薄いパンケーキにソイペーストとお野菜と一緒に食べるの」

《クレープですかね》


「惜しい、けどまぁ、確かに似てるわね。そうだ、自称美食家を集めて、どの鳥がどんな味わいか記録させましょう。それで出汁にはどの鳥が良いか味見させて、そうすれば養殖も、もう少し頑張ってくれないかしら」

《良い飴になりそうですね》


「ぁあ、夢が広がるわ、稲作」


《ローシュ、息子さんの事は良いんですか?》


「この数日は天気が悪そうなのよね、となると無視しても、竜にはお会い出来なさそうじゃない?」

《構ってあげるんですね》


「おもてなしの恩は返さないとね」




 ローシュがココの次期当主と話し合うって、けど僕は言葉が分からないフリで、侍従の役。


《それで、ロース嬢、お話とは?》


「ローシュ、難しいでしょうからルアンドで構いませんわ」

《ぁあ、すまないルアンド》


「ご婚約を解消なさりたいなら、ご相談に乗れますよ、と。それか、お相手がご不満でしたら私が良い様にさせて頂く事も可能ですし、そうしたご相談に乗れる。とお伝えしようかと思いまして」


《良い様に》

「はい」


《失礼ですけど、ご結婚は》

「あぁ、既に1度離縁してますの」


 ココで馬鹿かどうか判断出来るから便利だよね、この問答。


《アナタの魅力に気付けない方がいらっしゃるんですね》


 あ、このローシュの笑顔、魚が釣れた時と同じ顔だ。


「得手不得手の落差が凄いので、そう埋め合わせるのが得意なんですの」


 この言い回しも、ローシュをエロいって思ってると凄い卑猥な事を返して来るし、真面目だと勉強か何かが凄いんだなってなる。

 でも何でだろ、ローシュはちゃんと肌を隠してるのに、人間にも良い匂いがしてるのかな。


《例えば》


 お、そんな馬鹿じゃないかも。


「次期当主に満足して頂ける内容かと」


《まだまだ若輩者なので、詳しく教えて頂けると助かるんですが》


 コッチを見たって事は、少しは自分の立場は分かってるんだ。


「あぁ、彼はとても理解のある子なので大丈夫ですよ」

《なら、今ココでお教え願えますか?》


 ぁあ、うん、馬鹿だ。

 手の甲にキスって、コレの場合、エロい意味だよね。


「あら婚約者様がいらっしゃるのに、ダメですよこんな事」

《流石に性急過ぎましたね、失礼しました》


「そうですね、今日はこの位で、お時間を取らせてすみません」

《いえ、今日は生憎の天気ですし、そう言った日は私室で過ごす事が多いですから。いつでもいらっしゃって下さい》


「ありがとうございます、では、失礼致します」


 ローシュは、気安そうだから男が寄って来るだけだ、って言ってたけど。


『何か、エロかった』

「もう、何処がなのよ」


『分かんないけど、何だろ?』

「本当、何でかしらね?」


『多分、エロい何かが出てるんだと思う』


「何処から?」

『喉から?』


「ふふっ、それ止めて、次に鼻から。とか言われたら吹き出す自信が有るわ」

『鼻は入り口だよ?』


「んふっ」

『え?違った?』


「鼻水は出ちゃうじゃない?」

『あー、じゃあ出入り口かぁ』


「もー、はい、ちょっと落ち着かせて」

『手を消毒してからね、綺麗に洗ってから舐めないと』


「いきなり舐めないのは偉いわね」

『僕もバッチィのは嫌いだし』


「病気の匂いはした?」

『ううん、女の匂いもしなかった』


「あら奇跡ね」

『相手の女は馬鹿じゃないのかもね』


「あぁ、確かにね」

『ローシュが馬鹿になっちゃったら、ちゃんと丸吞みしてあげるから大丈夫』


「宜しくお願いね、絶対に」

『うん』


 年を取って、どうしようも無くなったら、僕が竜になって丸吞みする約束をしてる。

 ルツには内緒だ、って、けど直ぐに僕はルツに言った。


 だって逆の立場になったら、きっとルツもお願いすると思ったし、そうやって3人で一緒になれたら幸せかなって。


 そしたらルツも自分も吞み込んで欲しいって、もしローシュが先に死んじゃったら、一緒に死のうって。

 毒を抱えたローシュをルツが抱っこして、それを丸吞みして、3人仲良く一緒に死のうって約束。


 もしルツが先に死んだら、ローシュがしょっぱくなりそうだから、ルツを出来るだけ守る。


 出来るだけ、ね、ローシュが1番だから。


「はい、洗いましたよ」

『他も舐めて良い?』


