第20話 昇格試験1。VS天剣のコジロウ


「参るっ!」



 先に動いたのはコジロウだった。



「――――【壱ノ太刀イチノタチ】!」



 地面を力強く踏みしめて、居合い斬りスキルを発動。


壱ノ太刀イチノタチ】は東の島国に伝わるサムライの剣技スキルだ。

 本来は刀を使って、俊足の踏み込みで相手を切り伏せる。

 達人ともなれば、手刀だけで相手を卒倒させることが可能だ。


 だが――――



「それでは通じない」



 オレは二人の間合いから離れ、後方で腕を組みながら彼氏面をする。

 ユウキは本気だ。本気でコジロウを倒そうとしている。

 ここなら誰も見ていない。だから使うだろう。隠していた本当の力を。



「【闇の寵愛】!」




 ――――



 ユウキの背中に黒い魔法陣が浮かび上がる。

 次の瞬間、ユウキの体が黒い光に包まれた。



「コジロウ、破れたり!」


「なに……!?」



 光の中から現れたユウキの左手に、コジロウの手刀が止められる。


 光が晴れた。

 ユウキは黒い魔女の衣装――魔装具に身を包み、抑えていた力を解放する。



「【ダークエンチャント】!」



 ユウキは魔属性の魔法付与スキルを発動。ハンカチに強力な魔力が宿る。



「かーらーのー! 【フィジカルブースト】!」


「魔属性付与……!? さらに自身の身体を強化しただと……!?」



 驚愕に目を見開くコジロウ。

 咄嗟に後退しようとするが、手を掴まれているので逃げられない。



「キミの敗因、それは刀を使わずにボクをしたことだ!!」



 ユウキは相手の手を掴んだまま、ハンカチを巻いた右手で何度もコジロウを殴りつけた。



「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃーーーー!」



 ――――



 強化された拳による連打攻撃。

 トドメに重い一発をボディに浴びせる。



「りゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ――――



 衝撃でコジロウは後ろに吹き飛ばされた。

 修練の場の壁が崩壊。土煙の向こうにコジロウの体が消える。



「参ったか!」



 ユウキはえっへん、と大きな胸を張って自慢げに笑うが。



「あ……っ。目眩が……」


「まずい……!」



 魔装具を召喚したことで魔力がつきたのだろう。ユウキが目眩を起こす。

 オレは慌てて駆け寄り、倒れかけたユウキを抱きかかえた。



「よくやったな」


「えへへ。ちょっとハリキリ過ぎちゃった。おかげでヘロヘロだよ。ぎゅっと抱きしめて~」


「はいはい。いい子いい子」



 今回ばかりは素直に抱きしめる。ユウキは本当に頑張った。

 力の制御も上手くいったみたいで、戦いが終わっても魔装具は消えなかった。



「くっ……!」



 しばらくして、瓦礫の中からコジロウが姿を現した。

 ボロボロになった体をフラフラと揺らして、オレたちの前までやってくると。



「完敗でござる。拙者も武士の端くれ。潔く負けを認めよう」



 両膝を床につけて深く頭を下げた。



「ユウキ殿にあれほどの力があったとは。教えてくだされ。どこでそのような力を身につけたのござるか? あの不可思議な装具はいったい?」


「あれはユウキが元々持っていた力だ。実力を発揮できなかったのはボタンの掛け違えというか……。けど、些細なことがきっかけで覚醒したんだよ」


「そのきっかけとはいったい!?」


「それは……」


「教えてくだされ! 拙者が最強のモノノフになるために必要なのでござる!」


「愛、だよ……」



 コジロウの必死の問いかけ。それに対してユウキは遠い目をして微笑んだ。



「ボクは愛を知ったのさ。そして目覚めた。つまりそういうことさ」


「愛…………」



 がくり、とコジロウは力を失ったように床に両手を突く。



「拙者が切り捨てたモノの中に真実があったわけか。ユウキ殿に負けたのは道理でござるな」



 拳を交わした二人の間に通じるものがあったのだろう。

 コジロウは悟ったように頷き、立ち上がった。



