第19話 【宙才エリス/個人Vtuver】改めて初めまして! 超天才魔法使いVtuver、ママと一緒にデビューだよ! ゲーム配信もしちゃう!【メスガキローグライク】 そのに


「えっと、本当にこれでいいのかな……」


「アンケートを取った以上これで決まりだから仕方ない。残念ながらここに集まっているみんなは、自分を下僕であると自覚して、無様にえりりんにかしずきたいのよ」


「ママ!?」


コメント

・下僕です、よろしくお願いします

・どけ、私はえりりんの下僕だぞ!

・ありがとうございます。ちょっと罵ってもらえませんか

・まんじゅうママにも罵られたいと思っています

・それに比べてえりりんのピュア度よ。えりりんに恥ずかしがられながら罵倒されたいですね。

・<冷やし鍋ラーメン>コメント欄が魑魅魍魎ちみもうりょうになっちゃった


 ファンネームの案は私の同級生、ユウのえりりんの下僕、他にもいくつかリスナーさんからの提案があった。本当は同級生で行きたかったけど、リスナーさんがアンケートで決めようというから早速使い方を学んだアンケートを使うことになり……その結果、ファンネームはえりりんの下僕で決定してしまった。


 わかんない、ネットの人たちってこんな簡単に下僕なったりするの!? わかんないわかんない! 私、人を下僕にするような趣味ないのに、これあとから見た人が私が好きでやってるって勘違いされちゃわないかな!?


 それはダメだよ、私……私ってリスナーさんたちとどんな関係を作りたいんだろう……? で、でもとりあえず主従関係は良くないと思う!


「え、えっと。とりあえず! リスナーさんのことはみんなって呼ぶことにするね!」


コメント

・アンケ結果から逃げるな

・ご主人様、我らを認知してくださらないのですか!?

・下僕たちに愛は無し、初日に職無し

・ちょっと韻踏んでんじゃねーよ


「まあ、いいんじゃない。えりりんが受け入れなくても、多分リスナーは勝手に自分が下僕であることを受け入れていくから。どうせここにいるやつら美少女に傅くのが趣味な人だらけだし。ちょっと煽ればすぐにザコ負けかますわ。ほら、ざ~こざ~こ」


「ママ!?」


コメント

・は? 負けないが? ちょっと悪戯な表情に誘われて来ちゃっただけでこんなピュアっ子に敗北するとかありえないんだが?

・天才なんかに俺が負けるはずがない。負けるはずがないんだ

・ママが煽るのか……

・ヴッ……

・この卑しい下僕って言って?

・仕えさせてください(敗北)

・<冷やし鍋ラーメン>女は下婢かひって名乗ればいいのかな

・下婢で草

・女子でも下僕でいいんじゃない?

・メイドにしよう(提案)

・メイドさんは負けなさそう

・むしろメイドさんに負かされそう


「あぁそっか、男性って意味が下僕だと入っているか。召使いでもいいじゃない? 男は下僕でいいでしょ。その方が屈辱的な感じ出るし。敗北したいんでしょ、ザコのみんな」


「ママ!?」


コメント

・まんじゅうママ、わかっているな(ザコじゃないが?)

・なんでこう、素直で優しそうな子に従属するのって興奮するんだろうね(負けないんだが?)

・変態だからでは? (大人が負けるわけがないだろ)

・ありがとうございます(負けました)

・なんだこの一体感

・えりりんの召使いってだけで特別感出るやつ~!

・女性リスナーにも気を使えるママの鏡

・強制的に召使いにしてる時点で気を遣うも何もないんでは

・それはそう


 ほぼ全員が初めての出会いだというのに、なぜか当然のように下僕になろうとするし、そのノリを否定することなくあっさりと進行していく。ユウもごく自然に――これがリアルだったらかなり失礼ですらあるのに――まるでお約束かのように、平然とみんなを雑に扱う。全く経験のない空気感。知らないノリ。


「そんなに深く考えず、えりりんはそのままでいなさい」


「は、はい……」


コメント

・あら~

・あまりにも優しい声……惚れてしまいます

・ママ……

・まんじゅうママがあまりにもママで泣いた

・メスガキっぽい容姿なのにピュアなえりりんと、甘いお菓子の姿なのに厳しいママン。逆では?


