3 ふたつの事件①

 八年前の十月三十一日、ハロウィンの日に、第四女子寮で寮生が亡くなった。亡くなった学生の名前は、よしりんか。杏奈、若葉と同じ、教養学部ジャーナリズム学科の三年生で、死因は覚醒剤の過剰摂取による中毒死だ。真面目な学生だった彼女が、覚醒剤の過剰摂取で死んだことに、みんながおどろいていたという。

 それもそのはずで、事実は、薬物中毒死に見せかけた殺人だったのだから。


 社会にまんえんする腐敗を暴いて世に問いたい。困っている人たちの力になりたい。そんな理由で、りんかはジャーナリズム学科に進学した。正義感が強くて優しい、典型的ないい人。けれども、よくも悪くも行動力がありすぎた。


 都内の別のマンションでひとり暮らしをしていた吉野りんかは、大学三年生になると、第四女子寮に引っ越してきた。同じ学科の学生に関するある噂をたしかめるために。

 第四女子寮で寮生がシャブ漬けにされている。おまけに売春までさせられている。

 当時、そんな噂があったのだ。


 りんかは、違法薬物使用と売春疑惑のある学生本人に事の真偽を問いただした。煮えきらない返答に終始されたという。疑惑を深めたりんかは、第四女子寮への引っ越しを決意した。ふつうはそこまでしないだろうが、転居してまで噂の真偽をたしかめようとする姿勢に、りんかが評判どおりバイタリティに富んだ正義感の強い学生だったという事実が垣間見えてくる。


 当時の第四女子寮で薬物が蔓延していたのは事実だ。クスリ欲しさに売春に手を染める女子学生が何人もいた。彼女たちは最初からそうだったのではない。薬物に依存させられ、クスリを買うお金のない学生には売春を持ちかけた悪人どもがいたのだった。

 当時の第四女子寮の管理人と、氷沼女子大学の理事長にそうさせられたのだ。


 八年前に寮の管理人を務めていたのは男女一名ずつの計二名、男のほうさかいちろうといった。当時、四十六歳。女のほうはとも、四十二歳。八年前に理事長だったのはむらやすという男性で、六十二歳。この村木こそが違法薬物蔓延と売春の黒幕だった。


 りんかは第四女子寮に居を移してから数ヵ月あまりでそこまで調べきったようだ。ジャーナリストの卵としては優秀だったのだろう。決定的な証拠をつかんでやろうと躍起になっていたそうだ。あまりにも堂々と積極的に活動していたその点に関しては、迂闊にすぎたと指摘せざるをえない。あんのじょう、りんかは村木と管理人ふたりに目をつけられ、覚醒剤による薬物中毒死に見せかけて殺されてしまったのだから。

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