クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
86てぇてぇ『受験生勝手に応援特別編・ガガってぇ、がんばり屋なんだってぇ』
86てぇてぇ『受験生勝手に応援特別編・ガガってぇ、がんばり屋なんだってぇ』
『明日は大学入学共通テストですよね! 多分、受験生はほとんど見てないだろうけど……それでも、みんなで一緒に念を送りましょう! みんなで、とぶぞー! がんばれ、受験生! さなともの皆さんも一緒にがんばりましょうね! ばいばいっ!』
〈がんばれ受験生!〉
〈ばいばいっ!〉
〈ありがとう、さなぎちゃん〉
さなぎちゃんの朝配信を見ながら俺は朝食の準備を進めていく。
受験シーズン。
ニュースでは、風物詩のように語られるが、受験生はそういう時期だねえと言ってる場合ではないだろう。
この時期になると思い出す。アイツの事を。
「おはよ」
やってきたのは、ガガ。うちで一番リアルでやかましいコイツが今日は一番大人しい。そして、この時間に起きてくるのは珍しい。眠れないのだろうか。
「おはよう。っていうか、お前はもう違うんだからそこまで緊張することはないだろ」
「ううー! でも! なんか! 緊張すんの! 大学受験ってワードが聞こえただけで胃がきゅっとすんの!」
そう、ガガは数年前に大学受験をした。高校3年の時に後悔するくらいなら、と【フロンタニクス】に応募して受かったガガは、短大にも行くという条件で親から許可を貰いVtuber活動をすることになっていた。あの頃は大変だった……。
社長がガガを面接ですげー気に入ってたから、これで受験ダメだったら、社長の機嫌がどうなるんだと戦々恐々していた。そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
まあ、元々れもねーどから外されて新人教育チームだったけど、浦井さんから、
『お願い! 天堂君! なんとか彼女を合格させて!』
と、言われた。
俺はぶっちゃけそこまで勉強は出来ない。だが、彼女の持つ才能をVtuberで見たい俺は最大限のサポートを約束した。あの頃の俺もめっちゃ頑張ってたなあ……。
「ううぅ~、天堂さん~」
「大丈夫? 瀬川さん?」
瀬川美空。まだ十代の彼女は共通試験一か月前から緊張していた。
まあ、でも、彼女からしたらそうなのかもしれない。短大合格というプレッシャーもさることながらVtuberになる夢もここにかかっているんだから。
だって、彼女はフロンタニクスの事務所に来て、レッスン前に勉強をするくらいだ。
本人曰く、『ここでVtuberになるんだっていう気持ちを高めて勉強したらがんばれる気がする』とのこと。
だけど、今はもうガタガタと震えている。
「今は、何が不安?」
「全部ですぅ! もう全部! 全部無理ぃ! 国語も数学も英語も! わけわかんなくてぇ!」
「うん、よし、一回落ち着こう。はい、じゃあ、これ飲んで」
俺は、テンパる彼女に飲み物を差し出す。チャイだ。
「あ、チャイだ……ありがとうございますぅ~」
涙目でチャイをすする彼女。ほぉ~と大きく息を吐き、ちょっとだけ落ち着いたようだ。
俺は、勉強は出来ない。ただ、頑張る人を応援する勉強は死ぬほどしている。
俺流だけど、テンパる人には、まず、飲み物。飲んで一息つく。ほぉ~っと息を吐くと、身体の機能的に気持ちが落ち着くらしい。あと、チャイのスパイスにも色々メンタルにききそうなのを少々。それに……。
「あー……生き返った気分ですー。ありがとうございますー」
「よし、落ち着いたね。じゃあ、まずはしっかりとやるべきことを整理しよう。全部だめってことは絶対にない。色んな所に穴がある気がしてそれを全部って言ってるんだろうけど、穴が開いているところ以外は、瀬川さんが頑張ったところだから。それを認めてあげよう。いっぱいがんばったところはあるけれど、ところどころ不安なところがある、に切り替えよう」
「……はぃ。ぁの……そうですね……こことかぁ」
瀬川さんは自分の不安なところを羅列していく。
よしよし。れもねーどもパニくると全部がうまくいってないように思い込んで荒れる。だけど、それは全部って思いこんでるだけ。いくらでも頑張っている所はあるのに、ついつい悪い所だけ目に入ってしまうだけだ。だから、それをちゃんとどこが駄目か見つけさせる。
