76てぇてぇ『初詣ってぇ、一つの節目なんだってぇ』

※60てぇてぇ年末ワルナイト2ndのおまけ話となります。




 深夜、真っ暗な中、俺は歩き続けている。


 運動不足や引きこもりを連れて。


「はあはあっ……ヤバい、吐きそう……」

「ツノさん、大丈夫です? お水飲みます? そーだ持ってますよ?」

「ちょっと! ガガ! アタシの肩掴まないでよ!」

「いやあ、ノエさん、マジでジム行ってるんすね。体力あってすげー」

「ひひひひひとがいっぱい」

「ひいひい……さ、さなぎさん、オレに掴まってくれていいっす、から、ね……」

「ふうふう、ルイジ……おんぶ……」

「いや、マリネよりも幼馴染の僕をおんぶすべきだろう、累児」

「累児、姉さんがおんぶしてあげましょうか?」


 発言順から、ツノ様、そーだ、ノエさん、ガガ、さなぎちゃん、榛名さん、マリネ、るか、うてめである姉さん。


 今日はみんなで初詣に来ている。

 三が日は家でごろごろしている人も多いので、割とみんな配信をしたがっていたので、年末のワルナイトを終えて、少し休んで出発となった。

 るかは、一緒に実家に帰ろうとしていたのだが、俺達が初詣に行くと聞き、急遽変更した。

 るぅしーどの二人は、ワルナイト後すぐに感想配信をするらしく残念そうだった。


 他のメンバーも疲れやらスケジュールやらで帰って行った。

 なので、ワルハウスメンバー+るかだ。


 夜は基本みんな強いのと、ワルナイト後なのでそこまで眠くはなさそうだが、久しぶりにがっつり歩いてるのと人ごみで弱り始めている。


 みんなの為に出来るだけ人が少なさそうな場所を選んだけど、それでもさなぎちゃんやるかはびくついている。


「さなぎちゃん、るか、人、大丈夫か?」

「だだだだだいじょうぶです。さなぎも成長しましたから? まあ、初詣くらいならよゆーです、よゆー」

「僕だって、余裕さ。こっちに来て君の知らない間に成長しているんだよ、累児」


さなぎちゃんは胸を張って、るかは大きめの眼鏡をくいとあげて片頬を吊り上げた。


「おはようございまーす♪」

「「ぁ、ぉぁょぅごぁぃぁす……」」


 見事なフリオチである。

 巫女さんの爽やかな挨拶にモスキート音みたいな声で応える陰キャ二人。

 ただ、成長はしている!

 さなぎちゃんは、知らない人と話すときは、


「あ、え、あ、え、あ、え、あ、え……」


 と、滑舌の練習かのようにあとえを繰り返すし、るかは、そもそも人を察知すると逃げる。もしくは、聞こえないふりをする。

 それがちゃんとすぐにリアクションが出来ている。

 俺はその二人の成長にとてつもなく感動していた。


「二人とも、成長してるな! すごいぞ……」

「「ひ、ひひ……」」

「ノエさん、アイツら得ですよね」

「ま、まあ、そういう子結構いるから」


 ガガとノエさんがじとっと見ながらこっちを見ている。

 だが、成長は褒めるべきなんだよ! マイナスからのスタートなんだから!


