叛逆のスペランツァ。

《弟の病弱って、こう言う事なの》


 喘息では無かった。

 大きな音、身体接触、ルールから外れると混乱してしまう子。


「コレは、お母様ごと保護する必要が有りそうですわね」


 彼の様な子は、王族でも許されるかどうか。

 しかも子女であったなら確実に殺されていた筈、それこそ産む機械、奴隷や傀儡とされない為に。


 正史では平民は勿論、殆どは母親が殺す、そして修道院でほとぼりが冷めるまで居て。


《弟を、殺さないの?》

「ただお父上には責任を取って死んで頂きます、それからお母様にも、死んだ事にして彼の乳母や侍女として来て貰います。人質として」


《それじゃあアナタに利が無いじゃない》

「少なくともアナタと彼が生きていれば、この国はウチに手を出せないかと、それとも手を出して来ます?」


 本当に可愛がっているのなら、手を出さない、と言って欲しいのだけれど。


《ウチが不利益を被る事が無い限りは、手は出さないわ》


 王族として正しい答え。

 無条件に手を出さない等と言えば、蹂躙を許すも同然。


「利は内密な国交、で、どうです?」

《そん、だから、それだとウチに利が有り過ぎたままになってしまうわ》


 コレも王族として正解。

 神々と民に使えるのが王族。


 貰い過ぎては神々からの不興を買う、そう信じるべきなのが王族。


「であれば何を提供して頂けますかね」

《私はあまりにもアナタの国に対して不勉強だわ、少しは勉強させて頂戴、出来るだけ過不足無しだと思いたいの》


 コレも正解。

 コチラとしては何が足りないか、欲しいかと内情を全て曝け出すワケにはいかない、そして直ぐには答えを出すべきでは無い。


「ふふふ、僅かに滞在している間だけ、ですからね」

《暫く居てくれるのね、ありがとう》


 あぁ、姫様オブ姫様、かわヨ。




『ローシュ』

「あぁ、ご機嫌ようパルマ公」


『もっと早くに君に会わせるべきだったね、すっかり良い子になったんだよ、スペランツァが』

「ちょっとした誤解が有っただけですわ、直ぐにも立派な淑女になられるかと」


『けれど君は』

「無理ですわね、淑女は殺し慣れていないモノですもの」


 馬鹿王子達を使い、相談した結果、ローシュを子飼いにすべきだとの結論に至った。

 確かに外部に漏れていないだけで、あの立地で目立つ事が無いのはルーマニアの王の治世が優れているから、串刺し公はココでも国防の能力はあるらしい。


 なので一先ずは事件を有耶無耶にし、穏便に彼女を帰す方向へ。

 けれども、内密に国交を育んでくれると約束はしてくれたし、もう暫くは滞在する。


 それまで、出来るだけ彼女を口説き落とさせる、例え馬鹿王子達を使ってでも。

 果ては国益の為、民の為、国民である俺の為。


 最悪は薬で落とせば良い、堕落したともなれば戦争は仕掛けては来ないだろう、何せ近隣諸国では無いのだから。

 進軍するにしても、多少は各国の貴族が邪魔をしてくれる筈。


 でなければココでの享楽は得られないのだから。




《ソフィア、私は王族として、家族を選ん》

『どう選ぶか、です。交渉の余地が有るのかどうか、何が相手の利になるか、神でも無い限り対話無しでは見抜けません。王侯貴族の役目は交渉、それを如何に有利に行うか、です』


