89てぇてぇ『出るときってぇ、出た後のことを考えると憂鬱なんだってぇ』

「明日から、俺、此処にいないんで。皆さん、身体気を付けてくださいね」

「「「「「は?」」」」


 俺の発言で場が騒然とする。

 まあ、そうなるだろう。だから、ギリギリまで隠しておいた。


「ちょ、ちょっと、ルイジ君、嘘だよね……え? 待って……出て行くってこと? え? ツノ、なんか悪いことした……?」

「や、やだ……! ぜったい、ぜったい、やだよ……。ノエ認めないよ……ルイジが出て行くなんて……」

「るいじさん、何かさなぎ悪い事しましたか……?」

「センパイ、嘘だよね……ねえ、嘘だって、言ってよ!」

「るいじ……どうして……?」


 うーん、やはり、ギリギリまで伏せておいてよかった。

 とはいえ、言わないと言わないで大変だろうから、ギリギリで伝える事にしておいてよかった。

 あれだけのワードでこんだけネガティブになれるとは、流石だな。


「えーと、勘違いしてるかもしれませんけど、俺、ちょっと間、此処を空けるだけですからね。ちょっとイギリスに行って来ます」

「「「イギリス!?」」」

「なんでまた?」

「海外チームと会ってきてほしいと社長に言われたのが目的の一つでして……」


 そう言うと、みんなほっとしたようにへたり込む。

 そこまで家政夫として必要としてくれてるなら嬉しいよ。家政夫としてね!


「だから、そーだと榛名さんには、諸々伝えて暫くの間は大丈夫なように手配してますんで、皆さんいい子にしていてくださいね。いい子にしていればおみやげ買って来ますから」

「「「「は~い!」」」」


 よかったー。社長の言う通りだった。『あなたがおみやげ買ってくるとでも言っておけば、本人達は納得してくれるんじゃない?』って。


 流石社長!


「ちょおっと待ってもらっていいかしら? この中で一番家事が出来るそーだが知っていて動揺してないのは分かるんだけど……片時も離れたくないお姉さんが余裕なのがツノ的にひっかかるんだけど……そういえば、目的は複数あるみたいな言い方だったよね?」


 ツノさんが手を挙げて質問してくる。流石ツノさん、よく聞いてるし、頭が回る。

 さて、なんて言うべきか。姉さんに目線を送るとふっと微笑み、頷いてくれる。

 流石、姉弟、以心伝心だね。


「ふふ……ツノ、答えは簡単よ。登録者二百万人突破記念のご褒美旅行も兼ねているからよ」


 全然違った。


「「「「「はぁああああ!?」」」」」

「うてめ、てめーずりぃぞぉ! ルイジ君と二人で海外旅行だなんて……! アタシ達の手の届かない所でキャッキャウフフか、このやろー!」

「う、うてめ! それは、や、や、や、やらしいわよ! ノエ、認めない!」

「うてめさんとるいじさんがお二人で、愛の逃避行……? さなぎは……どうしたら……」

「やだやだ! センパイ、いっちゃヤダ! 絶対この人、リミットブレイクしますよ! 海外での身の危険より、身内の方が危険ですよ!」

「うてめ、せんぱい……獣の目をしてる……」

「うふふ、お二人とも楽しんできてくださいね」


 姉さん、それは隠しておく約束だったよね!?

 全員が殺気立ち始める……ま、マズい……!

 こういう時は社長から教えてもらったキラーワード2を。


「あ、あー、社長から伝言です。その……『みんなも200万人突破目指して頑張ってね』だそうです」

「「「「はぁああああ!?」」」」

「ちょっと待って! そう、そうよね……うてめが二百万人突破でルイジと、海外組視察を兼ねた二人旅行するんなら、逆もまた然り……ノエたちにもチャンスはあるって事よね……?」

「「「「「あ……」」」」」


 だから、これは言いたくなかったんだ!

 全員やる気出しちゃったじゃないか! もー!!!!

 くそう! 流石社長! みんな口々に見送りの言葉を送りながら部屋へと戻っていく。


「なんか……オレ、最近、アンタが可哀そうになってきたっス」


 榛名さんがぽんと肩に手を置いてくる。

 そーだも逆の肩に手をぽんと置いてくる。


「うふふ……累児さん……私、いっぱい頑張りますから、おみやげ期待しておきますね。気持ちでいいですからね」


 そーだのおみやげアピールが凄かった。


 はあ、お土産選びでめっちゃ頭を悩ませることになりそうだ。

 まあ、楽しいネタになるようなものをばっちり選んできてあげますよ!


 そして、俺と姉さんは、イギリスへと向かった。


「うふふ、累児、なんか新婚旅行みたいね」


 ワルプルギスのVtuber海外支部の子たちに会いに!

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