7 秘密

「わたしが打ち明けていない秘密だと?」


 佐絵は感情を読ませぬ無表情だ。鈍い輝きを放つスレッジハンマーは、微笑したままのモナカの頭上にぴたりととどまっていたが、いつ落ちてきてもおかしくない。


「秘密なんてねえよ」

「あります。佐絵さんはほんとに嘘つきですね。佐絵さんご自身が認めたように」


 モナカに笑顔で否定され、鼻に小じわを寄せた佐絵を、杏奈は戸惑いがちに凝視した。


 佐絵の頬には粒状の汗が浮き立っている。三対一の状況でも、杏奈にはスレッジハンマー持ちの佐絵のほうが断然有利に思えたが、あせっている? しょうそうの理由は、モナカいわくところの「秘密」と関係があるのだろうか? 


「佐絵さん、わたしと取り引きしましょう」

 モナカがふたたび提案した。「佐絵さんはと手を切り、われわれの側についてください。この要求を聞き入れてくれるのなら、今回の件は見逃してあげます」


 ぎゅっとすぼまった佐絵の唇が、わなわなと震えだした。


? いるの、そんな人が?」

 目を丸くして杏奈が訊いても、佐絵は答えない。いかめしい面持ちを維持するばかりだ。


「います。それこそが、佐絵さんがまだ打ち明けていない秘密なのです」

 答えたのはモナカだった。


「その共犯者って、外部犯じゃないの?」と杏奈がたずねた。


 警告文の犯人は内部犯である――外に共犯者がいてこそ、そう思わせるメリットがある。杏奈はそんなふうに推理した。若葉には一蹴されたけど、鳩の顔の赤ずきんの正体が佐絵で、共犯者がいるのだとしたら――。


「共犯者は外部犯ではありません」

 杏奈の意見をモナカはぴしゃりとはねのけた。


「共犯者は、あの人ですよ」

 あわれむような目を杏奈に向けてから、モナカが指さしたのは――宮野若葉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る