《でもソフィア、ルーマニアって謎過ぎるわ、魔女と共に魔女狩り隊を撃退したとは聞いているけれど。ワインに織物に刺繍、薬草だけなのでしょう?》

『つまりはその程度で済んでいる、と言う事です。人の往来も殆ど無いからこそ、コチラにまでは情報が来ない。魔女を保護しているそうで、技術にも物資に困ってもいない』


《なのに外遊してらっしゃるのよね》

『新婚旅行、だそうで』


《こんな場所に、よね》

『神のお導きによって、ですね』


《その言葉はダメ、甘えてしまいたくなるわ》

『でしたらば甘えず、お話し合いを』


《殺されてしまわないかしら》

『アレは襲われての事だそうですから、不敬を働かなければ問題は無いかと』


《それでも殺されてしまったら、ごめんなさいね、アナタはとても優秀だったわソフィア》

『お嬢様、過度に怯える事も不敬です、悪くないのなら堂々として下さいまし』


《ぅう、私とそう変わらない彼女の方が強い、そして知恵も勇気も》

『スペランツァ様は、あの方が何処の国の者かお忘れですか』


《まさか、魔っ》

『お嬢様、それは不敬になるかも知れません、お控え下さい』


《ソフィア、私》

『今、この国には、国民は貴女しか頼れないのです。ですがもし貴女が殺される様な事が有れば、私達が敵討ちをさせて頂きます、直ぐにお側に参りますから』


《ごめんなさい、ありがとうソフィア》

「いえ、参りましょうスペランツァ様」


 お嬢様も私達も、ローシュ様を誤解していた。

 色々な意味で。


「こう見えても30は越えているのよ」


《へっ?》

「大体、スペランツァの倍ね」


《ぉ、お母様と》

「あぁ、その言葉は止めて、色々有ったのよ。それこそ離縁も経験してるし」


《そう、東洋の》

「個体差が凄いのよ、若々しく見える人も老けて見えるのも差が凄いの。だから、甘えるつもりで何でもお聞きになって」


《その、やっぱり、どうしてもウチから利益を提示出来無くて》

「あぁ、この国から餓死者や難民を出さなければ宜しいんですよ。果ては疫病が流行り、難民が病を広げてしまう。そう言った迷惑がコチラに来ない様、正しく治世して頂ければ構いませんわ」


 ルーマニアの王族に連なる者だと、私達もスペランツァ様も確かに実感した。

 大局を見て考え、行動していらっしゃる。


《だとしても、ですわ》


「では、パルマ公を頂きましょうか。彼の知恵は転生者と呼ばれる神の恵みによって齎されたモノ、そしてあのクッカーニャ祭りは向こうの世界で約300年後に実際に起きた出来事、だそうで」


《確実では無いの?》

「アレ以上に凄惨な状態になったそうですから、私の様な他国の者は知らないのでは、と」


《では、何故》

「歴史、伝統を踏襲する事で、後世の役に立てようとした。らしいんですけれど、私には理解が出来ません、今を生きる民を虐げてまで成すべき事なのか。ですので、何か裏が有るのでは、と」


《それは、私にも分かる事なのかしら?》

「素晴らしいご質問です。そして答えは、スペランツァ様には少し難しいかと、けれどソフィアさんなら分かるかも知れない。そう、盲点ですわ」


《盲点》

「ごめんなさいね、スペランツァ、コレは返すわ」


《私の、ピアス、いつの間に》

「ソフィアさん、お気付きになって?」


「いえ、ですが、今の、こそが、盲点」

「注意を引き付け、何かを奪う、詐欺師の典型的手口。ですがもし何かを足されていたなら、気付けるかしら」


「お嬢様、髪にお花が」

《そ、凄いわ》

「魔法以下の手品ですわ」


《ですけれど、私が、私達が分からない事》


「本当はお勉強の為に答えを直ぐに教える事は控えたいのですが、既に国民にも被害が出ておりますので、答えを言わせて頂きますね」


 そしてローシュ様から聞かされた答えは。


《まっ、そんな、そんな事を覆い隠す為に?》

「騙し合いにおいて、そう思わせた方の勝ちかと」


「お嬢様、辻褄は合います」

「流石ソフィアさん、続けて下さい」


「一神教では長男を主軸とします、ですのでお世継ぎが出来無い事は差し控えたい、であれば無理にでも作らせる必要が出ます」


《そう王家にも必要だと思わせ、その利を得る為だけに、動いていた》

「かも知れない、御本人は決してお認めにならないでしょうから」

「それも、ローシュ様の言う転生者だから、ですか」


「ですわね、同性愛者は殺されてしまう世界から転生した者なのですから、下手をすれば同胞に殺されてしまう可能性が有る。なら、仕方無く行った事にすれば良い、とでも考えたのかと」


