第3話 死に戻り:追放シーンのやり直し
気がつけばオレは酒場におり、ユウキとテーブルを囲んでいた。
テーブルに並べられているのは、豚肉と野菜の炒めものだ。
豚バラ肉に絡んだ甘辛いタレの芳ばしい薫りが鼻を満たす。
(オレは【魔竜の洞窟】でユウキと戦っていたはず……)
シリアスなシーンから一転。
あまりにも日常的すぎる光景に、オレは懐かしさと同時に軽い目眩を覚えた。
頭を振って周囲の様子を窺う。
石造りの少し寒さを感じる店内。窓の外には夜空が見える。
奥には木製のカウンターバーがあり、テーブル席では顔見知りの冒険者達が酒を酌み交わしてた。
間違いない。ここは冒険者御用達の酒場、カモメのジョイナス亭だ。
「確かにボクは万年レベル1で冒険者ランクもブロンズのままだ。体も虚弱で荷物運びも満足にできない。だけどその分、回復魔法や援護魔法でパーティーに貢献してきたじゃないか」
「ユウキ……」
豚バラ定食を挟んだテーブルの向こうには、ユウキが座っていた。
(オレは夢でも見ていたのか……?)
脳裏によぎるのは仲間の返り血で血まみれになったユウキの姿だ。
だが、目の前にいるユウキは以前の姿のままだった。
改めてユウキの容姿を確認してみる。
ユウキは金髪碧眼の少年だ。
目鼻立ちもよく、美少年と言ってしまっても差し支えない。
表面に聖刻印が描かれた、ゆったりサイズの白いチュニックを着ている。
武器として小さなメイスを腰に提げていた。
聖刻印のチュニックはプリーストの正装だ。
格好こそ一丁前だが華奢な体つきをしており、童顔なのもあって冒険者には見えない。
もちろん、仲間殺しをするようにも見えない……。
「ねえ、ロイス。ボクの話聞いてるの?」
「すまない。何の話だっけ?」
「だからボクをパーティーから追放するって話」
ユウキはぷくりと頬を膨らませて、オレにジト目を向けてくる。
長い付き合いなので、ユウキはたまにこうして遠慮のない視線を送ってくることがあった。
「ボクを追い出したらどうなるかわかってるよね。自分たちでパンツを洗わないといけないんだよ」
「そ、それは……」
「困るでしょ? まったく。キミも含めてウチのメンバー全員、戦闘以外はまるでダメなんだから。ボクがいないと冒険は成り立たないよ?」
話し合いは優勢に進んでいると思ったのか、ユウキは得意げな笑みを浮かべている。
そんなユウキを余所に、オレは頭の中で考えをまとめていた。
(だんだんと思い出してきたぞ……)
これは一ヶ月前のできごとだ。
今からオレはユウキを無能だと罵ってパーティーから追放する。
ユウキを追放したあと、オレたちは【魔竜の洞窟】に挑んだ。
苦労の末に奥まで到達したところで、ダークプリーストになったユウキが立ち塞がった。
どういう理屈かわからないがユニークスキルに覚醒して、その破滅的な力でオレたちを全滅させたのだ。
(だが、オレは生きている……!)
壁に掛けられた鏡に自分の顔を映してみる。
そこには黒髪黒目の見慣れたオレの顔があった。
年の頃は20。ファイター時代に鍛えた精悍な肉体を持ち、今は聖騎士の鎧を脱いで簡素な布の服を着ている。
ゴーストになって誰かの体に乗り移ったとか、そういうわけでもなさそうだ。
女神さまの気まぐれで、時間を一ヶ月前に巻き戻したのか?
理由はわからないが、もしもそうなら――
「ユウキ!」
「は、はい!」
オレはユウキに声をかけて、その華奢な手を握った。
「おまえを追放すると言ったな。あれは冗談だ。これからも一緒に冒険しよう!」
オレは全力で死亡フラグを回避することにした!
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半妖の少年退魔師。登録者数=霊力のチート能力に覚醒して最強配信者として鬼バズる。~モンスターを式神にしてダンジョンマスターに成り上がります~
◇ジャンル:現代ファンタジー
◇タグ:ダンジョン/配信/男主人公/最強/高校生/ハーレム/成り上がり/カクヨムオンリー
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