「後でね」




 ローシュ様は若く見える、それこそ23とか言われてるのを良く聞く。


 けど実はもっと上、でもどっちの年でも、ココでは結婚してないと不思議がられるし。

 逆に問題が有るんじゃないかって思われる、特に貴族なら、何処の国でも17迄には結婚してるから。


 でもローシュ様は不思議とそうは見られないし、そう聞かれる事も無い。

 馬鹿以外には。


『アナタの魅力に気付けない方がいらっしゃるんですね、って。しかも手の甲にキスして、今直ぐにエロい事を教えろって、それで断ったら何時でも私室に来て良いって』

《あぁ、馬鹿確定ですね》

「ふふふ、久し振りにぶん殴ってやりたい顔で言われたわ」

《僕が後で殴っておきましょうか?大事な部分》


「それ面白そうだけど、アナタが引っ叩かれたら今度は殺さないとダメだから、無しね」

《ファウスト、それこそ仕込み針ですよ、カブレる薬品を塗り込んで自慢の逸品を更に大きくして差し上げるとか》

『痒くなるのでも良いかもね』

《なるほどぉ》


「それも追々ね。スカアハ様、大変申し訳無いのですが」

「ふむ、奴の女関係だな」


「はい」

「先ずは名からだな……」


 不思議。

 ローシュ様と同じお姿で、同じ声。


 けどローシュ様には違うお姿で、違うお声に聞こえてるって。

 向こうの世界の、凄く強い女性と同じ姿と声だから、最初は失神して夢でも見てるんじゃないかって思ったって。


 メスゴリラって呼ばれてて、女性の中で最強かも知れないって。


「意外と純潔なんですね」

「否、ソレはまぁ、微妙だ」

《あ、耳を塞いでましょうか?》


「ネオスお願い」

『はい』


 何か分かんないけど、ちょっとだけ、ネオスさんが暖かくなった気がした。

 ネオスさんでも恥ずかしい事って、何だろう。




《手淫ですか》

「それと尻もだな、相当らしいぞ」

「全く、何処で覚えてくるんだか」


「ナポリからだ」

「ぁあ、抹殺しちゃえば良かったかしら」


「難しいだろう、彼の地に入り浸っていた貴族の情夫の息子が、金を得る為に小娘共に広めたのだ」

「情夫の息子、ぁあココも基本的には女系ですものね」


「ソチラでの役割と少しばかり逆転しているだけなのだが、やはり馴染みが無いと難しいか」

「ですね、向こうのハーレムの主導者は男性とされてますから」


「そこが分からぬ、それこそ費用対効果、人手も管理も何も大変だろうに」

「ですよねぇ」


「お主もそう思うだろう、ネオス」

『はい』


 男子を3人持てば、家が潰れる。

 良い嫁を探す事程難しい事は無いので、そう探すだけでも金品が掛かる、ましてや愚かな男子に育ったなら多額の婿入り道具や持参金で家が潰れる。


 そうココでは言われている、けれどローシュの世界では逆、だそうで。


《ローシュ様ぁ》

「あ、もう良いわよネオス」

『はい』


《ネオスさん、僕が聞いたらダメですか?》

『そうですね、もう少し先にした方が良いかと』

「ちょっと、休憩しましょう」

「ふむ、菓子は無いか菓子は」


《コチラはどうですか》

「揚げドーナツです」

「はぁ、柔らかいは正義だ、うむ」


 私は、愚かな者と同じ行為を、ローシュに。


《日光浴に行きましょうかファウスト、アーリスも》

《はーい》

『はーい』


「ごめんね、匂いでバレて」

『いえ』


「先ずは君とアレが違う事を理解して欲しいのだけど」

『行為は、同じですから』


「君には相手が居ない」

『アナタには居ます』


「そう嫌な事に結び付けるなら」

『いえ、そう汚したかも知れないのが嫌なんです』


「無い無い、汚すなんて事は無いから大丈夫」

『それでも、すみません』


「心配症で真面目、真反対だと自覚をして無いの?」


『それでも』

「元ピュティア様と私は同じ女、なら女は全て愚かですかね」


『いえ』

「全く考えないより、誤った事も考えてさえすれば良い」


『ヒュパティアの哲学書』

「君とは違い、アレは誤っているかどうかも考えて無い筈、そう確認してから考えて欲しい。それまでは保留、考えない」


『それは、難しいです』

「なら勉強を、彼を良く観察し、どんな人間かを記録して」


『はい』

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