昇格試験編

第15話 冒険者ギルドへ。ランク昇格の道


 ――――ダークポイズンスライムを討伐した一週間後。



「おめでとうございます!」



 急な呼び出しを受けて冒険者ギルドへ向かうと、カウンターで受付業務をしていたお姉さんに拍手で迎えられた。



「規定のクエスト数をクリアしたことで、ユウキさんの実績が認められました。これでランク昇格試験を受けられますよ!」


「よかったなユウキ。ついにシルバーランクになれるぞ」


「うん! これもロイスがクエストを手伝ってくれたおかげだよ」


「そんなことない。ユウキが頑張った結果だ」



 この一週間でオレたちは10件ほどのクエストを達成した。

 どれもブロンズランクの依頼なので危険も少なく、今のユウキにとっては朝飯前だった。



「うんうん。仲睦まじい限りで。見ているこちらも笑顔になります」



 オレとユウキのやりとりを見ていたお姉さんは、眼鏡の奥の瞳を細めて笑顔で頷く。



「ロイスさんのパーティーは個々の実力はありましたが、まとまりがなかったので傍から見ていて心配だったんです。その様子ですとパーティー仲は改善されたようですね」


「いやぁ……まあ。あはは……」



 相変わらず笑顔で辛辣しんらつなこと言うな、この人……。



「ユウキさんは長髪にイメチェンされたご様子で。それと、どことなく胸の膨らみも増したような。もしかして……」


「な、なに言ってるんですか。ユウキは男ですよ」


「そうですよ。男同士で仲良くして何か問題でも?」



 オレは冷や汗をかきながら、ユウキはニコニコと微笑みながらお姉さんに問いかける。お姉さんは全力で首を横に振った。



「とんでもない! むしろ大好物……じゃなかった。愛のカタチはそれぞれですから。わたくしは応援しますよ」


「ですよね♪」



 お姉さんの態度にユウキは機嫌よく頷き、俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。



「愛の絆がボクを成長させたんです♪」


「いい話ですねぇ。イケメン騎士と金髪ショタの愛の絆。今日も腐りかけのパンが美味しい!」


「人の恋路をオカズにしないでくれます……」



 どうやらお姉さんには特殊な趣味があるようだ。

 上手く誤魔化せたみたいだし、このまま勘違いさせておこう。



「お姉さん。昇格試験について説明を」


「かしこまりました」



 お姉さんもプロだ。

 眼鏡を光らせて、キリリとした表情でユウキを見つめる。



「冒険者ランクを上げるには、ギルドが定めた二つの試験をクリアする必要があります。一つ目は、規定数のクエストをクリアすること。こちらはすでに条件を満たしました」


「二つ目は試験官とのタイマン勝負に勝つこと、ですよね」


「はい。勝負の内容は担当の試験官に一任されます。基本的には試合形式で行われ、シルバーランクにふさわしい能力やスキルを所持しているか見定めます」



 お姉さんは説明を終えると、ユウキに語りかけた。



「試験を受ける前にギルド会員の証であるバッチを見せてくださいますか? これも規則ですので」


「問題ないですよ」



 ユウキはブローチとして胸元につけていたバッチをお姉さんに渡す。

 バッチの裏にはユウキの名前が書かれていた。



「失礼。……ステータスオープン」



 お姉さんはユウキに体に手をかざして、ステータスを表示させた。

 それとは別に、紙で記された冒険者名簿も確認する。



「ユウキ・マリアドール。職業プリースト。レベルは19……、と。能力値的にも問題ありませんね。名簿上は男性で登録されています」



 ステータスには性別が表示されないが、ギルドの名簿には名前と性別も書かれる。

 冒険は過酷だ。死体が発見されたとき原形をとどめてない場合もある。

 死体はステータスを表示できないので、名が刻まれたバッチと名簿を照らし合わせて生死を確認する必要があるのだ。



(デュラハンであるオレのステータスが表示されるってことは、一応は生きている人間の扱いなんだろうな……)



「確認が終わりました。バッチはお返しします」



 お姉さんはステータスと名簿を照合し終えると、ユウキにバッチを返した。



「試験を受ける際はわたくしに声をかけてください。適正に合わせた試験官を選出したあと、日時と会場をお知らせします」


「わかりました」



 ユウキは何食わぬ顔でバッチを受け取る。

 そんなユウキの隣で、オレは額に浮かんでいた冷や汗を拭った。



(ふぅ……。裏のステータスはなんとかバレずに済んだな……)



