第3話 転生


「異世界……小説とかアニメであるようなやつか」

 別の世界に行く物語は、昔からたくさんある。それらは全一の知識の中にもあった。


『そうそう、魔法とか剣とかがある世界なんだけど、あなたの魔力は……えっ? どうして……いや、これは……』

 話が早いと頷いた神は異世界に行った際の全一が、どれだけ魔力を内包しているかを確認して驚いていた。


「どうかしたのか? もしかして、魔力が少なすぎるとか?」

 魔法というものは物語の中でしかない。

 もしかしたら自分にもそれが使えるということにワクワクしていた全一だったが、魔力が少ないとなればそうもいかない。


(まあ、仕方ないか)

 だが、元々地球人として暮らしていた以上、魔力がありません──なんてこともあり得るのかもしれないな、くらいに全一は思っていた。


『い、いやなんというかその……いや、まあ大丈夫。こっちの話だから……(これはとんでもない魔力を持っているなあ)』

 困ったような顔をした少年はあからさまに動揺しているが、それでもなんとかすぐに落ち着きを取り戻す。


『……あー、なるほどね。あなたは本来あっちの世界に生まれるべき人だったのか。普段から運が悪いとかってことなかった?』

 納得がいった様子の少年はなにかに思い当たったらしく、全一に質問を投げかけてくる。


 その質問を聞いた全一は、腕を組んで自分のこれまでを思い浮かべていく。


「……言われてみると、確かに。両親がなぜか俺だけにきつくあたるとか、入った会社がブラックだとか」

 

 ここまでは比較的人生の中で大きなことだ。

 全一はなぜか兄とは明らかに区別されて育てられてきた。何かものをくれてもそれは兄がいらないと言ったものだったことが多い。

 彼に与えられたすべての物は兄のおさがりであり、何一つ自分のためにともらったものはなかった。

 会社もいくつ受けても落ちてばかりでようやくついた会社も就業規則なんてあってないようなところだった。


「あとは、なんかよく犬の糞を踏むとか、おみくじは毎回悪い結果だとか、買ったものでも初期不良とかハズレばっか引くし、機械の操作をするとよく壊れるとかか……? ああ、死ぬ前に家に泥棒にも入られたしな……よく考えると運が悪いかもしれないな」


 そして、小さなことや最後のことも思い出されていく。

 自分では当たり前だと思っていたが、改めて言われると確かにそういう節があると感じられていた。

 すべて自分の行いが悪いせいだと思い、人に尽くすことに全力だったのだ。


『やっぱりね。それは生まれる世界が違ったせいみたいだよ』

「……生まれる世界が違う?」

 そんなこと考えたこともなかったため、全一は理解が追いつかず、首を傾げる。


『うん、本来生まれるはずじゃない世界だったから、世界から拒絶されて運のない人生を歩んできたんじゃないかな。だから、君が本来産まれるべきだった世界──僕が連れていく世界に転生すれば、そういった運命から逃れられるはずだよ。僕の見立てだと魔力もすごく多いから、きっとすごい人になれると思う』

 優しく微笑む少年は既に全一を彼が管理をしている異世界に行くものと確信している。


「そう、か。地球は俺の居場所じゃなかったのか……ああ、ならお願いしたい。これまでとは違う新しい人生を生きるっていうのも楽しそうだ。それに、魔力も多いなら安心だ」

 もう地球では死んでしまったのなら、生き返れないことも受け入れ、本来生まれる場所に生を受けるというのも悪くないと全一は考えていた。

 自分に合う世界ならば自分という存在を受け止めてくれてもっと誰かのために生きられるかもしれない、と。


『そうしたら、早速あちらの世界の説明をしていくね』


 自分の世界のことを嬉しそうに話す少年の話によると、これから向かう世界には魔法を色でとらえる仕組みがあるとのこと。


 基本的に八つの属性が存在し、水ならば青、風ならば緑、火ならば赤というように属性と色が対応している。

 一人一属性が基本であり、属性鑑定を行うことでそれぞれの色が判別できる。

 

 魔法が主となる世界だが、魔力が弱いものは剣技やほかの特技を極めたりするそうだ。


『君が転生するのは王都にある貴族の家だよ』

 貴族の家であれば不便な想いをすることなく成長していけるだろうという彼の判断だった。


「なるほど……貴族っていうのはちょっとイメージしづらいけど、君がそう判断したのであればきっとそれがいいんだろうな。それで頼むよ」

 全一は自分で良し悪しを判断できないため、全一は少年の選択にゆだねることにする。


『わかったよ。記憶は今のままで、あちらの言葉もすぐにわかるようになっているから心配いらないよ』

「それは助かる、ありがとう」

 記憶を維持できるのはもちろん、知らない言葉をすぐに理解できるのは実にありがたいことだった。


『それじゃ、異世界生活を楽しんでおいで!』

 嬉しそうにほほ笑んだ少年が大きく手を開いてそう言うと、全一の身体は光を放って徐々に薄くなっていく。


 こうして、彼は本来産まれるべきだった異世界へと転生することとなった……。

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