「君らのママではないから。勘違いしないように」


 私の不安を見抜いたのか、安心させるようにユウが私の背中を撫でる。固まってしまった私の代わりにコメントを捌いてくれたおかげで、ちょっとだけ、ついていけなくて慌てていた気分が落ち着いてくれた。うん、まだわからないことが沢山あるのは仕方ないもんね。大丈夫、慌てない。


 でも、やっぱりどこか変だと思うこの人たち。変態さんだらけだよ。


「リスナーがザコたちの集まりであることが判明したところで、次にいこう。えりりん、タグを決めようか」


「う、うん。そうだね! ママに用意しておけって言われたやつ! ちゃんと準備してきたから、見てみて~」


 事前に映していた文章のタグ部分を目立たせる。その上にあるファンネームも一応入力しておく。えりりんの下僕……うん、気にしたら負けだよね。


「まずは生放送の実況タグが#天才えりりん配信中、ファンアートが#パーフェクトえりりんのアトリエ、それ以外が#みてみてえりりん、で!」


 ここ数日必死に考えて作った渾身のタグ。可愛いし、私の名前も入ってるから他のと混ざったりしないし。完璧だよね!


「なんというか……すごく無難ね。わかりやすいから悪くはないけど」


 あ、あれ!?


「そ、それは褒められてるのかな……」


コメント

・わかりにくいよりマシよ

・エリスの絵リスナーとかどうっすか

・パーフェクト……?

・パーフェクトに可愛いからいいでしょ

・パーフェクトにピュアなんじゃない?

・<冷やし鍋ラーメン>みてみてえりりんかわいい!


 ありがとう、冷やし鍋ラーメンさん……。他の人たちからはなんだか、ちょこっとけなされたような気がするけど、とりあえず反応は悪くなさそう? じゃあタグ決めはこれでいいのかな。次が……あ、最初に決めないといけないやつ飛ばしてた。


「それじゃ挨拶も決めよ~!」


「ん? ああ忘れてた。おはよう下僕どもでいいんだっけ」


「違うよ!?」


コメント

・挨拶は大事。古事記にもそう書いてある

・そういや決めてなかったね

・お は よ う 下 僕 ど も

・配信を見る度に下僕であることを思い知らされてしまう


「でも確か事前に決めてたのは、同級生って想定でクラスメイトに挨拶するって感じだったでしょ。もう無理じゃん」


「そうだけど~!」


 本当は『がらがら~、おはようみんな~!』で始まって、最後は『今日もお疲れ様また会おうね~!』で終わるつもりだったのに。頑張って考えたのに~!


「まあ想定が崩れちゃったし、この場で決めようとしても無難なやつしか出てこなさそうだから、挨拶はその時その時でいいと思う。慣れてきたら勝手に決まってくるでしょ」


コメント

・無難(おはよう下僕ども)

・無難……? 無難とはいったい……?

・その時その時で挨拶をする。つまり……リスナーが好きに挨拶して良いってことじゃな!?

・なるほどな。おはようございます、ご主人様

・本日もよろしくお願いします、お嬢様。これだ!

・なるほどこれが無難なセンス

・調教されに来ました、でどうだろ

・もうそれは下僕ではないのよ

・なに!? 下僕とはご主人様にいじめられるのが役割ではないのか!?

・<冷やし鍋ラーメン>自由を与えるとすぐに魑魅魍魎になっちゃうね……


 と、とりあえず保留で……。


   §


 挨拶:保留

 ファンネーム:えりりんの下僕

 生放送タグ:#天才えりりん配信中

 ファンアートタグ:#パーフェクトえりりんのアトリエ

 それ以外のタグ:#みてみてえりりん


 一応最初に決めるべきって言われていたものは、これで完成した。思った以上に大変だった気がするけど、なんとか出来てよかった。やっぱりファンネームが気になるけど……でも今日の配信はこれだけじゃない。


「それじゃあえりりん、そろそろゲーム実況いってみる?」


 そう、タイトルでも入れた通り、ゲーム実況のリベンジを今日はするのだ。


「うん! それじゃ、ママが用意してくれたゲームを実況していくよ~! メスガキローグライクっていう、えっと……」


「2Dアクションゲームね」


「それそれ!」


コメント

・いえーい!

・まんじゅうママセレクションですか

・聞いたことないタイトルなのに、内容が予想できるんだよなぁ

・メスガキ(偽)にメスガキゲームをやらせるのか……


「エリスは天才なので、きっと簡単にクリアできちゃうから、あっさり終わってしまっても許してね、みんな!」


コメント

・お、そうだな

・先が読めたぞ

・<冷やし鍋ラーメン>がんばって~!!!

・どんなわからせ方をされるのか楽しみ

・わからされるのはメスガキか、天才か……


 前回の配信は、失敗した。けれど今日はユウが隣にいるんだ。


 絶対に成功させて見せるんだから。




※作者による読まなくてもいい設定語り

 冷静になってみれば、ネットでのコミュニケーションは現実と照らし合わせると非常に奇妙で失礼で速すぎる速度で変化する。アリスはネット環境に慣れていないために冷静になってしまうので、人が集まって生まれる一体感に対して嬉しさよりも恐怖が勝ってしまう。物語が進んで慣れてくれば、下僕くんたちを小悪魔めいた言動で翻弄したり……する未来は特に見えない。ユウを誘惑してる未来しか見えない。

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