隣の席の白銀ギャルに拉致られる話

桜井正宗

隣の席のクールギャル

 人間が十メートル以上吹っ飛ぶ光景を始めて見た。


 不良グループのリーダーが俺に絡んできた。理由は分からん。分からんが、多分俺が生徒会長なんて役職についているからだろう。


 気に食わないってだけで、目つきの悪い彼等は俺の胸倉をつかんだ。


 だが、隣の席のクールギャル・四月朔日わたぬき 春風はるかぜが俺を助けてくれた。


 たった一発の拳で大男をぶちのめしていた。


 あんなに華奢スレンダーなのに、彼女は強かった。

 恐らく格闘経験があるんだろうな。

 明らかに拳にキレがった。



「――がぁぁぁッ!」



 鼻血を噴水のように吹き出してぶっ倒れる不良男。


 リーダーが撃沈して、取り巻きは青ざめて散っていく。


 ざまぁみやがれ、なんてな。

 悪魔の俺は胸に大事に閉まっておくか。自分はあくまで生徒会長なのだ。


 暴力や暴言なんて言語道断だ。ありえない。



「ありがとう、四月朔日さん」

「……あのゴミ共がうるさかっただけ」


 手を払い、席へ戻る四月朔日さん。

 おっかないけど、優しいんだな。



 それ以来、彼女とは自然に話すようになった。



「おはよう」とか「やあ」とか「また明日」くらいの会話が、いつの間にか「どんなゲームやってる」や「アニメは見てるの?」とかになってきた。



 時間の経過共に打ち解けていたんだ。



 そんなある日だった。



「生徒会長」



 四月朔日さんは、俺をそう呼んだ。名前でいいのに。



「なんだい、四月朔日さん」

「まって。その前にわたしのことは春風と呼んで。苗字は好きじゃない」

「そうだったのか。もうあれから三日経ったけど」

「いいから」


「分かったよ、春風さん」

「……うん。それでいい。生徒会長、今から行くよ」



 いきなり腕を引っ張られ、俺は動揺した。

 今までこんな行為は一切なかったからだ。今日はスーパーの割引セールでもあったけ……?


「悪いが、俺は半額割引派なんだ」

「はあ? 意味分かんないから。さあ、行くよ」

「って、うわ!?」



 馬鹿力で引っ張られていく。

 なんちゅう力だ。


 綱引きのようにどんどん引っ張られてていく。待ってくれ、そんな引っ張ったら腕が伸びてゴムゴムになってしまう。


 能力者になったら海に嫌われてしまうじゃないか。



「さあ、行こうか」

「どこへ?」

「海へ」


「え!?」



 学校の駐輪場へ向かうと、そこには自転車ではなく――バイクがあった。

 あれはスクーターだよな。


 って、まてまて。


 ウチの学校って、原付で登校して良いんだっけ?


 あ……いや。

 確か『特別な許可』があれば問題ないはずだが、条件が相当厳しかったはず。まさか、無許可で?



「大丈夫。わたしはちゃんと許可を貰ってるし」

「でも、二人乗りできないだろ」

「出来るよ。ピンクナンバーだから」


「マジか!」



 春風さんは『小型普通二輪免許(AT限定)』を俺に見せつけてきた。

 これは偽造免許でもなんでもない。……本物だ。


 てか、写真……誰だよ。


 髪型とか髪色が違い過ぎるし。



 ともかく、ピンクナンバーは125ccだから……普通二輪の類。一年経過すれば、二人乗りできる免許らしい。俺はなんとく知っていたが……学生で取得しているヤツがいるとは驚いた。


 家庭の事情だろうか。



「さあ、行こうか」



 ヘルメットを投げ渡され、俺は自然と受け取ってしまった。


 春風さんの目は本気だ。


 俺は海へ連れて行かれるらしい。



 女子の……春風さんの運転で。

 まさか拉致られるとは。



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