第13話
「ふんふんふーん」
私は気分良く鼻歌を歌いながら料理を作っている神崎くんの姿をぼーっと眺める。
……キッチンに誰かが立っているところを見るのはいつぶりだろうか?両親が家に帰ってこなくなり、家に一人でいることが多くなったのはいつからだろうか?
私がそんなことを考えていると、キッチンの方からいい匂いが漂ってくる。
「出来たよー」
キッチンの方からそう声を張り上げる神崎くんはテーブルの方に私の分と自分の分の料理を運んできてくれる。
運ばれてきたのは美味しいそうなオムライスであった。
……私が、もう長年顔を合わせていないお母さんによくねだり、作ってもらっていた私の好物であった。
「さ、食べよ?いただきます」
「いただきます……」
私は神崎くんの作ってきてくれた料理を口に含む。
……そのオムライスの味はお母さんの作ってくれたオムライスの味と実にそっくりだった。
「どう?美味しい?割と家事歴は長いし、ちゃんと美味しいと思うんだけど……」
神崎くんは無表情のまま、どことなく不安そうな雰囲気を漂わせて私に聞いてくる。
「……うん。美味しい」
私は神崎くんの疑問に対して
あぁ……美味しい。本当に美味しい。
誰かが、私の前で、私のために作ってくれた料理。
美味しい……美味しい……何よりも、温かい。
「ふふふ。喜んで貰えたならば何よりだよ」
神崎くんはそう話し、自分も食べ始める。
……私は無言で神崎くんが作ってくれたオムライスを口へと運び続けた。
「「ごちそうさまでした」」
10分もすれば夕食は食べ終わり、お皿は空になる。
「じゃあ、お片付けしちゃうね」
「あ、あの!」
私は食器へと手を伸ばし、持ち上げた神崎くんへと声をかける。
「……そ、その、ありがとね」
お礼。
それを言ったのはいつだろうか?……お礼という人間が行うべき当然の言葉を告げるのにすら恥じらいを感じてしまった私は少しだけ視線をそらしながら、小さな声で言葉を漏らす。
「うん。どういたしまして」
そんな私の言葉に対してはとびっきりの笑顔を見せてそう答えた。
……普段無表情なのにこういう時だけものすごくいい笑顔するの普通に駄目だと思うわ。
私はまともに神崎くんの顔を見ることができなくなってしまっていた……心臓の音がうるさい。
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