「その中で、自力で頑張れたらいけるところはどこ?」
「えっとぉ……社会の暗記は繰り返せば、いける、かな……」
「よし、じゃあ、そこからやろう。っとその前に、瀬川さん、まず、逆に考えよう。此処にあげた不安なところ。それ以外のところは少しでも自信があるところってことだよね。頑張ってきたところってことでしょ。めっちゃ頑張ってるよ。だから、自信を持って。きっと出来るよ。これだけ出来た瀬川さんなら」
「ううぅ~はいぃい! がんばります! ありがとうございますぅ!」
勉強に集中し始めた瀬川さんから俺は一旦離れて、メッセージを送る。
すぐに返事が返ってくる。流石。
だけど、そのすぐ後に電話がかかってきて。
「もしもし?」
『ルイジ……また、あの子に勉強教えてるの?』
クールで綺麗な声。ピカタだ。
「あー、そうそう、ありがとな。助かったわ」
ピカタは、めちゃくちゃ勉強が出来る。だから、ピカタにおすすめの勉強法とか、問題の解き方を教えてもらっていた。分からないのは人に聞くのが一番だ。学校の勉強でもVtuberの勉強でも切り抜きの勉強でも。でも、学校の勉強に関しては本当はピカタに教えてもらうのが早い気がするんだけど、
「ルイジが教えた方が良い。ワタシは、勉強が出来ても、人に伝えるのが苦手だから」
と言って断られた。
ただ、ピカタの説明は細かくて本当に分かりやすい。俺と瀬川さんで一緒になってあーだこーだいいながらおおーっと盛り上がって理解していくのは俺としても楽しい。
『ルイジ……ほどほどにしないと、依存されるよ』
おまいうなんだワ。
という言葉を飲み込み、どんどんウチに来るようになったピカタに対し礼を言う。
『貸し1ね……。今度の弁当を楽しみにしてる……』
俺、お前の部屋も掃除してるし、ごはんもいつも用意してあげてるんだが?
という言葉を飲み込み、どんどん面白い配信をしてくれているピカタに礼を言う。
そして、電話を切り、再び瀬川さんの所に戻ると、同期の新野さんが瀬川さんの勉強を見ていた。
「あ、天堂さんおつかれさまです。うふふ」
「おつかれさま、ありがとね、新野さん」
「いえ、美空ちゃんの頑張る姿を見ていたら私も元気を貰えますから」
「うえ~ん、未来さ~ん、ありがと~! 頑張る~!」
「でも、天堂さんと美空ちゃんの二人のお勉強タイムを邪魔したくないので、私は行きますね。では」
「ちょっ! 未来さん! 何言ってんの!? ばかなこと言わないで! ねええええ!」
瀬川さんの絶叫は聞こえなかったように、うふふと笑いながら新野さんは去って行く。
ちょっと不思議ちゃんなところがあるけれど、とても綺麗な声で、瀬川さんと並んで期待の新人だ。
俺が新野さんを見送り、瀬川さんの方を向くと、瀬川さんはなんだか不機嫌で……。
「ど、どうした? 急に?」
「べっつに~。新野さん、清楚だな~っと思って~」
「そうだよね! めっちゃ清楚だよね! いや~、最高だわ~」
「そうですよねー、そうですよねー、天堂さんはそういうのが好きですよねー」
「ん? どした? 俺は瀬川さんも好きだよ」
「はにゃ!? な、何を、いきなり……!」
「瀬川さんのフロ合格前のゲーム配信見せてもらった事あるけどさ、こう、ガムシャラで一生懸命でついつい応援したくなるんだよ! 俺は思ったね! 瀬川さんは絶対いいVtuberになれる! デビューしたら絶対推すよ! 瀬川さんも、新野さんも!」
「……Vtuberとして、ですか?」
「え? うん、勿論」
俺がそう言うと瀬川さんが机に突っ伏しぶるぶる震えている。
え? ポケモ○? しんかするの?
と思っていたら、
「うにゃああああああ! 絶対合格して、Vtuberになって、天堂さんを夢中にさせてやるからなああ!」
「いよーし! その意気だ! 頑張れ! 瀬川さん!」
その日の瀬川さんは勉強もレッスンも絶好調だった。
「褒めて! 天堂さん! アタシ頑張ったから褒めて!」
「いいぞ! 最高だ! 君なら合格できるし、最高のVtuberにもなれる!」
「うにゃあああああ! やったらあああああ!」
瀬川さんの目は燃えていた。
少しの自信と、自分を奮い立たせる叫びと、勇気で戦おうと必死で、かっこよかった。
がんばれ、受験生! 頑張る姿って最高にかっこいいぞ!
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