囚われの子どもたち
私たちは囚われている、神から与えられた力と引き換えに。力を持つものは神の運命、理に左右されている。 ≪神の力≫ をもつ者は皆、神から示された理に囚われて生きているのだ。
「……シェニア、それは本気で言っているの? 」
「ええ、陛下のプシュケーを維持し続けるのにも限界があります。 エレーヌ殿下への継承に時間がかかる以上、どちらかを取るべきでしょう 」
アーティはこの行き詰まった状況で、シェニアに助言を求めたことを後悔した。
時は戻ること、まだ月が空高く輝く時間帯。アーティの研究室にノータナーが息を切らせて訪ねてきた。一瞬、エレーヌにも何か起こったのかと冷や汗が背中を伝ったが、彼の表情をみるところによるとどうやら違うらしい。
≪神の力≫ をもつ者ならば、 ≪エピソード≫ が発現してしまったのかと身構え、器とプシュケーが取り込まれないように対策をするが、彼は違う性質をもつ者だ。それも ≪血の契約≫ を結ばせた理由のひとつなのだがーー。
ノータナー自身に明らかな変化が起きていた。 目の色が変わり、何処からか湧き出てきた何かの衝動を抑えつけるように、エレーヌとの繋がりだと大切にしている玉を握り締め飲み込まれないように耐えている。これはいつの日か読んだことがたるノータナーを鍛え上げた人物が記したノータナーに関する報告書での現象と類似していた。
アーティは昨今の出来事で消耗しつつある自身の力を少しだけ使い、その場凌ぎの
「ノータナーのもうひとつの力を縛りつけているラシウスの力がここまで弱ってしまっているのね…… 」
エディが ≪呪い≫ によって暴走し出すのにも刻一刻と時は迫っていた。データから導き出した運命の日まであとひと月も満たないだろう。そんな中で、ノータナーも力が押さえつけられないほどになってきている。
護るべき子どもたちがどんどん飲み込まれてしまっている。問題に対する対策を練り、己を酷使してひとつひとつ解決していったが、そのリソースである ≪神の力≫ の消耗が激しかった。まあそれもそのはずと、部屋の奥の暗闇から漏れている光を見つめる。
「ん…… もう時間ないよね 」
護るべきものたちが少しでも幸せに健やかに生きられますようにーー。残酷な計画を今も実行中に願うことは矛盾しているとアーティも思ってはいるのだか、この国のため ≪神の力≫ をもつ者のためには手段は選んでいる場合ではなかった。
アーティは疲れてぐだりそうになる自分に鞭をうち、ノータナーのことを王に報告がてら、いつもそばに控えているであろう、彼に助言をもとめるため、宮殿へと向かった。
なのに、そのシェニアからあまりにも無慈悲な提案を聞くとは思わなかったのだ。聞き終えてから、理にかなっているが血も涙もない考えをよく思いつくなと、ある種の恐怖心を覚える。この人物はやはりプシュケーがない者であると再度認識した。
シェニアの提案は、エディの器かエレーヌのプシュケーかどちらをとるかという二つの選択肢が与えられたのみ。慈悲がない、この状況の解決だけを最優先する方法であった。
≪神の力≫ をもつ私たちは、いざという時に、人間の姿形をしている
それもそのはず、神は私たちに、力とともにその代償とでもいえる運命を授けた。その神からあらかじめ定められている理のなかに囚われ続けているのがプシュケー。プシュケーは力の源であり、因縁の根源でもある。運命と理とも言われるソレは持つものの全てを予め決定づけ、終わりまでの先導者となっている。
ーー神由来の
ある国の王は、死の運命に直面していた。元々は単純な最期を迎えるはずで、己の死後のことを考えていた矢先、ある夢をみたのだ。彼の運命は幾つもの人物のソレと絡まりつつある己を理から、いかに被害を少なくして脱却する方法を探すこととなった。
彼の大切な
複数人の ≪エピソード≫ の条件が重なってしまっている場合、それはその中で一番強い力のもつ者、もしくはその環境下で発現するための一番優位な条件をもつ者の ≪エピソード≫ が発動する。全ては神の御心のまま、神に彼らの運命は委ねられていた。
≪エピソード≫ ととは異なるある条件を保持する者でしか起こらない、 ≪コンプレックス≫ という近年発見された現象がある。これが起こる可能性のある者の法則性は見つかっていないが、シェニアから先日受け取った資料からこの謎は解明できそうだった。おそらく、 ≪エピソード≫ に由来している。プシュケーが神によって囚われている私たちをさらに神の運命に近づけるのだ。
ーーまるで、力の由来の神に同化するように
シェニアの元を退散したアーティは、自室の椅子に腰掛けた。思うに、彼の残酷な提案はミィアス国や ≪神の力≫ のもつ者たちの将来にとっては一番犠牲が少なくて、イイだろう。だが、あいつの狙いを忘れてはいけない。顔に微笑みの仮面を貼り付けて、じっくりと時期を見定めているのだ。
「
アーティは問題がまた追加されたことに、さほど気にせず、家族のため、護るべき次世代の
目下の悩みに支配されていた彼女は、西の塔の住人のことなど頭の隅に追いやってしまっていた。最近おとなしくしていてありがたいと感じるほど。
アーティも気がつけていなかった。 ≪神の力≫ をもつ子どもたちの世話で気にかけている暇さえなかったのだ。
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