11日目。
我々は王の記録係として、常に同行している存在だ。
そして先日、王がキャラバンから買い取った人間2人を国に着いて早々に、綺麗にさせる様にと命じた。
そして数時間後。
見違える様に仕上がった2人を見て、我々記録係だけでなく、大臣達も驚いていた。
汚く、擦り切れ薄くなっていたブルカの中身を、王は見抜いてらっしゃった。
レースのショートベールを着けてはいるが、黒く美しい豊かな髪が結い上げられており。
そして僅かに見えた肌の色は青白さとは程遠い、健康的な色、張り。
しかも衣装は他国の貴族に流行っているとの噂のコルセットを、ブリオーの上からベルトの代わりとして身に着けており、硬く締まったウエストに誰しもが釘付けとなった。
なのにも関わらず息苦しさを感じさせない振る舞い、そして豊満な体が更に強調されているのだが、決して下品では無かった。
姿勢正しく美しい、見本の様な
そして言葉も、我々の言葉を、異国の女性が流暢に使いこなしたのだ。
王の先見の明、人を見抜く力は正に、王の素質を持っているからこそだろう。
王の行動、言動、考えを穿った目で見ず、決して侮ってはいけない。
きっと王は、ソレすらも見抜く力をお持ちなのだから。
召喚者、転移者に会えると思って、マジでウキウキしながら帰って来たのに。
挨拶を終えたから大臣達も少し下がらせて、秘匿の魔法を使ったのに、ルツも黙ったまま。
《おい、この、クソ暗い雰囲気は何なんだよ》
あのルツが目を泳がせた。
だと。
《後でご説明させて頂きます》
《なーんで今言えないのかなー、ルツ君》
お、また動揺したな。
実に面白い。
《客人の前ですし》
《ははーん、さては客人絡みか》
流石に耐えたか。
と言う事はだ、逆にそこまでの事では無いが、そこそこ恥ずかしい事だな。
《すみませんが》
《どうした、人生無関心飄々クソ野郎が何をしたんだ、お客人》
「ミスを誘発させました、互いが互いに、ですが私的な事情も絡んでの事で」
『其々に落ち度が有ったんですが、反省し、改善案も既に出ているので、どうか不問として下さいませんか』
《却下、内容言ってくんないとルツを公開処刑する、バラ鞭20回。生き残れるかどうかギリギリの回数ね》
いや、本気だよ。
そもそも、問題かどうかの判断は、ココでは俺の領分なんだし。
『もう、仕方が無い子ね』
《ただいまアリアドネ様》
《くふふふふ、説明してやるかのぅ》
で、実際に聞いてみて。
まぁ、正直、ちょっと驚いたわ。
この女に惹かれて失敗するとか、もうね。
いや、分かるっちゃ分かるが。
《お前、流石童貞だな。だから言ったろ、何事も》
《で、もう良いですかね》
《ダメー、近くで良いから顔を確認させろ》
《何故》
《俺が責任者、王様だからだよ》
はい、自分、いぶし銀の王様のテクニカルさを舐めてました。
何かちょっかいは出されるかなとは、ちょっとは警戒しましたよ。
けど、だからこそですよ。
お互いの見極め合いと言うか。
えぇ、辛うじて唇は無事、見事に避けて下さいました。
あっと言う間だったのにコントロールがお上手で、流石と言った感じですかね。
「あの、どう反応するのが正解でしょうか」
《いやいや、素直な反応のままで全然良い。つか良い度胸が、その胸に詰まってんのかな、コレは》
全く、自分に興味が無い事を肌感で感じられているから、でしょうかね。
昨日とは違って忌避感が湧いて来ないんですよ、いやー、不思議ですね。
「今、ルツはどんな表情をしてますかね」
《傍から見たら分からんだろうが、相当だなアレは、コレだけでもアンタはかなり価値が有る存在だ》
「コッチに見放されるって可能性を考えて、コレなんですよね」