《自分の身を守る為だけに》

「そうとも言い切れません、もしかすれば本当に半分は国民の為だったのかも知れません。少なくとも餓死者は出してはいないのですから、完全なる悪かどうかより、今は彼の能力をどうすべきかです」


《彼を、愚かな私達が使う事も有り得てしまうのよね》

「仰る通り、何でも出てくるカバンをスペランツァ様だけが持ち、その存在を兄上様方が知ってしまったら。他の貴族が知れば、国民が知れば、出し渋る貴女を責め始めるかも知れない」


《私の家には、とんでもない秘宝が存在してしまっているのですよね》

「はい。ですのでコチラで預かるか、スペランツァ様が治世も行いながらも、神々と民の不興を買わずに御せるかどうか。今、お考えになるべきは、ソコかと」


「僭越ながら、口を挟ませて頂きます。私達は例えスペランツァ様がどの様な選択をしようとも、一生お支えする所存です、その事をどうか心に留め置いて下さいませ、スペランツァ様」


 私達の賢き姫様。


 例え貴女が、どんな願いも叶える剣を放棄したとしても、決して私達は責めません。

 既に犠牲はあまりにも多く支払われ、国が傾きかけているのですから。




《ローシュ、準備が完了したそうですが》


「神々よ、実は全て既定路線だったのでは?」


『そうなってくれたら良いな、とは思っていたよね、アポロン』

《バッカスの言う通り、まぁ、後はメルクリウスに任すよ》

《娯楽の少ないこの時代に単なる平穏な新婚旅行では、直ぐに飽きて国へ帰ってしまっていたかも知れない、なら実りある旅行にすべきだろう。そうなっただけだと、弁解はさせて欲しい》


「確かに娯楽は少ないですが、もう少し穏やかに休暇を過ごさせて頂けませんか?」

《ローシュちゃん、本当に仕事を全くしない、考えないで居られる?》

《無いだろう、既にコレなのだから、無理だ無理》

『労働には対価を、君達に加護を。気を付けて、もう直ぐ始まるよ』


 本国の宰相達とも連絡を取り合い、そして公女スペランツァ嬢とも連絡を取り合い。

 今日、晴れてパルマ公を断罪する事となった。


 やっと、ローシュに手を下そうとした罰を与えられますね。




『やっとだねルツ、ローシュ』

《ですね》

「ギロチン、歴史的に登場が早まってしまったのだけれど、良いのかしら」


《パルマ公曰く、人道的観点から、絞首刑よりはマシだそうですから》


「あの人の首では無いのが残念ね」

《いえ、資源は資源、ウチで大切に保護させて頂けるのはお得はお得ですから》


 ローシュの可愛いお姫様は、知識の有るパルマ公より弟を選んだ。

 転生者を置いておくには環境が整っていないし、誰かに悪く使われるより良いって。


 けど、それは建前なんだと思う。

 ローシュが薬で情報を吐き出させまくれば良いって、方法も何もかもを教えたんだけど、ぶっちゃけドン引きしてたから。


 身に余るからって、パルマ公をウチに譲る事で、国としては過不足無しに。

 けど個人としては、弟ちゃんが平穏に暮らせる方法をローシュから教えて貰ったから、内々で国交を続ける。


 ローシュが不安がってた恐れは無いけど、畏怖はされてる。

 だって王女になったんだもの、そうなれたのはローシュのお陰だし。


 けど、王様殺しちゃうから素直に喜べないよね、父親なんだし。


《私の父がパルマ公の凶行を許してしまいました、ですがコレからは悪しき見本とし、民が暮らし易い国へと変える所存です。罪を贖う為にも、そして今までクッカーニャ祭りで亡くなられてしまった方の弔いの為にも、パルマ公、そして父と兄2人を神へと捧げます》


