CODE:CRISIS

野林緑里

デリバリカンパニー

 空にはぽっかりと満月が浮かんでいた。


 それなのに月の光さえも届かないビルの影にまぎれて獣たちがむさぼり続けている。



 繁華街を外れた路地の奥深く。


 廃墟ビルの一室で男たちがなにやら愉快そうに話をしている。


「すげえなあ」


 田宮が厳つい顔を緩ませながら札束を数えている。


「おおお、これで千枚だ!」


 歓喜の声をあげながら札束をどさっと床においた。


「なあ、兄貴。これは俺の取り分でいいかい?」


 田宮はナツメという女といちゃついている柄倉のほうを見る。


「かまわんさ。金ならまだたくさんある」


 柄倉のいうように床には何億もありそうな札束が並べられている。その一部を田宮の手に収まっているにすぎなかった。


 それでも1000万はある札束に歓喜するのも無理はない。


 それは田宮だけではなかった。柄倉やナツメ以外にも何人もの男たちが集い札束を手にしているのだ。


「すげえ! 札束がいっぱいじゃん!」


「シーっ、バレるやないかい!」


 すると、どこからともなく男たちの声が聞こえてきた。


「だれだ!?」


 柄倉は声が聞こえた方を振り向き、ほかの男たちもにらみをきかせた。


「ほら、いわんこっちゃない!」


 すると、ふたりの小柄な男たちが姿を表した。一人は二十代~三十代ほどの優男風で、もう一人はそれよりもいくつか年上の髭をはやした男だった。


「だれだ!? お前たちは!?」


 田宮が叫ぶ。


「こんにちわーー。デリバリーでーす」


 優男がニコニコと笑顔を浮かべながらいう。


「デリバリー? 誰か頼んだのか?」


 柄倉が仲間たちをみるも、誰一人首を縦にふらなかった。


「頼んだ人はここにはいませんよお🎵 」


「じゃあ、だれだ!?」


「それは、要敦彦さんからのご依頼でーす」


「要? だれだ?」


 柄倉が尋ねる。


「あれれ? 覚えてないんですか? 彼ですよ。か♥️れ♥️」


「だから、だれなんだよ!」


 田宮が優男に詰め寄ろうすると、髭の男が田宮の腕を掴まれた。気づいたときには、田宮の体が床に転がり背中に激しい痛みが襲う。


「イテエエエ!」


 田宮の悲鳴に男たちがいっせいに立ち上がるなり、髭の男に襲いかかる。


「あはははは、トラちゃん大人気♥️」


「あんさんも手伝え」


「うーん。そんな暇あたえてくれないじゃん」


 そんな会話をしている間に襲ってくる男たちをあっというまに倒してしまった。


 その光景に柄倉もナツメも呆然とみつめる。


「なっなんだ!? お前らは!?」


「だ~か~ら~デリバリーだってば🎵 要敦彦さんのご依頼によりあなたたちをぶっ飛ばしてほしいそうでーす」


 優男はニコニコ笑顔を浮かべながら、腕をならす。


 柄倉はその様子に底知れぬ恐怖を感じた。


 こいつはヤバい。


「ふざけんじゃねえ! やっちまいな!」


 柄倉が命令するとまだ倒されていない男たちがバッドなどの武器をもって優男と髭の男のほうへと遅いかかかる。


「おおお。たくさーん。どうしますかあ。トラちゃん」



「仕事や。仕事。ちゃんと働きいや。ツトム」


「はーい🎵」


 トラちゃんと呼ばれた男とツトムと呼ばれた男は襲ってくる無数の男たちと対峙した。その間に柄倉はナツメの手をとると一目散に逃げた。


「あっ逃げた」


 それをツトムがのんびりした口調でいう。


「どうせ、あいつがおるねん。逃げても無駄や」


「そうだね。じゃあ、おれたちはこっちに専念しますか」



 *******




 柄倉は札束の入ったボストンバッグを右手に握りしめて非常階段をかけおりる。そのあとをナツメが続く。


 ヤバい。


 あの二人はヤバすぎる。


 なぜそう思ったのかはわからないが、本能的に危険を感じたのだ。だから、ほかの連中を囮にして逃げ出したのだ。


 階段をかけおりるとビルの地下へとでる。そこは駐車場になっているが、車は柄倉たちが乗ってきたもののみだった。一刻も早く車にたどり着いて脱出しないといけない。


 柄倉は自分の車が見えてくると、ポケットにいれていた車のキーを取り出して鍵を開ける。


 乗り込もうと車へかけようとしたとき、その間に突然人影が現れない。


 黒い服をきた小柄で華奢な体つきをした男だった。


「おい! そこをどけ!」


 柄倉は声を荒くするも男はその場から離れようとせずにこちらをじっと見据えている。


「止まるのはお前だ」


 男はそういうのと同時に拳銃らしきものを取り出すと銃口を柄倉へむける。


 ズキューン


 なんのためらく発砲する。


 直後柄倉は地面に倒れる。


「きゃあああ!」


 ナツメは悲鳴をあげながら腰を抜かした。


「あっあっ」


 ナツメは体を震わせながらぐったりとして動かない柄倉に触れようとする。そのまえに彼女の額に銃口がつけられた。


「こいつのようになりたくなければ、金をおいて立ち去りな。いいか、ちゃんと逃げるんだぞ。そして、だれにもいうな。忘れろ。もしも、だれかにしゃべったら命はないと思え。いいな」


「はっ、はい!!」


 ナツメは立ち上がると一目散に逃げていった。


 それを見送ると握っていた拳銃を仕舞う。





「あんなきれいなお嬢さん脅かすなんて、相変わらずテルちゃんは酷い男だねえ」


 すると、右肩に重りがのる。


 ツトムがテルと呼ばれた男の肩に肘を乗せたためだ。


「そんだけひびらせとらんと余計なこというからや。テルモトさんのやったことは正しいと思うでえ」


「正しいねえ? 別に俺たちは正義の味方でもないんだぜ」


 ツトムが肩をすくめながらいった。


「でも悪のつもりでもないで」


「そうだねえ。俺たちはただのデリバリーですからね」


 ツトムとトラが話をしているとテルモトが歩きだした。そのため、テルモトの肩に乗せていたトツムの肘がストンと落ちよろめく。


「テルモトさん。こいつどないするねん」


「そのうち目をさます。あっ金はちゃんと回収しろよ。それも依頼人からの依頼だ」


「へいへい。わかりました」


 地面に転がったままの札束の入ったボストンバッグをかかえると、三人はいずこかへと消えていった。



 それからしばらくして柄倉は目を覚ました。


「あれ? おれは確か銃に撃たれて……」


 柄倉は置かれている状況を把握しようと周囲を見渡す。やがて、床に一枚の紙が置かれていること気づいた。



 そこには





「ご愛用有難うございました! デリバリカンパニー」


 と書かれていた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る