どれだけ涙を流しても。
「はぁ」
『マズい』
「じゃあ舐め取るのやめなさいよ」
『けど何か勿体無い気がするんだもん』
「どんな風にマズいの」
『悲しい気持ちになる味、焦げ?みたいな?』
「料理を失敗した時か」
『凄く大事な食材を、大事な日に失敗した焦げ』
「そらギュンギュンするわな」
『ううん、ヒリヒリする、意地悪を言われた時位』
「ヒリヒリか」
『味は好きだけど不快』
「なのに舐めちゃうの」
『貧乏性?』
「あぁ」
『お散歩に行く?』
「だな、もう流石に渇れただろう」
『はいはい、それもう4回目。無理しないで』
「いや、うん、ベール被って行くわ」
『うん』
こう言う時に仕事をするのがセオリーで、ありがちなんだと思うけど。
皆、コッチが悲しむと、つられて泣くから余計に効率が落ちてしまう。
見てる方が辛くなる、だから休め。
そう王様に言われて。
ホワイトだな、と思った。
別に、何を考えて、とか。
何が悲しいのかは良く分からないんだけれど、勝手に湧き出てくる。
死んだワケでも無いし、本来の場所へ帰っただけ。
寧ろ喜ぶ事で、喜ぶべきで。
なのに凄く心が重い。
全く気が晴れない。
頭がボーっとして、溜息が出る。
けど、向こうの様な気晴らしは無い。
好きだった音楽も映像も何も無い。
大自然と刺繍と酒とドラゴンと、魔法と神様と。
魔道具と。
あれ、十分では。
つか気晴らしが無いなら作れば良いじゃない。
いや、今はココの流儀に沿ってみるか。
「君なら、家族を失った時は、どう過ごした?」
『知り合いに慰めて貰って、そのままエッチした』
慰めエッチ。
流石中世。
いやけどもう、中世だと思えないのよな。
人権だとか自由の概念が有って、しかも普及してるんだし。
実質周りは近世。
いや、娯楽が発達してこそ近世か。
「成程」
『別に今も好きじゃないからね?』
「それはアカンからね?」
『うん、今はもう分かってる』
「その、お幾つ位の時で?」
『13とか』
「人間的な年齢で?」
『生まれて13年目』
「ダメだからね?」
『うん、もうしないし、周りにもさせない様にしてる』
正直、裏山けしからん。
「王よ」
《何だ姉上》
「お前の初体験はいつですか?」
てっきり、仕事をさせろって言われるのかと思ったわ。
それこそちょっと険しい顔だったし。
あぁ、成程な。
《ちゃんと16だ》
「そうか、じゃ」
《待て待てって、アーリスの事だろ?》
「誂うなら奥様の目の前でお前とイチャ付くが?」
《クソ不機嫌じゃん》
「いや、別に」
《不機嫌な者が言うセリフだろうが》
「感情の制御が難しい年頃でなんです、すいませんでしたね。更年期はご存知でしょうよ、早い人はもうなるんですさようなら」
《いや、そんな年じゃないだろ》
俺の言葉を無視して、ぷりぷりしながら去ってやんの。
マジで凄く若く見えるんだけどな。
だからウチのもビビったんだし。
《王よ、ローシュが怒った様な態度でココから出てきたんですが》
《あぁ、ルツ。姉上は若く見えるよな?》
《手を出したくなったんですか?》
《いやねぇわ、そうじゃねぇんだよ》
《まぁ、私より若く見えるのは確実なんですが、何か》
《だからもう、まぁ良い、アーリスの事で嫉妬してるだけだアレは》
《……処しますか?》
《いや違うってば、アーリスが若い頃の話を聞いたらしい》
《あぁ、羨ましいので鞭打ちに処しましょう》
《お前らまだなのかよ》
《なし崩しはいけないと仰ったのはアナタでしょう》
《まぁ、そうだが、そんだけか》
《不意に、ポロポロと泣くので》
《ココにな、姉上の気晴らしになる様な事が有れば良いんだが》
《キャラバン隊に同行させましょうか》
《お前、天才だな》
そう思ったんだが。
「旅行ですね、お断りします」
《いや、視察をだな》
「追々で、なので全力でお断りします。そも国内の道の整備も完了していないのに」
《だからこそですよ、新しい技術を他国から学んできた、となれば国内の整備も格段にし易くなります》
『けど僕は行けないんでしょ?じゃあ反対』
それな。
そこ盲点だったわ、本当に。
警備の観点から、アーリスに抜けられる事には不安が残る。
それに他国で竜化したら大騒ぎになりかねんのだし。
《魔道具に頼れるか、確認してみましょう》
《それだ》
こう頼られるのって、好き。
