カフェ・ビビッドー終幕
Cosmic Dark Age 0.4
「なんや朝帰りかいな」
地上に降り立った
「自分ら、おとなしなった思たら、なんも変わってへん。まぁええわ。あんじょう上がほとぼり冷めるまで、うちにおったらええ」
いまや
「本当にいいんですか……? その……」
「なんや? 世界救ったヒーローがえらい弱気やな。自分らはただ落ちて来る隕石弾き飛ばした。ちゃうか?」
「違くないですけど……」
だいたい、衛星軌道上に変なもん置く方が悪いんやとビビッドは子供っぽく、それでいて不敵に笑った。それから呪文を唱えるかのように、「核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置しないことを約束する」と
「なんですか、それ?」
「宇宙条約第四条、や」
一九六六年一二月一三日に採択された宇宙条約。世界の国の半分以上が批准し、アメリカ、中国、ロシア、そして日本も批准している。軌道上に兵器を置いてはいけません――それを破っている国の方が悪いのだ。だから、
「隕石は大量破壊兵器じゃない? アホぬかすな。人為的に
それに、そないよう見えん話を気にするほど世界は暇であらへん、とビビッドは鍋に火をかけた。何も食べてへんやろと。言いながらテレビに電源を付ける。画面の向こう側では、防衛増税がどうのとか、記録的な大雪とか、金利がとか、イーロン・マスクのTwitterがとか、そういったことで大忙しだった。誰も
宿題は山積みだ。解決したとしても、その側から別の問題が生まれていく。そうやって後回しにされた問題の束で、現在の世界は出来ている。五〇年前、日本では第二次ベビーブームが起こったが、その頃から人口減少――少子高齢化が起ると予測はされていた。現在の世界は、人口爆発に喘いでいるが、三〇年もすれば人口はピークに達して減少に転じる。人口減少によって、労働力不足や経済不況に陥ることは容易に想像できるが、三〇年後の問題を考えるより、目の前にある問題の方が大切で、重要で、だからこそ問題は先送りされる。
もう複雑すぎてぐちゃぐちゃだ。だから、全部壊してしまいたくなるのも分かる。けれど、空の色と海の色が似ているように、宇宙と深海の色が似ているように、理想の高さと絶望の深さが似ているように、過去と未来の色もまたきっと同じなのだろう。人は現在を生きているし、現在にしか生きられない。明日の気温よりも、今日のお風呂のお湯の温度の方が重要なのは当然だ。宿題が溜まりすぎたからと言って、破り捨ててしまうのは乱暴だ。一日一つ片づける。それでいい。しっかりと温もった身体で眠る。それが、明日の健康の秘訣だ。
「ビビッドさーん。ボク湯船つかりたいからさ、お湯はっていい?」
そのうち、調子に乗った
「でも、流石にボク一人でってのもなー。
「…………? え゛?」
「二人で入ればさ、体積も増えるし。ね?」
「いや……、いやいやいやいやいや」
「ははっ、恥ずかしがってんの? カワい」
「はぁ? ちげぇし。
「同じ顔のはずなんだけどなぁー」
「おっぱい私よりデカいくせに!!」
*****
大好きなふたりへ
ビビッドちゃん、
強い力を持つ子たちは、みんなそうなんだ。髪がボサボサになって、服がパサパサになって、肌がカサカサになって、それでも何かと戦わなくちゃいけなくて……そのうち自分が自分じゃないみたいになって、もう訳わっかんないよーって発狂したいけど、遠心力のせいで声を届かせる人は、周りにいないんだ。
私の一生のお願いです。私の子どもたちを……ううん。そうやって、何処に行けばいいか分かんなくなっちゃった遠心少女たちを守ってあげてほしい。導いてあげてほしい。私に出来なくて、ふたりに出来ること。最期まで
大好きだよ。
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