クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
84てぇてぇ『言葉の壁ってぇ、高いんだってぇ』
84てぇてぇ『言葉の壁ってぇ、高いんだってぇ』
「ああああぁあああ、ううううぅううううう」
「さなぎちゃん、落ち着きなって」
ワルハウスのリビングでさなぎちゃんがウロウロし続けている。
俺は、それを苦笑しながら眺めつつ、配信見ながら、キッチンの片づけをしている。
「い、いや、でも! 緊張しますよ! だって! 海外組との初コラボがわたしとなんですよ! な、な、なんでわたしと……!」
「さあ」
俺はとぼけながら皿を洗い続ける。
「わ、わたし! 英語出来ないんですよ! しかも、コミュ障ぼっちクソゴミカス田舎女なんですよ!」
さなぎちゃんの自虐がひどい。だが、それが面白い。
「まあ、でもさ、向こうの一人は、日本語多少できるって話だし、大丈夫だよ。それに……」
「……それに?」
「なんでもない」
「わーん! るいじさんの意地悪~!!!」
気付けばさなぎちゃんが俺の背中まで来て服を掴んで引っ張りながら泣いている。
まあ、自称コミュ障ぼっちクソゴミカス田舎女ちゃんが、ここまで遠慮なく縋れるようになったのは、喜ぶべきだろうか。
そう、今日は特別な配信がある。
少し前に海外デビューしたワルプルギスの海外組とのコラボ配信があるのだ。
海外組からは、陰陽ヤミと、陰陽メイ。
リアル双子ではないが、バーチャル双子姉妹設定だ。
陰陽ヤミは、世界的に有名なマスクシンガー、ペルソナを兄に持つ陽キャスキルの高いコミュ強キャラ。日本語も多少喋れて、兄妹揃ってうてめファン、てめーらだと名乗っている。
そして、陰陽メイは、トークの半分が『ふひ』『ふへ』ながら神プレイ連発のゲーム中は異常な程に早口でトークが展開できる二重人格陰キャムーブで人気となっている。
その二人とのコラボ相手にさなぎちゃんが選ばれた。
当の本人は連絡を受けた時テンパり過ぎて、一日ナンバ歩きを披露していた。
そして、コラボ当日の今日も挙動不審全開でうろうろしている。
「そーだちゃんやマリネちゃんが英語喋れるのに、なんでわたしなんでしょうか。いや、分かってます。お二人は今、アレで忙しいから、アレがないわたしが余ってたからわたしなんでしょうけど、あああああああぁ~……!
さなぎちゃんが初配信の時くらい緊張していた。
まあ、とはいえ、初配信のように泣き出すことはないだろうけど、緊張度合いは物凄い。
そんな中で、さなぎ・ヤミ&メイの初コラボ配信が始まった。
俺は画面の向こうで応援だ。
『み、みなさん! こんさな~、今夜もみんなと一緒に~、とぶぞぉー! 十川さなぎです』
〈こんさな~〉
〈とぶぜ!〉
〈ちょっと緊張してる?〉
『えー、今回は事前に告知がありましたが、なんとコラボ、しかも、海の向こう海外組とのコラボです!』
〈いえええ!〉
〈とぶぜ!〉
〈待ってました!〉
『なんとなんとなんと光栄なことに、さなぎが海外組とのトークコラボ初ということで、コメントにもありましたが、緊張してまぶっ……緊張してます!』
〈噛んだw〉
〈かわいい〉
〈かみ降臨〉
俺は画面の向こうのさなぎちゃんの緊張感にどきどきしていたが、それでも、やはり、彼女も経験を積んでいるせいか、うまく緊張を使えているとは思う。
そして、ある程度、ファン達とのアイドリングが終わったところで、コラボ開始となる。
『では! お待たせしました! 海外組の陰陽ヤミさんと、陰陽メイさんとトークしてみましょう! とぶぞー!! こんさな~!』
『コンサナ~、ヤミでーす!』
『コンサナ~……メイ、デス』
黒い魔女のようなヤミと白い聖女のようなビジュアルの二人が登場する。
ヤミは陽キャムーブで滅茶苦茶元気、メイは陰キャムーブで怯えている。
入りとしてめちゃくちゃ分かりやすい対比が見え、良い感じだ。
『へ、へ、へろー! ないすとぅみーちゅー』
『アハハ! センパイ緊張してマスね! 大丈夫ですよ! リラックス~リラックス~。ね、メイ』
『イエス! リリリリリリラックス~』
『メイも緊張してるのカヨ! オーマイガー!』
〈二人かわいい〉
〈ヤミ日本語うま杉〉
〈今日のコラボは荒れそうだ〉
さなぎちゃんとメイがいい感じに共鳴して緊張しているのをヤミがうまくさばく。
さなぎちゃんも流石ワルプルギストップクラス。徐々に空気に慣れ始め、楽しくトークをし始める。
また、トークデッキとして用意した世界的有名アニメ当てクイズも盛り上がる。
『あー、えー、ブルー、ボール、ロボット、えー、フォーじげんポケット』
『『〇ラえもん!!』』
〈フォー次元ポケットてw〉