だって、だから神様してるんだもの。
『だけれど、魔道具はちょっと、ね』
『えー』
『けれども魔法、呪い、ならどうかな』
「えー」
『大丈夫よ、呪いと祝福は紙一重』
『元々、他とも相談していた事だ、受けるかい?』
『受ける』
「ちょ」
他国では竜化出来ない呪い。
自国でのみ竜化を可能とする呪いは、ズメウの一族全てへの祝福でもあるのよ。
『誘拐させない為、争いを引き起こさない為だよ』
「にしても、一族の合意無しに」
『別に大丈夫だと思う、その心配はお爺さんもしてたし』
『問題は、いつ叶えるか、それだけだったのよ』
「にしても」
『コレで一緒に旅が出来るね』
《ですね》
あらあら、ちょっと不機嫌。
けど選べる道はとても少ないんだもの。
我慢するか、慣れるか、離れるか。
離れたくないなら、慣れる一択よね。
「すみません、ありがとうございます」
ふふふ、コッチは困惑ね。
《静かに悼む時間を邪魔して、すみません》
「ルツは、ルツならどう過ごした?」
《ココまでの離別は、正直、私には無いんです》
「ほう」
《キャラバンでは死は隣り合わせで、弱り、老いれば死ぬ。だからこそ強くあれ、けれども死は忌避する事では無い、あるがままの元の姿に帰るだけだと。そう、なので、悲しむ身内の代わりに仕事をするのが習性で。どうすればアナタにとって、良い対処になるんでしょうか》
「3回も経験しておいて悪いけど、分からん。何をしたら良いのか、どうして欲しいとか、何も分からん」
《向こうは、向こうではどうなんですか?》
「仕事は休めるけど、身内が全て、葬儀やもてなしを執り行う。葬儀屋と呼ばれる仕事人にある程度は頼むけれど、もう休む暇が無い、そして金が掛る。死を悼む暇も無く、終わった頃には仕事に戻り、またいつも通りの日々に押し戻される。それで終わり」
《静かに死を悼む文化が無いとは、聞いてはいないんですが》
「表面上、便宜上、社交辞令的には言うけど。そんな間は無い、暇が無い、悲しんでると繊細だと謗られ、そんなに親しかったのかと嘲笑われる」
《彼は》
「そんな場所に帰してしまったとも思うし、それが当たり前では無い環境で有れば良いとは思う。けど、働く事に追い立てられる場所でもあるし、大事な家族の居る場所でも有るから。何とも言えない、幸せに過ごしてくれとしか思えない、ココからはもう何も出来ないんだから」
《死より、辛いのでは》
「どうだろう、ウチらの地獄は理不尽ってワケでも無いし」
《いえ、アナタがです。良き場所へ送り出せたと思えないなら、ただ悼む事は難しいんですから》
「だからこそ、気を紛らわすのが良いかなと思ったけど。それは一時凌ぎだし、ココの様にちゃんと整理する時間は必要かなと思う」
《良い案だと思ったんですが、すみません》
「いや、先ず気持ちが有り難い。そんな風に労って貰わなかったから」
《凄く気分が悪いですね、最下層と比べられるなんて》
「あ、すまん」
《いえ違うんです、上と、もっと大事にされてる事と比較された方がまだマシだと。不甲斐無いと反省しているのに、その更に下の扱いをアナタが受けた事が不快なんです。大事にさせて下さい、どうすれば良いですか?》
「思うままに、色々と試してみて欲しい。出来るだけ要望は言うから、模索させて欲しい」
《抱くのはダメですかね》
「ダメですねぇ、アーリスと同じパターンはちょっと不愉快です」
《私にも嫉妬して欲しいんですが?》
「ふふふ、コレは悪くない気の紛らわせ方かも知れない」
《どうしたら安全に嫉妬して貰えますか》
「君に親し気な女性が近付くだけで妬きますが、友人とか居る?女性の」
《学校での同期生なら居ますが、アレですよ、王妃の侍女のマリアですが》
「あぁ、そうか、マリアごめん。そうよね、ルツの同い年でもおかしくないんだし」
《まぁ、私とアナタの間位ですけど》
「もう少し見た目が若いと妬けるかと」
《やっぱり止めましょう、不毛ですね、ワザと嫉妬させるなんて》
「出来たらお願い、駆け引きはちょっと、苛立つだけで好意が減る可能性すらあるので」
《今日はもう、寝ましょうか》
「ですね、コッチにも準備が有るので、是非そうして下さい」
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