「心技体。そのどれもが素晴らしきものであった。試験官代理としてユウキ殿の昇格を認めよう」


「やったー!」


「やったな! これで難易度の高いクエストにも挑めるようになるぞ」


「えへへ。もう足手まといとは言わせないよ」



 俺とユウキは抱き合って喜びを分かち合う。それを見たコジロウは薄く笑った。



「拙者はお邪魔のようでござるな」


「まさか……」


「パーティーを抜けるでござるよ」


「そんな。これからだって時に……」



 ユウキがランクアップしたことで、ゴールドランクのクエストを受けられるようになった。

 これならコジロウも納得して力を貸してくれると思ったのだが……。



「待って」



 ユウキがふらついた体をおしてコジロウの前に出た。



「ボクを追い出そうとしたことを気に病んでるならもういいよ。一発殴ってスッキリした」


「ならぬ。拙者は試験の場を借りておぬしを排除しようとした。本来なら首を切られても文句を言えぬ立場。共にはられぬ」



 コジロウはそこで何かに気がついたように顔を上げた。



「はっ!? もしや謝罪の言葉ではなく拙者の首をご所望でござるか? 承知つかまつった。介錯かいしゃくはロイス殿にお頼み申す!」


「いらないよっ!?」



 鬼気迫るコジロウに対して、ユウキは慌てて首を横に振った。



「けど、責任を感じてるならボクの言うことを聞いてくれるかな?」


「なんなりと。武士に二言なし」


「じゃあ、これからも一緒に冒険を続けてよ。ロイスもコジロウさんが抜けると困るでしょ?」


「ああ。ウチのパーティーはオレが防御、ユウキが援護。そしてコジロウという切り込み隊長がいるから成り立つんだ」



 これに加えて、遠距離から範囲攻撃ができる魔法使いが加わると鉄板の布陣となる。

 だからハイソーサラーのメイメイに頼んでパーティーに協力してもらっていた。



「コジロウさんには夢がある。けど、ボクは最強の称号に興味はない。ロイスと一緒に旅ができれば十分だからね。だから必要なときにだけ声をかける。それでいいでしょ?」


「双方にとってそれが一番でござろうな」


「決まりだ。これを腕に付けて」



 ユウキは指を鳴らすと手元に銀色のブレスレットを召喚した。



「その腕輪は……?」


「メンバーの証だよ。呪われてないから安心して。ボクからのコールでブレスレットが反応する。そうしたら集合の合図だ。それまでは自由にしていいよ」


「承知した」



 コジロウはためらうことなく左腕にブレスレットをはめる。



「それともうひとつ。これは条件……というか注意事項だね」



 ユウキはそこで指を立てる。



「宿の部屋はボクらと別々にすること。それさえ守ってくれるなら何も文句はない」


「なにゆえにござるか?」


「夜とか同じ部屋になってみなよ。ボクはいいけどコジロウさんが気まずいよ。そういうプレイをしたいなら止めないけど」



 ユウキのアホな発言にオレは呆れ顔で突っ込む。



「おまえな。自重する選択肢はないのか……」


「ないね! ロイスが変わったようにボクも変わった。もう我慢しない!」


「はて? もしやユウキ殿とロイス殿は……」


「実はそうなんだ」



 ユウキは笑顔で頷くと、オレと腕を組んできた。



「ボクたち付き合ってます。きゃっ♪」


「なんと……!?」


「言っておくけどユウキは女だぞ」



 オレはそう言ってユウキの胸を指差した。

 魔装具を召喚したときに男装は解除されている。



「誠にござる!? ユウキ殿が女性……!?」



 コジロウはこれまでで一番の変顔を浮かべて驚くと。



「これが愛……か」



 悟った顔で深く頷いた。

 説明が必要かと思ったが、コジロウなりに納得したようだ。



「委細承知した。クエストに挑む際はひと声かけてくだされ」


「もう行くのか?」


「しばし旅に出て拙者なりの答えを見つける。これにてご免」



 コジロウはペコリと頭を下げると、修練の場を後にした。




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