天災女科学者 呪いのビデオをユニークすぎる方法で解析して倍返しする【改訂版】
rkp
プロローグ-1(読み飛ばし可)
グロいので、読み飛ばしてもらっても結構です。
なんか、呪いっぽいことがあるんだなというのが分かれば十分です。
本編は明るいコメディーですので
少女は夕闇の町を走っていた。
恐怖に駆り立てられるように全力で駆けながら、しきりに背後を気にしているようであった。
立ち止まる時間すら惜しいのか、足を止めずに何度も後ろを振り向いていた。
そんな無茶な走り方をするものだから、振り向いた表紙に盛大に地面に躓いてしまう。
「ヒッ!?」
短く叫ぶと、少女はすぐに背後に視線を送る。
転んだ痛みよりも、自分の背後の方がよほど気になるらしい。
「ちょっと、君。大丈夫か?」
道行く人は尋常ならざる少女の形相に驚き、彼女の視線の先をついつい追ってしまう。
しかし、誰も少女が何におびえているのかを理解することはできない。彼女の視線の先には、ただ宵闇の気配だけが広がっていたからだ。
心配そうに声をかける仕事帰りのサラリーマンを振り切って、少女は叫ぶ。
「やめて!立ち止まっちゃダメなの!立ち止まったら……ダメなの!!」
その絶叫がさらに多くの視線を集めるが、彼女は気にした様子はない。
そんなものよりも遥かに深刻な何かに急き立てられるように、再び走り出す。
去り際に、少女はぽつりとこんな声を零した。
「どうして、あんなビデオを見ちゃったんだろ……!」
闇に沈み始める潮風の香る町を、必死の形相で少女は走り続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はあ……はあ……」
気づけば、少女は人気のない砂浜に逃げ込んでいた。
いや、追い詰められたというべきか。複雑に入り組んだ入江は、三方を海に囲まれており、それ以上進むことが叶わなかった。
完全に息が上がってしまったのか、少女は砂浜の上に座り込んでしまう。
悲鳴を上げていた筋肉がしばらくぶりの休憩を受け入れてしまい、もはや立ち上がることはできそうにない。
熱に浮かされたように喘ぎながら、周囲をぐるりと見まわす。
砂浜は完全に闇に落ちていた。
打ち付ける潮騒の音だけが響く中、視界にはもはや何も映っていない。
街灯もなく、月明かりすら届かないとなればとそれも当然だが、なぜかそれを確認した少女の表情は穏やかに変化していた。
「何も……見えない……でも……その方がいいや……」
穏やかなその表情は、諦観によるものらしかった。
携帯を取り出し、母親の欄をタップする。
しばらくかけたものの、やがて留守番電話に切り替わる。
ふと何かを思い直したのか、通話を切ってカメラを起動する。
スマホのわずかな明かりで自分を照らし、動画の撮影を開始した。
「お母さん、お父さん……今までありがとう……」
言葉を途切れさせながら、必死に笑顔を作り上げて両親へのメッセージを記録していく。
画面に映る自分の顔を見ると、残念ながら感謝よりも恐怖の方が色濃く表れてしまっていた。
それでも必死に口角を上げながら、両親に感謝と別れのメッセージを紡いでいく。
「ありがとう……大好きだよ……」
メッセージを撮り終え、深いため息をつく。
ふと見ると、画面にはいまだ"録画中"の文字。どうやら停止ボタンを押し忘れていたらしい。
スマホの画面に映る自分の顔は、タガが外れたようにすべてのパーツが震え切っていた。
「嫌だ……死にたくない……ヤダ……」
鏡写しの自分の顔から、とめどなく涙があふれる。
それも拭いもせずに、全てを投げ出したように泣きじゃくる。
暗闇の砂浜で、彼女の嗚咽だけがこだましていた。
そんな折、スマホの画面に何かが映り込む。
バックライトに照らされた自分の顔の後ろに、何かが立っている。
牛乳に浸したように色を失った、ズタボロの布が揺れる。しかし、布は潮風の向きとは無関係に、うねる様に揺れ動いていた。
「ヒッ!」
ひきつった声を上げる。
恐怖に震えた少女は、もはや後ろを振り返ることもできない。スマホの画面だけが淡々と白い布切れが近づいてくる様を写し取っていた。
ゆらゆらとした動きに反して、それはみるみるこちらに距離を詰めてくる。やがて画面の中に黒くて細長いものが映り込む。
それは、人の髪の毛だった。
音もなく、白い布を纏った黒髪が、ついに少女の背後に迫る。
いままで沈黙に支配されていた黒髪の奥から、錆びたシーソーが軋むような金切り声で、たった一言こう告げる。
──オマエモ、シズメテヤル──
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