《つか縛り付ける意味が無いだろ、下手すればコッチが一方的に被害を食らう可能性すら有るんだ。それに善人か頭の良い悪人なら残る可能性が高い条件の筈、それで離れる様なら善意が薄いかバカか、馬鹿な悪人か。なら留め置く必要性が無い、却ってコッチで処分する手間が省ける、だけだ》
バカだからアレがけど。
アレな、頭が良いんだろな、この人。
「良い君主に思えます」
《おう、だろ。そう見える様に、敢えて仕事を下の者に振り分けてるからな》
視線誘導された先には、ルツ。
ちょっと口を食いしばってんの。
そして大臣達は。
凄いガン見されとる。
手で顔を隠してくれてるから良いけど、コレは恥ずかしいわ。
視線を戻そ。
「転生者では?」
《無い無い、ただアレだ、育ての親がだ》
「あぁ、成程」
じゃなきゃ責任者って言葉は出無さそうだけど。
分からんのよなぁ、向こうで想定される中世とはかなりかけ離れ。
おや。
その気が無い筈なのに。
《すまん、疲れてるらしい》
「あぁ、はい、お疲れ様で御座います」
《おう。よし、下がって良いぞ》
「はい、失礼致します」
疲れマラの有効活用、及び子孫繁栄をお祈り申し上げます。
『ローシュさん』
「大丈夫、アレは友好と友愛、友情のハグとキス。彼は戦友的な位置付けだから問題無い」
ローシュさん、なら問題はルツさんですよ。
分かってる筈なのに、敢えて、無視して。
ズルい大人。
けど、狡くなる理由も分かるから、言えない。
言えないんだけど、言いたい。
『でも』
「彼は転生者に育てられたらしい、よね?」
《はい、育ての親、乳母が転生者だったそうですが。詳しくは私は知りませんし、他に知る者が居るかどうかも不明です》
「神様なら教えてくれるかな」
《ふむ、先ずは我で良ければ答えてやっても良いぞぃ》
「じゃあルツにも聞くわ。良い君主とは、何ですかね」
《悪評を恐れず、善行や美徳に囚われず、理想を追い求め過ぎない。何事においても均衡を重んじ、忠義仁よりも大義を目指し、恐れられる事を厭わない者》
《じゃの!》
『君主論はもっと後期なんですが、ココでは既にマニュアルとして存在していて、それこそ輸出品の1つとして非常に高値で取り引きされているそうです』
「それ、悪手では?」
《実施されているかどうかは、それこそ来てみないと分かりませんから》
『そこもですね、頭が良い人はこの国なら重用されるかも知れない、となりますから』
「あぁ、もう君の方が凄い役に立ってるんだが」
『補強の補強ですし、それこそ僕だけなら、あそこまで受け入れて貰えたかどうか分かりませんし』
《王もですが、大臣達も、だそうですよ》
《じゃの!評判は上々じゃよ、ただ、じゃな》
「奥様方に誤解されたのでは」
《じゃが、まぁ、ソコは王の手腕次第じゃから大丈夫じゃよ》
《ですが念の為にも、私の婚約者になって下さい》
「選ぶ権利皆無?それとも他に良いのが居ない、と?」
『それこそ渦中に巻き込まれるかもなんですよ?』
「両側面が有るじゃんよ、それこそココに定住するなら、迂闊な相手は選べない」
《ふむ、尤もじゃな》
『もー、どっちの味方なんですか?』
《
《じゃよ!面白いが1番じゃし!》
《それから
『それは僕が、既にお会いしましたから』
「ほう?」
控え目に言って、非常にややこしい方達なんですよね。
《あら豊満》
《それに素敵な髪ね》
《なのにまだ食べて貰えてないのねルツ、ダッサ》
《不徳の致すところで》
《全くね》
《そうね》
《ほらね》
「ご挨拶が遅れまして、誠に申し訳御座いませんでした」
《良いのよ》
《大丈夫、事情は知っているわ》
《本当、良くあんな無茶をこなしたわ、エラい》
「ありがとうございます」
《うん、ちゃんと敬いを感じるわ》
《だからこそ協力してあげる》
《けどマジで悪用厳禁だからね、直ぐに魔法を取り上げるわ》
