第4話

 市河高等学校。

 僕や琴美の通う高校であり、そこそこ偏差値の高く……琴美によって僕が半ば強制的に通わされることになった高校である。

 僕はもっと近くの高校に通いたかったのだが、琴美の押しに負けて結局この高校に通うことになった。


「んにゃ……おやすみ」

 

 ガタンゴトンと揺れる電車の中で眠い中琴美と会話しながら眠るのを耐え、学校にまでやってきた僕は早速顔を机へと突っ伏し、眠る体勢へと入る。

 何故か、小中高とここまで全学年で全クラス同じになっている琴美は久しぶりに出会う友達に囲まれており、僕に構っている暇ではないだろう。

 

「おいおい、夏休み一発目からもう寝るのか?もうちょい耐えようぜ?」

 

 もはや寝る準備は完璧……そんな僕の元に話しかけてくる男が一人。

 

「何……?僕はもう少しで安眠に入るのだけど?」

 

 僕が声をかけた方向を見ると短い髪を揃えた軽はつそうな陽キャ……限りなく少ない僕の友達の一人である竜崎我空がそこに立っていた。


「なんで安眠に入ろうとしているんだよ」


「……もしや、僕の安眠の邪魔を?」


「普通の人間であれば邪魔するんじゃないか?」


「この世界の人間は全員極悪非道の権化なのか……」


「たかが安眠を妨害されたくらいで大げさな」


「睡眠欲とは三大欲求なんだよ?それを妨害するとか万死に値するよ?どんな惨たらしい恐怖政治を前に民衆は黙っているかもしれないけど、インフレによる食料価格の高騰だけはどんな民衆も耐えられず、声を張り上げる……三大欲求とは人間の根源であり、それを侵されたことに対する怒りは何事にも代えがたいのだよ」


「何も食べられないような国々の人の現状とゲームのやりすぎで寝不足になっているお前の境遇を重ねるな」


「むぅ……」

 

 あっさりと論破されてしまった僕は押し黙り、我空を睨みつける。 

 なんか無駄に話のスケールを大きくさせればなんか相手がその勢いに負けるという僕の得意戦法が負けるなんて……。


 キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


 僕が我空とそんなくだらない話をしていると、無慈悲にも高校に備え付けれた機械は定められたルールに従って朝のHRの開始を宣言する。


「お、お、お……お前のせいで僕は一切寝られなかったぁ……」


「知るかよ。ほれ、真面目に朝のHRを受けていろよ」

 

 僕に話しかけ、安眠を邪魔した我空はそう言い放ち、僕のもとから離れていった。


「ぐぬぬ……」

 

 僕は歯ぎしりしながら、落ちそうになる意識をなんとか保ち、朝のHRを大人しく受けたのだった。

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