委員長系女子・宇都宮さん

 時間は流れ、授業が始まった。

 真面目に受けていくが、春風さんが気になった。

 人をあんまりジロジロ見るものではないが、俺はとにかく気になってしまった。


「……(キョロ)」


 彼女の横顔を盗み見る。

 相変わらずクールで掴みどころがない。

 なにを考えて授業を受けているのかな。案外、真面目にノートを取っていたり――って、ノートで隠してなんか食っとる……!


 クリームパンを頬張っていた。


 あんなハムスターみたいに……なにやっているんだか。てか、早弁かよ。


 観察していると目が合ってしまった。



「「……あ」」



 春風さんは一瞬で顔を真っ赤にした。

 恥ずかしそうに食べていた。

 な、なんか可愛いな。



 * * *



 ――授業終了後、春風さんは俺に詰め寄ってきた。



「誰にも言わないでよ……生徒会長!」

「な……なにをだい?」

「さっきこっそりパンを食べていたこと……」

「あ~、それね。言わないよ。春風さんにはお世話になっているし」


「それならいいけど。その、これ……」


 パンを差し出された。

 なにこれ、口止め料?


「くれるのかい?」

「うん。わたしの食べかけだけどね」

「マジか」

「なに、嫌なの」

「むしろ好意的に感じている。ありがとう、春風さん。貧乏学生にとって、空腹は最大の敵……助かったよ」



 パンを受け取り、俺はクリームパンを口にした。……甘くて美味い。

 味わっていると春風さんが顔を真っ赤にしていた。


 今日はよく顔が赤くなるなぁ。


「どうした、風邪引いた?」

「ち、違うわ! 生徒会長って、変なところで鈍感なんだね」

「ん? なんのこと?」


「それはいいとして……」



 春風さんが何かを言いかけたが、同じクラスの女子が遮ってきた。この黒髪ショートヘアの委員長系女子は、つのみやさんだ。

 いつも良い匂いがするから、勝手に脳にインプットされていた。



「あの~、桜田くん……」

「なんだい、宇都宮さん」



 小声で囁いてくる宇都宮さんは、こう忠告してきた。



「あのね、四月朔日わたぬきさんとは関わらない方がいいよ」

「なぜ。具体的な詳細を教えてくれ」

「噂なんだけど……四月朔日さんって連日ニュースになっている暴走族の一員らしいよ。昨日も同じ学年の不良たちに暴力を振るったって」


 暴走族の一員?

 そうは見えないけどな。

 だって、春風さんって俺を連れ回すし。学校でも浮いてる存在だし、失礼だけど友達いなさそうだし。


 同じ学年の不良……って、それはあの三人組だ。そこは分からんでもない。


 けど、結論を出すには早すぎないか。


 俺は春風さんを信じたい。



「春風さんはそんな人じゃないよ」

「で、でも……生徒会長の評判とか下がっちゃうよ」

「どのみち俺は、今年で引退だ。いずれも卒業もするから」

「……けど」


 妙に食い下がるんだよなあ、宇都宮さん。そんなに俺を心配してくれていたのか。

 そりゃ、生徒会長とクールギャルなんて異質なコラボがいつの間にか始まっていたんだからな。


 自然というか、なりゆきではあったけど。



「でも、忠告は感謝するよ」

「うん。困ったことがあったら言ってね」


 ようやく宇都宮さんは離れていった。

 そんな彼女を春風さんは、やや睨んでいたけど。


「生徒会長って、ああいう真面目ちゃんがいいわけ?」

「なんでキレ気味なんだよ。あとジト目な」

「いいから答えて」

「俺の好みねえ。実を言えば派手な子が好きなんだ。ほら、今ひっそりと流行っているだろ、地雷系って」


「――え」


 意外そうに驚く春風さんは、ちょっと引いてた。……おいおい、聞いておいてそりゃないだろう。


「悪いか」

「ううん、いいと思う」

「言っておくが……ギャルも好きだぞ」


「…………っ! そ、そう」


 不意打ちを掛けたつもりはなかったんだが、なぜか背を向ける春風さん。もしかして、照れてる……?

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