「その、悪用、とは?」
《うん、合格》
《道徳心に明らかに反し、自己の利益のみを得ようとする行い》
《それこそ王やルツにも理解されないでドン引きされる様な事、まぁ大丈夫でしょ》
《そうね》
《じゃあね》
《ばいばーい》
浮島の花園へ横になり、女王達は深い眠りと共に消えていった。
「正に、3女神って感じだったわ」
『ですよね』
3つの顔に1つの体を持っており、フクロウの様に首をグルングルンさせてちょっと怖かったけど、良い神様達だった。
運命の3女神、他では命や寿命だったり、時を司ってたりするんだが。
ココでは主に国や王の運命を司る女神として存在しているそうで、象徴でも有るフクロウを大事にしているんだとか。
なのでフクロウがケガをしていれば保護し、1度放しても帰って来たら、王様に献上しないと殺されるらしい。
「そこ中世っぽいんだよなぁ」
『ですよねぇ』
《この伝承を知らないとなれば非国民も同然ですし、それこそ伝書鳩に使える存在を抹消すべきですから》
「あぁ、成程」
『そこなんですけど、貴族内に間者とか反乱分子って居ますよね?』
《はい》
「はいて」
『やっぱり、だからほら、婚約しといた方が良いですよ』
「えー、流行りモノって好きくない」
『何ですかその流行りモノって』
「契約結婚、政略結婚、婚約破棄シリーズ」
『シリーズ、前半2つは分かるんですけど』
「シンデレラや白雪姫宜しく、虐げられからの大逆転。いや、好きよ読むのは、けど自分がってなると」
『なると?』
「面倒」
『そん、面倒って』
「いや、ココではお茶会とか社交がどうなってるのか知らんけど、どう考えてもクソ面倒そうじゃん。絶対にウゼェ、とか言っちゃいそうだもん、心に悪い」
『念の為に聞きますけど、性自認って』
「女性、性の対象は男性、けど化粧はまだしもドレスて。ジャンル巨女だし、無理無理」
『似合うのに』
「まぁ、和装よりはな、白無垢見せたら友人に壁かよとか言われたし」
『それ本当に友人ですか』
「ね、だから切ったわ、その時に注意してくんなかったヤツもゴッソリ切った。つかもう、誰も何も居ないから……あ」
『どうしたんですか?』
「もし隣で死体となって発見されたらごめんね、知り合いって事で生活音が無いって言えば、警察が直ぐに来てくれる筈だから」
『それ、前列が有るからですよね?』
「だね、大家さんには申し訳無いけど、まぁ、人はいつか死ぬんだし」
『あの、けど、それって。この身体も何もかも、コピーだって思ってるんですか?』
「半々、もしかしたら行方不明になるだけかもだけど、大家さん的にはその方が良いのかも。あー、スマホとか全部がぶっ壊れてくれたらなぁ、エロいのの処分してくれそうな友達位は残しておけば良かった」
『戸締まり完璧にしてました?』
「いや、窓は開けてたけど」
『なら僕がやっておきますよ』
「いや、それこそ却下、恥ずかしい、それこそ迷惑掛ける事になるだろうし」
『電子的な記録には残らなくても、それこそお隣さんなんですし、友達になってたっておかしくないじゃないですか?』
「そしたら隠し金は君にあげる、最も恥ずかしい場所に隠してあるから」
『それこそ大家さんに渡しますから、心配しないで下さい』
「あぁ、コレ失敗したな」
『何がですか?』
「確実に残るってルツは完全に理解したんだもの、何某かの駆け引き材料を失った」
《王にも誰にも言いません、例え結婚して頂けなくても》
『好きだから、ですよね?』
《はい》
「アシストすな」
『だってローシュさんには幸せになって欲しいんですもん』
「ありがとう」
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