第11話 みんなで「乾杯!」

「まー!そろそろ出かけるぞー。したく・・・できてねえじゃん!」

「洗濯物しまってるところ。着替えれば準備完了だよ。ちょうど良かった。はいこれ」と私は言って、畳み終えた忍の洗濯物を手渡した。


「サンキュー」

「・・・いち兄ちゃん、そのシャツ私が着たかったんだけど」

「いや聞いてねえし!てかこれは“俺の”シャツだから!俺が“今日着たい”と思ったら、“俺が”着てもいいっしょ?それとも雅希はどーしても、これが着たいのか?」

「ううん。じゃあ忍のでいい。なんか服貸して」

「俺は“のでいい”レベルかっての」

「それよか雅希はもーちょっと自分が着るものに興味持ちなさい!せっかく元が良くて女子力高いほうなのに。もったいねーじゃん」

「霊力の間違いじゃないの」

「ほらそこ、言い合いしない!それからまー、女子の服借りたきゃ女子に言えよ」

「“妹たち”の服は窮屈だもん」

「小・中学生と高校生じゃ体型が違うからなあ。母さんはもう仕事に出かけたし。今家にいるのは、みおおばさんとー」

「澪おばさんは私以上に着るものには無頓着だからダメ」「だよな」と言ってるところで、父さんとあらた叔父さんと千広ちひろおばさんが来た。

千広おばさんは新叔父さんの妻だ。


「雅希。おまえまだ着替えてねえのか?もう出かける時間だろ?」

「着て行く服がないから忍の借りようと思ったけど拒否された」

「そっか。じゃあ父さんのシャツ着るか」「嫌」「即答かよ・・・」

「だったら雅希ちゃんが一番お気に入りのオイラ・・」「絶対嫌」

「“絶対”つけられてんのー」

「しかも新叔父さんが言い終わらないうちに即答した!」

「まったく。いい年したオジサンたちが、こぞって思春期真っ盛りの娘にそういうことを言わないの!特に新っ!」「は、はいっ!?なんでございましょうか奥様」

「もっと言いかたに気をつけなさい!あんたのその言いかたは、一歩間違えば変態入りよっ!」

「ついに変態までキタ・・」「俺は雅希の父親だぞ!?」

「さすが神谷検事」「千広おばさんつえぇ!あっという間に主導権握った!」

「神谷の女は男より強いんだぜ。忘れたか~?」とささやく新叔父さんに、忍は「知ってる」と、一兄ちゃんは「普段見慣れてるから忘れてた」と答えた。


「それよか出かける時間、迫ってんだけど!」

「じゃあ忍、服貸してよ」

「だからー、妹たちの服が窮屈ならおばさんたちの服借りればいいじゃんか」

「体型が合わないもん」

「俺らだって合ってないっしょ」

「でも忍とか一兄ちゃんの服はサイズ大きくて着るとダボダボだから、窮屈よりマシ」

「でもねえ、それだと返って胸が目立つこともあるのよ」

「え?そうなの?」と聞いた私に、千広おばさんは頷いて応えた。


「大切なのは、自分の体型に合ったサイズの服を着ることよ」

「じゃあ・・・これでいい」「よくねえよ!」

「それ、部屋着兼パジャマだから」「しかもシミつきの」

「油のハネあとがどうしても取れないんだよね。やっぱりエプロン使ったほうがいいのかな」

「だから論点はそこじゃないっての!」

「あ、そうだね。じゃあ手っ取り早く制服着て行こ。悩むのめんどくさいし、時短にもなるよね?」

「てかそれ、“時短”じゃないから」

「もしかしたらまーは、澪おばさん以上に着るもの無頓着じゃね?」

「何か大切なものを省いてる気がしてならねえ」

「“省いてる”んじゃなくて、“バッサリ断ち斬られた”、みたいな?」

「こうなったら忍!」「はいっ?」

「おまえの服、俺の娘に貸してやれや」

「えぇ!?俺そんなにたくさん服持ってねえし」

「もう一着分くらいは持ってんだろ?」

「そりゃあるけど・・・」「忍」

「なに」

「ジーンズだけでいい。貸して」「うー・・・」

「時間ないんだよ」

「うを~!分かったよ!今日だけだからなっ!」

「ありがと忍」

「やっぱ神谷の女はマジつえぇ・・」

「頼雅伯父さんは、まーの出かける用服買っといてよ!」

「分かった。これでおまえには借りができたな」

「そーだぞ!この貸しはデカい!」

「俺、デカ(刑事)だけど」「うわあ。頼雅、そのシャレ寒っ!」

「それに父さんは刑事じゃないでしょ」

「細かいことはいいんだよっ。それより雅希は早く着替えてこい!」

「はーい」

「服選びは私も手伝ってあげる」

「ありがと、千広おばさん」

「忍はぼさっと突っ立ってないで、私たちを部屋に案内する!」

