【コミカライズ企画進行中】透明令嬢の報復〜絶望の炎と甘い闇〜

やきいもほくほく

一章 絶望の炎

第1話


───真っ黒な空に手を伸ばした。



空からは無数の雨が降り注いた。

徐々に指先の感覚がなり、体が動かなくなる。


(馬鹿みたい)


まるで、初めからここに居なかったみたいだ。

今でも耳に届く煩わしい笑い声と下劣な態度。


(こんな世界、大っ嫌い……)


どれだけ羨んでも、妬んでも、いくら願っても、お姫様になれやしない。


(…………私は、透明だ)


誰も私が見えない。

誰も私を必要としていない。

誰にも受け入れられない。

「まだ居たの?」「邪魔」

そう言われて、私は私を嫌いになってしまう。


(だけど本当は…………)


私は自分を見て欲しい。

私は誰かに必要とされたい。

私を受け入れて欲しい。

一度でいいから「貴女が居てくれて本当に良かった」と、言って欲しかった。


(……どうして、こんな風になってしまったんだろう)


苦痛からか、悔しさからか……徐々に視界が歪んでいく。

熱い涙が頬を伝って落ちていった。


(悲しい、苦しい、辛い……嫌い、嫌い、全部消えてなくなればいいのに)


そんな想いから、何もかもから解放されるのならば……こんな結末もいいかもしれない。


(ばいばい……大っ嫌いな私の世界)


眠るように瞼を閉じた。

最後に見たのは真っ赤に燃える自分自身だった。



* * *



シャルロッテは痛む体を起こして、髪を纏めるためにひび割れた鏡へと足をすすめた。

鏡に映るのは伸びっぱなしでボサボサな白色の髪も透き通るような赤色の瞳だった。

ガサガサの唇。異様に白い肌のせいで目の下の隈が目立つ。

どれも両親から受け継いだ色ではなかった。


物心ついた頃から『呪われた子』『悪魔の子』と、そう呼ばれていた。

何故自分がそう呼ばれているのか、それすら理解出来なかった。

それが発端かは知らないが、他の姉妹達と違ってシャルロッテはずっと虐げられてきた。


両親に触れた事も、笑みも向けられた事もなかった。

その理由は容姿以外にもあった。

この『ガルシア王国』の貴族が魔法を使う国だからだ。

貴族ならば誰もが使えるはずの『魔法』をシャルロッテは使うことが出来なかった。


もしもシャルロッテが魔法使えるようになったなら、あの二人のように愛されるかもしれない。

しかし何度も何度も力を込めても何も起こらない。

姉も妹も当然のように魔法を使えたのに、シャルロッテだけは何も出来なかった。

『役立たず』『ディストン侯爵家の恥晒し』

そんな名前で侍女達や家族から罵られることにも慣れていた。


幼い頃から物置きのような暗い部屋の中にずっと閉じ込められて育てられていた。

たまに部屋に入ってくる侍女達が最低限の食事を持ってくる。

固いパンと水、野菜の切れ端……部屋の外に出るまでは、それが当たり前だったし、シャルロッテにとっては全てがご馳走だった。

掃除や世話などのを嫌々ながらしては、シャルロッテにストレスをぶつけるように横暴に振る舞うとスッキリした顔で去っていく。


屋敷で働く者達からも冷めた視線で向けられて馬鹿にされていたように思う。

「どうせ旦那様達にはバレはしない。バレたところで……ねぇ?」

「アンタは必要とされていない。このゴミと一緒ね」

そんな言葉を聞く度に自分がいらない存在だと思えた。


いつも姉のハリエットと妹のイーヴィーが綺麗なドレスを着て、外で楽しそうに遊ぶ姿を部屋の小さな窓から食い入るように見ていた。

どんなに外に出たくとも、扉には鎖が巻かれて鍵が掛かっていた。

窓も小さく上階に部屋がある為、抜け出すことは出来なかった。

この部屋の中が、シャルロッテの小さくて大きな世界だった。


(羨ましい……)


綺麗なドレスも紅茶も美味しそうなお菓子も、楽しそうな笑い声も全部全部、シャルロッテには与えられることはなかった。


両親からシャルロッテは「顔を見せるな」「声を出すな」と言われいるのに、姉妹達は宝物のように扱われている。

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