 全員に毒杯が配られる。


 もがき苦しんで仮死状態に、そうして王はお姫様の元へ。

 他の有能な貴族と同様、顔を焼き、宦官の侍従として治世を手伝う事に。


 そしてバカ王太子2人は、パルマ公と一緒にウチに引き取る。

 ファウストとネオスだけじゃイタリア語が十分じゃないし、王族として育ったから資源として有効活用するしか無い、それこそココの国民の血税が無駄になるからって。


 国民は女系制度支持派が多いままだった、だからバカな貴族達は、コレから国民に復讐される。


『王女の摂政として、私、王妃がこれより訴状を読み上げます。先ずは貴族制度を悪用した以下の貴族の者に懸賞金を賭けます、但し争えば懸賞金は無し、兵と共に討ち取り、どうか無事にローマの神々に捧げて下さい』


《神々はお姿を表しませんが、常に我々を見ています、だからこそパルマ公は死んだ。ですからどうか争わず、協力して討ち取って来て下さい、それが私達と神々の望みです》


「お姫様、勘違いしてたのよね、嘘を全く許さないだなんて。神々はそんなに狭量じゃないのに」

《私達の様に接してはいませんし、僅かにでも一神教の毒にやられていたのでしょう》


「そうね」

『にしても静かだね、もっと混乱するかと思ったのに』

《公女を一切外に出さなかったのがパルマ公の敗因ですよ、何かしらが有ると気付ける素地が国民には有った》


「ネオスのお陰よ、ご苦労様」

『いえ』


『では、読み上げます、公爵位シャルル……』




 私達は多くの思い違いをしてしまっていた、それはロッサにも、神々に対しても。


《神々は人を裁く裁定者、そして貴女もだ、と。教えが無ければ、こう勝手に勘違いをしてしまうものなのですね、ロッサ》


「その点については神々もご理解してらっしゃるかと、何せ急にお隠れになり、神託しか与えられなくなったのですから。罰せられているのだと勘違いをしても不思議は有りません、そして、その事についても。お心を痛めてらっしゃったかも知れない、神は人に良く似ている、けれども違う存在、そう思って頂ければ宜しいかと」


《断言はしないのね》

「神も人も其々ですから」


《そう、だから怖いのね、嫌われてしまう事が》


 嫌われ、見放されてしまうかも知れない。

 そう不安を抱くより、どんな者も愛する神に縋ったのがパルマ公、そして利用したのもパルマ公。


「あら、ココでは女が男にプロポーズをするのは、いけない事なのですかね?」

《そん、違うわよ、その事じゃないの》


「私はたった1人をと、狭い世界で選び、見事に失敗しました。そしてココでは独りを選べず、2人も手にする事になってしまいました。ですが多夫一婦制にも、一夫一婦制にも、良い面と悪い面が御座います。愛や情を優先して頂きたいのですが、貴女は国母、女王となるお立場。国民を最優先に考えねばならない、ですが産むのもまた貴女なのです、だからこそ見誤らずにお相手を選んで欲しい」


《ありがとう、ロッサ》

「この人の子なら幾ら産んでも足りないだろう、そう思える方と添い遂げられますよう、異国の地からもお祈り申し上げますが。嫌なら下の者を育て上げ亡命なされば宜しいわ、歓迎しますわよスペランツァ様」