「い、イエスマム!」








「いらっしゃーい!どうぞ、上がって上がって!」

「うわぁ」「マジでけぇ!」「広―っ!」

「初めてうちに来てくれた人の三大コメント、もう出ちゃった」

「あぁうちはね、元は6部屋あったんだがめんどくせーから1部屋と庭に変えたんだ」

「へ?」「すげー!」

「てか“めんどくせー”からってフツーここまで変えるか!?」

「なんか、次元が違う!」「スケールでっけぇ!」

「長峰って実は“お嬢”だったんだな」

「あのう、お父さんのご職業は?」

「これといって特に働いてる様子はないから・・・無職?」

「え⁉」「マジですかっお父さんっ!!」

「あ、この人は私の父じゃなくて叔父だよ」

長峰悠希ながみねゆうきです。俺のカワイイ姪が世話になってるな」

「ちなみに、私の父さんと叔父さんは一卵性の双子だから、私の父さんも叔父さんと外見は同じだと思って」

「悠希おじさまぁ!お久しぶりです!」「相変わらずダンディーなカッコよさ!」

「あぁ、すでにいい匂いがこのどデカい家中に漂ってるぅ!」

「ユキおじさんがいろいろ作ってくれてるところ。みんな、リビングにどうぞ~」

「あれ?よるちゃんのご両親は?」

「弟連れて出かけたよ。弟のスパイク買いに行くって言ってた。どっちにしても夕方までは戻らないから。その代わりというわけじゃあないんだけど、今日は悠希叔父さんとユキおじさんに、保護者兼お目付け役兼調理担当として家にいてもらってもいいかな」

「もちろんオッケー!」

「ユキオくんの手料理が食べられるなんて、すっごい幸せ!」

「このときのためにうちは今日、おなか空かせまくって来ましたよって」

「めぐりちゃん、本気だ」

「こと食べものに関して、うちはいつでも真剣マジどすえ」

「いらっしゃい!長峰家へようこそ。ワタシは調理担当の長峰由紀夫です。男の子も女の子も、ワタシのことは“ユキオくん”、って呼んでちょーだい!」

「ユキオは俺のパートナーな」


真珠以外の女子生徒はすでにユキオくんには会ったことがあるので、「お久しぶりですユキオくーん!」「ユキオくん、こんにちは~!」と挨拶をして再会を喜んだ。

そして男子生徒たちは礼儀正しく元気に「ちわーっ!」「ユキオくん、どうぞよろしくっす!」と挨拶をする。

そんな男子たちに、ユキオくんはニコニコしながら「よろしくぅ」と言った。


「女の子たちの中で、この子は初めて会うわね?」

「あ、佐渡真珠です。初めまして、ユキオくん!」

「真珠ちゃんって言うの?なんて美しい名前。それに真珠ちゃんはとっても愛らしいわ」

「ありがとうございます。えっと、女子のみんなはよるちゃんちに来たことあるの?」

「うん」「バレンタインのチョコ作りに」

「そのときユキオくんにご指導してもらったんだー」

「そっか」

「ねえみんな、来年もしようよ!ユキおじさん、いい?」

「他ならない姪っ子の頼みですもの、もちろんいいわよ。みんな、2月最初の土曜日は空けといてね!」

「やったあ!これで私の“彼”もイチコロよぅ!」

「とか言って、自分で食べるんじゃないのお?」

「そりゃ一つくらいは」

「てかトトさま、彼いたの!?」

「はいはいっ、恋バナは後に取っといて~」

「一番“美味しい”ところだから~」「そ~ゆ~ことっ」

「ほなよるさんとナノカさんて、一番好きな食べ物は最後に食べるタイプですの?」

「うーん、そうだねえ・・・時と場合によるかな」

「私も。暖かいほうが美味しい食べ物は先に食べる、みたいな」

「なるほどねえ」

「はいはいっ、みんなー、今日のメインはピザよ!これならみんな食べられるでしょう?」

「うを~!!」「いい匂いが・・」「待ちきれませーん!」

「もう少しで焼きあがるから、それまでテーブルにあるものをいろいろつまんでいてちょーだい。ミヤコちゃん、飲みものの準備をお願いしてもいいかしら」

「うんっ」

「あーオジサンからみんなに一つ、ルール言っとくぜ~。写真撮影は基本禁止。理由は分かるよな?」

「プライバシーの保護ですね」

「ご名答。テーブルに乗ってる料理くらいなら写真撮っても良いが、うちと特定できるような物や建物内外の撮影は禁止。人の場合は相手の許可を得てから写真や動画を撮ること。ただしそれをSNS系にアップするのは止めとけ。おまえらまだ未成年だしな。裁判とか後処理とか、いろいろめんどくせ-から」

