144てぇてぇ『禁止ってぇ、留めちゃうことなんだってぇ』

【破邪ルカ視点】



「な、な、な、なんですかぁあああ! これぇえええ!」


私はディスプレイに映し出された『破邪ルカ切り抜き動画。ルカちのいちばんかわいいところ♪』という文字を見て叫んでしまう。

というか、顔が熱い! なんだこれ!


「え? ルカばか? 文字読めないのぉ? これはね、『破邪ルカ切り抜き動画。ルカちのいちばんかわ』」

「読めます読めます! そうじゃなくてぇ! いつの間にこんなものを!?」

「ルイジが普段切り抜きとかやってるっていうから頼んだの」


ツノお姉さまの言葉に不覚にもうるっと来てしまう……。

でも、ツノお姉さまはにちゃああと笑って、


「アンタがガチ照れしてるところを見てニヤニヤしてやろうと思ってねぇえええ」


不覚にもぉおおおおおお! もおおおおおおおお!


私がジタバタしていると動画が始まってしまう。この曲は知っている。流行っているアイドルソングで若者に人気だ。そんな流行りの素敵な曲に合わせて私が画面の中で配信をしている。


『【ルカ先生の声と独特なワードセンス】』

『ルカ先生の声可愛い』

『ルカちゃん滑舌めっちゃいいから聞き取りやすいよ』

『ここの、これってとんでもなく正岡子規じゃないですかはクソわらったわwww』


私のいつもの配信の数少ない受けたトコロや評価されたシーンを切り抜いてタイトルやテロップを入れて下さっている。うれし……


『【ズレてるルカ先生】』


……ほえ?


『●リオで世界の平和の為に全部の敵キャラ倒そうとして時間切れになる人初めて見たw』

『ルカ先生、確かに色んなモンスター仲間になりたそうにこっちをみているけど、我々は先に進んでほしそうにそっちをみているよw』

『ルカ先生、それは永遠に動物にエサを与えてニコニコするゲームではありません。前に進んでください』


ほぎゃあああああああああああ!

家ではゲームをしなかったせいでやらかしてしまった過去のアレコレがほじくり返されているんですけど!

ああああぁあああ、色んなゲームでよく分からないままに時間が過ぎ終わっていった記憶が……でも、これはツノお姉さまが毎回説明を見ずに始めなさいと言ったからで……。


その後も色んな失敗の映像が続いていく。

ああ、ああ、恥ずかしい……私は、風紀委員長なのに……。


曲が素敵でかわいいのに、私は。


『ぴぎゃああああああ! だから、ホラーはぁああああああああああ!』


ホラゲで泣き叫ぶ私。かっこわるい。

こんな人間が、だれかに何かを教えるなんて……。


「ぎゃっはっはっは! げほ、うえ、あー、おもしれー」


隣でめっちゃツノお姉さまが笑ってる。泣いて吐きそうになるほど笑ってる。

ふんふんって、いや、その顔正岡子規ですか。

なんて思っていたら、ツノお姉さまが横目でちらりとこっちを見て、また画面の方を見て言う。


「ねえ、ルイジ。この動画のシーンの選択理由ってなんだっけ?」


累児さんにそう尋ねると、累児さんは、おかわりの飲み物をいつの間にか持ってきてくれてて……。


「あ、どうも」


渡してくれた飲み物は冷たい緑茶で、ひんやりとしていて気持ちいい。よっぽど体中が熱くなっていたみたいだ。その冷たさを感じながら累児さんの答えを待っていると。


「そうですね、今回はファンが面白いってウケてる部分を一部取り上げました」

「……え?」


ごくり、と飲んだ緑茶が冷たくて気持ち良くて、すっとお腹の中を通り過ぎていく。

緑茶の香りが鼻を抜けていく。


画面の中では、素敵な曲とへっぽこな私がミスマッチに流れ続けていて。

いっぱいいっぱい失敗して反省ばかり書いてた配信の私がそこにいて。

それでもファンの皆さんは楽しそうにコメントしてくれていて。


「アンタの中ではおもしれーってワードセンスがあったり頭の回転が早かったりする人間の事かもしれないけどさ」


ツノお姉さまは画面の中の私をまっすぐ見て笑って言ってくれている。

私の尊敬するおもしれーを持つツノお姉さまは。

思い切りくしゃっと笑ったかと思うと、こっちの私を見てくれて。


「クソ真面目なアンタもおもしれーし、好きって言ってくれる人もいるんだゼ☆」


その悪戯っぽくて綺麗な瞳で私に画面を見るよう促す。


『【クソ真面目ルカ先生】』

『ルカ先生、今日も配信してくれてありがとう』

『毎日やってくれて人生の楽しみです!』

『わたしもがんばります!』

『どの配信も一生懸命で好きです』

『ファンの為にたくさん配信ありがとう』

『ありがとう、ルカ先生』

『ルカ先生の授業なら毎日きます!』


そこにはいっぱいいっぱいのコメントが、私のクソ真面目な配信にいっぱいいっぱい素敵なコメントが贈られていて。


「アタシには出来んよ。毎日時間通りにちゃんと配信なんて。クソ真面目だって武器だよ。アンタの立派な。だからさ、そのクソ真面目を愛して信じて武器にしてもっと色んなことにチャレンジしてみなよ。禁止とか言ってないでさ、何が自分はダメだと思っていて何はいいと思うのかクソ真面目に説明してあげなよ、センセ」


私の耳にお姉さまのいっぱいいっぱい愛情のこもった言葉が贈られて。

緑茶の味が、する。香りが、冷たさが自分の中で色んなものをクリアにしてくれて、思い出す。



『進みたい道を進めばいい。だけどな、人に振り回され過ぎないように生きろよ』


父の言葉を。あの時父はあのあと……。


『俺は、お前を応援してるから』「俺も、ルカさんを応援してます」


記憶の中の父と目の前の累児さんの言葉が重なる。


そうだ、私は『応援』したかったんだ。

誰かの人生を決めたかったわけじゃない。

ただ。

ただ。

少しだけ前に進む勇気を与えたかった。

父のような人になりたかったんだ。


いや、なれる。

なろう。

毎日毎日愚直に応援しよう。

少しでもみんなが元気になれるような配信を贈ろう。

声を届けよう。


それで明日を頑張れるように。


いつの間にか置いておいてくれたちょっと塩のきいたこのクッキーのように、目立たなくても強烈でなくても一番じゃなくても。


私は私に挑戦して、みんなの背中を押してあげよう。


クソ真面目に。


少しずつでも。少しずつでも。


進もう。


クソ真面目に。


お姉さまに笑われながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る