おばあちゃんとの朝

「其許、弁当」

「あ」

 玄関で靴を履いている私に、おばあちゃんが声をかける。

「今日は胡瓜を多めに入れておいた」

「サンキュ。私おばあちゃんの胡瓜大好き」

 ぱたぱたとお弁当を台所にとりに行く。

「気をつけてな」

「いつだって気をつけてるよ」

「この前、側溝に落ちて帰ってきたのは誰だった?」

「えへへ。誰だったかな~」

「歩道でこけたり、カッターで指を切ったり、実験室でやけどしたり。たまには、孫の皮膚に傷が一つも無い状態を拝みたいものだよ」

「やだなぁ~。三カ月前に見せたばっかじゃん」

「それに慣れてしまう手前が恐ろしくもある」

「……、あ!!遅刻しちゃう!!!」

 わざとらしく、声を上げた。

「本当に、気をつけるんだよ」

「大丈夫大丈夫」

 いってきます、とおばあちゃんに手を振って、私は学校へ向かった。

 その日は、休校日だった。

 私が一日、間違えていた。

「其許も、新しい技を考えてくるものだ。こんな日に、おかしいと思ったんだ。この年の早起きの辛さなど、若い者にはわからんだろうよ」

「褒めるなよ~」

 お弁当を食べながら照れて頭をかいている私を見て、おばあちゃんはあからさまに嫌そうな顔になって、ため息をついた。

「まあ、無事に帰って来れてよかった」

 ぼそっと、おばあちゃんがなにかいったけれど、がりがりと胡瓜を食べていたから、なにをいっているかは、わからなかった。

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