 ◇◇◇◇



 ――――前日の夜。

 オレとユウキはベッドの中で作戦会議を行った。



「ステータスに表示されるボクの職業はダークプリースト、ロイスはデュラハンだ。持ってるスキルも物騒なものばかりで、ステータスを見られたら職質されかねない」


「だな。魔女の伝説が廃れてるとはいえ、魔属性のスキル持ちを教会が野放しにするとは思えない」


「そこでボクの出番だ。死印を通じてステータスを改ざんする」


「そんなことができるのか?」


「効果は実証済みだ。ボクのステータスを見ても、誰もダークプリーストだと気づかなかっただろう?」


「ああ。へっぽこプリーストだと思ってた」


「へっぽこ言うなっ」


「おわっ、やめろって」



 ユウキはぷくりと頬を膨らませて、オレの胸をぽかぽかと叩いてきた。

 お互い裸のままベッドにいるため、不用意に肌が触れあって気分が高揚してしまう。



「ステータスは女神の恩寵、つまりは聖なる加護によって閲覧できる仕組みなんだよ。だから……」


「【闇の寵愛】で加護を打ち消してステータスを書き換えるってわけか」


「そういうこと。自称プリーストであるボクのステータスはこれ」



 ――――――――――――――――


【ユウキ・マリアドール】


 ●冒険者ランク:ブロンズ

 ●クラス:プリースト(Lv21)


 ●能力値:【体力20】【反射24】【知覚29】【理知38】【幸運8】


 ●所持スキル:【魔法属性付与/中級】【武具強化/中級】【回復魔法/中級】【感知魔法/中級】


 ――――――――――――――――



「安心する数字が並んでるな」


「これなら初心者から抜け出した中堅冒険者っぽく見えるでしょ」


「上位個体のダークポイズンスライムを倒したわけだから、実力的にもレベル20前後は妥当だろうな」


「ロイスのステータスはパラディン時代のに設定するね。ホーリー系のスキルは実際に使えないからハッタリなんだけど」


「ボロが出ないように気をつけないとな」



 特にユウキ以外のパーティーメンバーに出会ったときは注意したい。



「ステータスをいじれるなら、能力値を低く見せて無能を装っていたのにも理由があったのか?」


「それは素で能力が低かったんだよ。ステータスが上がったのはダークプリーストに目覚めたあとだから」


「やっぱりへっぽこじゃないか」


「むーーーー! だからへっぽこ言うなっ」



 ユウキがへそを曲げてしまった。

 無能と呼ばれていたのが相当トラウマだったらしい。

 実際、それでこじれてパーティーを全滅させたくらいだからな……。



 ◇◇◇◇



 そうしてオレたちはステータスを改ざんしてから、冒険者ギルドに顔を出した。

 バレないかとヒヤヒヤしたが、どうやら上手くいったようだ。



「準備を済ませてからまた来ます」



 受付のお姉さんに頭を下げて、ギルドを後にしようとすると――――




 ――――



 ロビーの一角にて冒険者たちが盛り上がっていた。

 ソファーに座った魔法使い風の幼女が水晶玉を前に占いをしていた。

 その結果を見た周囲の冒険者が一喜一憂しているらしい。

 気になったオレは受付のお姉さんに尋ねてみる。



「アレは何を占ってるんですか?」


「お天気ですよ。クエストの成否は天候に左右されることも多いですから」


「なんだそんなこと……」


「えっ!? 天気を占えるんですか?」



 どうしてもいいと話を終わらせようとしたら、ユウキが食いついてきた。お姉さんが頷く。



「はい。あちらにいらっしゃるさんはお天気占いのエキスパートで、3日先の天気まで占えるんですよ」


「すごい! この時代にも……じゃなかった。この地域にも精霊と話せる魔法使いが生き残っていたんですね」


「え? ええ、まあ……」


「そんなにすごいことか?」


「すごいよ。だって【精霊召喚】は……っ」



 そこまで口にして、ユウキはハッとしたように目を見開く。代わりに口を閉じた。



「ごめんなさい。ロビーで大はしゃぎして。田舎出身なもので占い師が珍しくて……」


「ふふっ。かまいませんよ」



 受付のお姉さんがにこりと微笑むと。



「そこなプリーストよ。興味があるなら占ってみるか?」



 占い師の幼女がユウキに声をかけてきた。名前はカーラと呼ばれていたな。



「初回サービスじゃ。タダで占ってやろう」


「いいの?」


「もちろんじゃ。こうして出会ったのも何かの縁。いや、必然じゃからのう」



 カーラ――耳の長い金髪エルフの幼女は、まるで老人みたいな口調でユウキに語りかけ。



 


「……っ!」



 ユウキを昔の忌名で呼んだ。




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 2章スタートしました!

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