 逃げ道を用意して下さる優しいお方、けれども私には甘過ぎる。

 手をこまねいて、国民を犠牲にしてしまった、私は。


『スペランツァ』

《あぁ、何て酷い人なの、ロッサ》

「良く言われますわ」


 私の愛しい人、もう2度と会えないと思っていたのに。

 ズルいわ、ロッサは。




《お気を付けて、ロッサ》

「貴女も、どうかお元気で」


 ローシュと公女スペランツァ姫の策略により、粛々と貴族は処刑され、地方の貴族も処刑され。

 パルマ公、王太子の2人はキャラバンが遺体としてルーマニアまで運ぶ事に、定期的に肛門から毒を接種させて仮死状態を維持するらしい。


 そして私達は混乱を避ける為にも、海路でジェノバへ。

 行く筈が。


《酷いわ、ローシュ》

「あら奥様、そんな刃物を握り込んで、どうなされたの」


 パルマ公の奥方が、馬車の中に。


《私を、最初から騙していたのでしょう、あの人と一緒に騙していたのでしょう》


「いいえ」

《嘘、嘘よ、どうして皆、私に嘘を言うの》


「嘘ではありません、ですが信じるかどうかは貴女次第、信じたいかどうかを先ずは聞かせて下さい」


《私は、少しでも、普通の幸せを得たかっただけなのに》

「良く分かります、私も1度は失敗し、離縁した身。その前にも沢山の失敗をしたにも関わらず、婚姻でも失敗してしまった」


《けど、貴女には今、婚約者が居るじゃない》

「この人は神からのご褒美だと思っています、そして褒美の先払いだとも」


《あの人を王宮から追い出せたものね、けど、私は貴女にも言われた通りの愚か者》

「私も愚か者でした、ですが大事な人の死で目が覚め、やっと離縁したんです。そんな愚鈍な私にも、神は手を差し伸べて下さいました。先ずは貴女が賢いと思える事を、1つ成すのです」


『そうして2つ、3つと、そう数を増やしているウチに愚か者では無くなる。本当の、真の愚か者は自分自身を愚かだと気付かぬ者、対話をせぬ者です。ですが貴女はローシュと今、語り合い、愚かだと気付いている。既に1つ成しているではありませんか』


《あぁ、やっぱり言葉が分かっていたのね、貴方》

『はい、全ては国民の為とは言えど、謀った事は謝罪します』


《私、このまま殺されようと思っていたの、愚かでしょう》

「いえ寧ろ名案だと、昔の私なら同じ事をしていたと思います、パルマ公の元妻ともなれば辛い人生を歩むかも知れませんからね」


《けれど、今の貴方は、この道は選ばないのよね》


「顔を焼き、新しい名を名乗り、王家へ使える。それか好奇の目に一生晒され続けながらも、可哀想な貴族の出戻りとして生きるか、オススメは顔を焼く事です。パルマ公との事を聞き出す為だけに、貴女に言い寄る人間が居るかも知れない」

『確かに貴女は不幸に巡り合ってしまった。けれどもコレから先は自分で選ぶのです、御自分を守る為に、自分で選ぶのです』


「幸いにも神の居ない寓話と違い、ココには神々が居ります。だからこそ、清く正しく美しく、品行方正に生きればご褒美を貰えるんです」


《顔を焼いても愛して下さる方が、居るかしら》

『ローシュです、本来の私の顔は、こうですから』


 私の顔に驚き、同時に自分自身の身に置き換えたのだろうか。

 すっかり目を伏せ、俯いてしまった。


「恋か愛か、なら、少なくとも愛は得られる筈です。隣人愛、家族愛、貴女が求める愛は何かを考えてからでも、良いかも知れませんね」


《許して、くれるの?》

「私はあくまでも見定める立場に居る1人。王女様は貴女がお辛い思いをしているだろうからと、保護する為に探していらした。そして貴女はこの馬車で死のうとしていた、そして私に保護され、王女様に保護される。大丈夫、王女様は聡明な方、もう決して命を無駄にはされませんわ」

『行きましょう、私が同行しますから』


《ありがとう、ローシュ》


 ココで私は、ふと置いて行かれるかも知れないと、そう不意に思ってしまった。


 ローシュならやりかねない。


 けれども振り向くのが怖かった。

 もし振り向き馬車が遠のくのを見てしまったら、きっと、同行すらも投げ出し追い掛けてしまう。


 もう2度と会えないかも知れない。

 そう思うだけで、息をするのにも胸が痛む。


 私も愚か者。

 だから容易く死を選んでしまうかも知れない。


 ローシュを、愛してしまったかも知れない。

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