「料理の写真撮って、万が一インスタとかにアップするときは、うちとわかるような場所とか、人の名前は書かないでね。もちろんみんな、そのあたりのことは心得てると思うけど。念のため」

「了解で~す!」

「最低限守るべきソーシャルメディアエチケットだよね」と言うちなっちゃんに、私は「うん」と言った。


「よるっち~、飲みもの運ぶの手伝おうか」「俺も運ぶぜ」「俺も!」

「ありがと。男手があると助かる!」

「やっぱりミヤコちゃんのクラスの男子は、ただ礼儀正しいだけのお坊ちゃんじゃないのねえ。“ますますカッコいいオトコになる伸びしろ”を感じたわ。それにミヤコちゃんの受け答えも良いし。みんな、素晴らしい表情してる!あなたたち全員、すっごくモテるでしょ」と聞いたユキオくんに、「どうでしょうね」と無難に返す男子もいれば、開き直って「はい!」と答える男子もいたし、忍と界人はノーコメントで、ただ苦笑を浮かべているだけだったのが、返って「モテる」と肯定しているように、私には見えた。


「スペックの高い青春ねぇ。ステキ!」

「ユキオは感激屋で褒め上手だからな」

「ええっとマサキちゃん、ワタシ、今からシナモンロールを作ろうと思ってるんだけど」と言うユキオくんに、私は即「一緒に作りたいです」と答えた。


「そう言うと思って声かけたのよ。“ユキおじさんが作ったシナモンロール、雅希が食べたがってる”ってミヤコちゃんから聞いてたし。ワタシ、とっても嬉しいわ」

「ユキオくんが作ったシナモンロール、とても美味しかったです。あれからしばらくの間、家でシナモンロールを作ってました」

「まーは自分が納得するまで作り続けるタイプだからなあ。食べるほうの身にもなれっての」

「うちは家族人口多いから、みんなで分ければ毎日でも大した量を食べなくて良かったでしょ」

「そういえば、神谷くんと雅希は一緒に住んでるんだっけ」

「うん。父さんの兄弟の家族全員と一緒に住んでる」

「ちなみに俺の父さんは六人兄弟の四男で、俺は四人兄弟の次男っす」

「まあ。神谷家って大所帯なのねえ」

「はい。だからうちはそれなりに広いけど、よるちゃんちほどじゃないです」

「14人集まってパーティー開けるスペースとか、うちにはないっしょ」

「うん。忍、これ預かっといて」と私は言って、脱いだばかりの白いブラウスを忍に渡した。


「シナモンロール作るのに邪魔だから」

「はいはい」

「おおぉ、神谷雅希が脱いだーっ!」

「Tシャツ着てるじゃんか」

「でもあいつ、本気だ」「めぐりちゃんとは違った意味でね」

「あらあら。まだ乾杯していないのに、もう盛り上がってるわねえ。みんな元気なんだから。でも良いことね。今日はパーティーを楽しむことがメインの目的。シナモンロール作りはあくまでも脇役。だから今日、マサキちゃんに手伝ってほしいのは、生地を伸ばしてシナモンをふりかけて、形成するところまでね」

「はい。それがシナモンロール作りの中で、一番楽しいパートかも」

「そう言ってもらえて良かったわ。じゃあマサキちゃん、まずは乾杯しに行ってらっしゃい。みんな待ってるみたいだから」

「あ、はいっ。あの・・ユキオくんも行きましょう」

「そうだよ~!」「ユキオくんもパーティーの参加メンバーなんだから!」

「まあ。みんな、なんて心優しい子どもたち・・・!じゃあみんなの好意に甘えて、ワタシも乾杯させてちょうだい」

「悠希おじさまもぜひご一緒に!」

「俺は最初っからそのつもりだけど?」と悠希おじさんが堂々と言いきったことに、みんな爆笑した。


「はーい!みんな、うちに来てくれてどうもありがとう!今日のパーティーを機会に、慶葉学園高等部特進クラス1年のみんながもっと仲良くなることを確信して~。からの、かんぱーい!」


よるちゃんの音頭で、みんな一斉にグラスを掲げて「乾杯!」を合唱した。

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