〈ブルー、ボール、ロボットはヒントとして無能www〉
〈それでも分かるからマジ世界的アニメよな〉
コメントも相当盛り上がり、海外からのコメントもどんどん来てお祭り騒ぎになっている。
「けど……」
俺は、メイの声が気になった。少し元気のない様子。
さなぎちゃんも気付いたのか、メイに話しかけはするんだが、
『メイ? えーと、ゲンキー?』
『あ、ウン……』
『イヤイイヤイヤ! 全然ゲンキじゃねーんだワ!』
〈www〉
〈ヤミのツッコミが鋭い〉
〈元気か聞く時の英語は覚えておこう〉
メイは、さなぎちゃんに話しかけられれば話しかけられるほど、どんどん声が小さくなっていく。
けれど、ヤミが何かしら英語でボケると、段違いの声量でツッコんでいる。
『あ、ウン……』
『メイ、そんなにア、ウンオンリーだと、サイトが見つからないヨ!』
『アンノウン!』
『イエース! ザッツライ!』
『ちょちょちょ! メイちゃん! 温度差が凄いよ! えーと、ホット、クール、ギャップ、ぐーん!』
『あ、ウン……』
『もうメイ、アナタ、ア、ウン……工場だよ! どんどん、あ、ウン……が生産されて、ジュヨウとキョーキューおかしくなっちゃうヨ!』
〈メイ使い、ヤミ〉
〈アウン工場長ヤミ〉
〈需要と供給分かるのか、すげーな〉
最後までヤミのツッコミが光り、盛り上がり続けた配信だったが、終わった後のさなぎちゃんの顔は暗かった。
「るいじさん……わたし、もっとやれましたよね……」
「まあ、アレはちょっとメイちゃんがアレだったね」
「いや! もっとわたしがいっぱい英語とか勉強出来ていればあんなことには……! メイちゃんに嫌われましたよね……絶対……」
ワルプルギスの海外Vtuber計画は結構なチャレンジだ。更に言うと、コケれば【ワルプルギス】としては大ダメージだ。
さなぎちゃんもそれが分かっているのだろう。今回の配信はもっと出来たはずだと自分を責めた。
「でも……あと2回、このコラボの予定なんです。るいじさん、わたしは……わたしが嫌われてもいいからメイちゃんを、みんなにもっと知ってもらいたいんです! だから、次回はメイちゃん得意のゲーム配信で悪役ムーブに走ろうかと思うんですけど、どう思います!?」
さなぎちゃんは、強くなった。
他人に頼るだけじゃなく、自分で考えて、そして、海外とはいえ後輩の為に悪役ムーブも辞さない、そんな心を手に入れていた。
だから、俺は、そんな頑張った彼女だからこそ、一つのヒントをあげることにした。
「さなぎちゃん、今からさっきの二人はコラボ後のアフタートークするみたいだよ。見てみようか」
「え……? でも、わたし……英語が……いや、見ます」
そして、リビングで海外の配信見るのは申し訳ないので、俺の部屋のパソコンを開く。
「るるるるるるるるるるるるいじさんのお部屋」
配信より緊張しないでほしい。俺も緊張してしまう。
そして、なんとか二人して深呼吸して落ち着かせ、配信を繋ぐ。
そこには、
『うぅ……う、うわぁあああああ~……』
泣いているメイちゃんがいた。
「え……?」
その姿に戸惑うさなぎちゃん。少しふらつき後ろに下がりそうになる彼女の手をとって、
「ちゃんと見よう。さ」
さなぎちゃんに座るように促す。
画面の向こうでは、メイちゃんが泣き続け、ヤミが慰めているようだ。
「わ、わた、わたし、やっぱり、何か言っちゃいけないことを言ったんでしょうか……」
さなぎちゃんの手が震えている。
英語が分からないせいか、目は揺れ続け混乱の色に染まっている。
「……えっとね、俺もそこまで得意じゃないから、間違ってたらごめん。えーと、今は、『ゆっくり話してみて』ってヤミが言ってるから、まだヤミもメイが泣いている理由が分かってないみたい」
「え? るいじさん英語分かるんですか?」
「ああ、まあ、海外Vtuberの言ってることを理解できるようになりたかったから、勉強はしたよ。でも、ネイティブスピードになるとちょっと厳しいかも。だから、今からゆっくり喋ってくれるみたいで、マジ助かる」
「いやどれだけ……ううん、るいじさんは本当にVtuber好きなんですね」
「うん! 結構翻訳して切り抜き作るの楽しいよ。じゃあ、出来るだけ頑張って翻訳するね」
「……お願いします」
そこからの話を翻訳しながらさなぎちゃんに伝える。
『ねえ、メイ。なんでそんなに泣くことがあるの? 何かいやなことがあった?』
『あった! あったよ! ヤミ! いっぱいあった!』
『嘘でしょ? そんな雰囲気全然なかったじゃない? 何がそんなにいやだったの?』
『……自分よ! 自分が、私は私が大っきらい!』
「え……?」
その言葉を伝えた時、さなぎちゃんは声を漏らす。
『どういうこと、教えて、メイ?』
