余興 001
「すっかり大きくなって、見違えたよ……本当なら弟の成長を喜びたいところなんだけど、お前、父さんに歯向かったらしいじゃないか。エド兄さんのことも襲ったなんて、次男として胸が痛いよ。ああ、兄弟の絆はなんて儚く脆いんだ」
僕らの頭上で白々しく両手を広げるユウリ兄さん――いや、ユウリ。
「『無才』のお前がどんな卑怯な手を使ったかは知らないけど、『明星の鷹』のメンツが潰されたのは事実だ。その落とし前はつけないとな、ウィグ」
「ふん、何が落とし前だ。そんなもの、明日の対抗戦でウィグを負かせばいいだろう。今この場で議論するようなことではない」
僕が口を開く前に、ナイラがユウリを睨みつけた。
「……『豪傑のナイラ』か。もしかして君が協力してたの? だとしたら、あの一件はギルド間の抗争ってことになるけど」
「ウィグが『流星団』に入ったのは一カ月前のことだ。それ以前のことは知らん」
「なら、余計に口を挟まないでほしいな。これは『明星の鷹』とウィグの問題だ……なーに、二度と俺たちに歯向かわないように痛い目を見てもらうだけだよ。君には関係ないことなんだろ?」
「みすみす仲間を明け渡せと? 無理な相談だな。それにさっきも言ったが、正々堂々公式の場で決着をつけるのが落とし前というものではないのか? 感情を優先してこの場で憂さ晴らしをしたいというのなら、まず私が相手になろう……それとも、私と戦うのは怖いか?」
豪快に啖呵を切るナイラ。
ユウリとの間に、静かに火花が散る。
「おーっと! 何やら事情はわかりませんが、一触即発の雰囲気だー! 次期二つ名持ちの呼び声が高い若きエース、レンスリー兄弟次男のユウリ・レンスリー! 対するは、十五歳時点で二つ名持ちとなった才能の塊、『流星団』躍進の原動力、『豪傑のナイラ』! バッチバチの睨み合いだー!」
レジーナさんが壇上でマイクを握る(実況するな)。
「これはどういうことでしょうか、ガウスさん! 『流星団』の代表が息子さんであるというのも本当なんでしょうか! メンツが潰されたというのは一体⁉」
「……少しいいですかな」
興奮するレジーナさんを下がらせ、ガウスが前に出てきた。
先ほどまでの怒りを押し殺し、平静を装った態度である。
「……落ち着け、ユウリ。そちらのお嬢さんの言う通り、我々の問題は明日片付ければいい。むしろ公の場で完膚なきまでに叩き潰すことこそ、そこの無能に対する絶好の仕打ちになる。『明星の鷹』の代表はエドだからな、その点も都合がいい」
だが、とガウスは続ける。
「これも丁度いい機会だ……うちのユウリと『豪傑のナイラ』とでエキシビジョンマッチをするというのはどうかな、アウレア。盛り上がった会場の熱を放っておくというのも申し訳ないのでね」
「ほう……お前のとこの次男坊がナイラに勝てると思っとるのか? 対抗戦前日にケチがついても知らんぞ」
「あくまで余興だよ、魔女。いずれ対抗戦に出てくるであろう『豪傑のナイラ』の戦いっぷりを見られれば、それはそれで収穫だしな」
「ふん、そっちが本音じゃろうて……いいじゃろう。いけ、ナイラよ。ウィグのための前哨戦じゃ。こやつらの鼻っ柱をへし折って、ウィグへの餞にしてやれ」
「承知しました、マスター」
「ちょ、ちょっと待って」
咄嗟に、勢い勇んで歩き出そうとするナイラの肩を掴む。
「どうした、ウィグ」
「いや、えっと……」
「……私なら大丈夫だ。それに、仲間を侮辱されて黙ってはいられない。お前のためにも奴らに一泡吹かせてやるさ。信じてくれ」
笑顔で言い切って、ナイラはステージへと向かってしまった。
僕はその背中を見送ることしかできない。
「……」
急遽決まった試合だ、万全の救護体制なんてもちろん用意されていない……スキル持ち同士がぶつかり合えば、何が起きるかなんてわからない。
最悪の場合……。
「大丈夫ですよ、ウィグさん」
その場に固まってしまった僕に、エルネが優しく声を掛けてくる。
「ナイラさんが信じてくれと言ったんです。私たちもそれに応えないと……仲間なんですから」
「仲間……」
互いに助け合い、想い合う。
それが仲間だったっけ。
でも僕は以前、ナイラのことを――
「……わかったよ。僕もナイラを信じるさ」
僕は短く息を吐き、遠ざかる彼女の背を見つめた。
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