『さなぎ先輩が、いっぱい話しかけてくれたのに、全然元気に答えられなかった! はっきりしゃべれなかった! あれだけヤミ達がニホンゴの勉強手伝ってくれたのに……全然できなかった! 私は嫌い! 自分が大嫌い!』
メイは嗚咽交じりでそんな事を言っていた。
「……さなぎちゃん、メイはね、陰キャムーブと言われてるけど、彼女は本当に内気で弱気な女の子なんだ」
重要な海外組一期のメンバー選び、俺も呼ばれて参加したが、メイについてはかなり意見が割れた。彼女のゲーム動画は素晴らしいものだったが、面接では『いひ』『うへ』を連発してた。
もっと喋れる人材がいるんじゃないか。
スタートは安定した人物がいいんじゃないか、と。
「でもね、俺は、彼女を推した。彼女は、こう言ってたんだ。『自分を変えたい』って」
『(英語)わ、わたしは……ヒキコモリで、ニホンのアニメばかり見てて、でも、Vtuber見て、好きで……憧れて、なりたくて……自分を変えたくて、応募しました』
彼女は面接時、そう言った。
そして、
『ガ、ガンバリマス! ヨロシクオネガイシマス!』
拙い日本語で思いを伝えようとしていた。
「どこかの誰かに、『純粋に笑って、怒って、悲しんで、その姿に感動して、私みたいな子でもそうなれないかな、そうなりたいって、誰かの友達になりたい』って言ってた誰かに似てると思わない?」
さなぎちゃんは何も答えなかった。けれど、ぽかりと俺を空いてる手で殴って、涙を拭っていた。
俺は、そんなさなぎちゃんを見ながらコメントを送る。
『あ……ウテウト! ウテウトからスパチャ来たよ! 質問も! メイさん教えてください、Vtuberでメイさんは誰が好きですか? だって……ふふふ、流石ウテウトね、ねえ、メイ、教えてあげてよ』
『いっぱい、いっぱいいる。ワルプルギスのメンバーは特にすき。でも、一番すきなのは……』
メイは思い切り鼻水を啜り上げながら一番すきなVtuberを教えてくれた。
『サナギ……』
「え……?」
さなぎちゃんがぎゅっと俺の手を握る。その手は汗ばんでいて……。
「やっぱりね」
「え……? るいじさん、知ってたんですか?」
「え? ああ、うん。面接のときは教えてくれなかったんだけど。分かったよ。だって、喋り方の癖とか身体の揺らし方とかかなり似てると思うけど?」
「え? そんなの分かるんです?」
さなぎちゃんが変なものを見るような目で見てくる。
いや、似てたよ。
まあ、本人は自分のことは分からないってやつかな。
『サナギが好きなのに、全然喋れなかった。きっとサナギは私のこと嫌いになったわ。私も嫌い、大好きなサナギを困らせる自分なんて』
『メイ~、それ以上そんな事言ったら怒るよ。そんなメイを愛してくれる、応援してくれるファンがいっぱいいるんだから、ね?』
『ごめんなさい……でも……』
気が付けばさなぎちゃんはスマホを取り出して、配信画面を開いていた。
そして、
『……見てみなさいよ、メイ、コメント欄』
『え……? あ、う、ぁ、うわぁあああああああああ~……あぁぁあああああああ~!』
メイは大号泣し始めた。
そこには、
〈十川さなぎ:I love you,MEI〉
コメント欄もメイも大洪水が始まり、おさまりそうにないくらいだった。
そして、その大洪水のまま、メイは口を開く。
『サ、サナギセンパイ……ダイスキデス……マ、マタ、イショニシャベッテホシイデス……!』
〈十川さなぎ:YES,ME TOO!〉
『うわあああああああああああん』
その日の配信は、かなりの時間、メイの大号泣を慰める配信になったが、ファンのコメントで溢れ、アーカイブも恐ろしい程の再生数を叩きだす当時の海外組配信で再生回数トップクラスの配信となった。
「るいじさん……お願いがあります。わたしに、英語を教えてくれませんか?」
さなぎちゃんは強くなった。
こうやって、先輩として声を掛けてあげられるほど。
言葉の壁を乗り越えようとするほど。
「勿論、いいよ。でも、そーだとかマリネの方がいいんじゃ……」
「るいじさんに、教えて欲しいんです。駄目ですか?」
強くなった。
「あ、あと、もう少しだけ、手を繋がせて下さい。そ、その、まだ、コメント送ったせいで心臓バクバクしてて、その、るいじさんの手、落ち着くんで……」
強くなった。色んな意味で。
降参した俺は、次回のコラボは何をするかを二人で笑いながら、そして、号泣するメイを苦笑してみながら話し合った。
そして、俺の部屋で手を繋いで話していた事がバレ、翌日、姉さんによるウテウト裁判が行われた。
なんで、わかるのかな? 姉さん?
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