「いやいやいやいや……」


 お賽銭があまりに人が多いので、一旦おみくじやらお守りを先に、となったのだが……。


「マリネ、買い過ぎじゃないか……?」

「ん。これ、ルイジの分」


 そう言ってマリネは、健康から金運仕事運などありとあらゆるお守りを買って渡してくる。

 そして、


「これはさなぎの分、ガガの分、これは……」


 マリネが少年漫画で仲間をボコボコにされて反撃している主人公みたいなことを言っている。ただ、この場合は恨みも何もない。良かれと思ってだ。


 マリネはプレゼントがマイブームになり始めた。手紙も続いているが、何かと出かけると、誰かにプレゼントを贈りたがるようになった。

 そして、貰ってお礼を言うと『ふんす』と鼻息荒く嬉しそうにしている。

 今回はみんなにお守りをあげたいようだ。爆買いしている。

 そして、お守り爆買いがもう一人。


「お願いします。健康運のお守りを10個と家内安全を10個と……」


 ツノ様である。業者か。

 ツノ様は、大体年初の配信でお守りを爆買いしたという話をしていた。ネタかと思っていたらどうやらマジのようでとんでもない数を買っている。

 だが、今年はこれでも少ない方だ。去年はもっと買っていた。心配したファンからスパチャでお守り代を送られていたくらいだ。


「こ、今年は……これだけで……あとは、自分で、がんばり、ます……!」


 苦悶の表情を浮かべながら我慢をするツノ様。


 成長しているらしい。

 マリネはどんどん周りとコミュニケーションをとろうとしているし、ツノ様もちょっとだけメンタルが強くなったようだ。


「え、えらいです……ふたりとも」

「「えへへ」」


 喜んでいる。少しずつ成長していけばいいと思う。うん。


「塩かけ婆に勝つ! ドロー! オープン! ガガのカード!」

「クソガキに負けるか! ドロー! オープン! ノエのカード!」


 おみくじである。神様に怒られないといいけど。

 なんだかんだで二人は仲が良い。今年はもっともっとコラボが増えそうだ。


「はっはっは! 大吉ですよ! ノエさ~ん?」

「ふん! 甘く見ない事ね……こっちも大吉よ!」

「な、なにいい!?」


 楽しそうで何より。新年初ガガノエはてぇてぇなあ。


「累児さん、甘酒どうぞ」

「あ、ああ、ありがと」


 そーだが配られている甘酒を持ってきてくれ、受け取る。

 飲んでみると、寒さのせいかちょっと温いがその分、腹まですっと入り、身体の中で熱くなってくる。


「あ、すみません。それ、そーだの飲みかけでした」

「ぶほおお!」

「えへへ、間接キスですね」


 そーだがちろりと舌を出して謝ってくる。わざとか? わざとじゃないか?

 俺はこのそーだの猛攻に耐えられるのだろうか?


「あ、あ、あんた! また、ウチのタレントに! か、貸してください! これが、そーださんの……責任もってオレが飲みます!」


 責任とは?

 みんなに甘酒を配っていた榛名さんが駆け寄り、俺からコップを奪い、飲み干す。

 だけど、


「それ、累児さんとも間接キスになりません?」

「ぶほおお!」


 榛名さんが吹き出し、俺にぶっかけられる。

 ハプニング大賞榛名さんと俺の運は今年もこんな感じらしい。

 そーだがハンカチで拭いてくれるが妙に近くて緊張する。


「楽しいですね、みんなで初詣」


 そーだは上目遣いでそんな事を言う。

 楽しい。

 楽しんでくれている。

 それは、去年頑張った証であり、今年に希望を持っている証でもあるんだろう。


 それが何よりうれしくてそーだと笑いあった。


「ちょっ……また! あんたはあ!」

「累児、お揃いのお守りどう?」

「ツノ様ともおそろっちしようよお」

「先輩、恋愛運どうだったんですぅう? ダメだったらガガが慰めてあげますよお?」

「だ、ダメだったら交換してあげようか? こっちなら恋愛よしだから」

「る、るいじさん! そろそろお参りしましょう! 人ごみだって平気です!」

「ああ、いこうか、累児、戦いの時だ……!」


 前のめりな彼女達に笑い、俺達はお参りをする。


「あ、あの、さなぎさんは何をお祈りしたんスか?」

「ひ、秘密です。ツノ様は?」

「こういうの言わない方がいいのよ。で、ノエ先輩は?」

「鬼か!? いや、鬼だったわ……。教えるわけないでしょ」

「ふふふ、そーだはですねえ」

「いや、そーだ、アンタのはガガ想像ついちゃってるからいいわ」

「くく、神よ、願いを叶えてくれよ……? で、累児は? 何を願ったんだい?」

「え? 俺? 今年もVtuberみんなが健康で元気にてぇてぇ配信出来ますように、だけど?」


 それを言うとみんなが呆れたように笑う。

 え? なんで?

 俺にとってそれが全てなんだが。


 ふと横を見ると、振り袖姿の姉さんが真剣な表情でお参りをしている。

 一万円を持って。


 一万円?


「神様、お願いします……累児と……」


 待て待て待て!


「いやいや、うてめ様流石にやりすぎっすよ!」

「流石神です! 女神からすれば神へのお年玉なんですねー! さなぎ目から鱗です!」

「ツノも諭吉生贄に差し出したら神様、ヘラった時、助けてくれるかなー」

「新年早々ヘラるな! ツノ! あんたは今しあわせでしょうが!」

「うふふ、うてめ様のお願いと多分一緒でうれしいです~」

「っていうか、なんでこの人だけ! 振袖に着替えてんの!?」

「毎年、累児に綺麗って言ってもらう為だけに、着方を覚え、着物を用意してるんだ。この人は……!」


 みんなの声なんて気にならないとばかりに一心不乱に祈った姉さんはくるりと回って、俺を見る。


「どう、累児?」

「えーと、とっても綺麗です」


 うん。姉さんはやっぱり綺麗だ。振り袖姿もそうだけど、やっぱり何より声が綺麗で。


「今年もがんばるからね」


 高松うてめの新年の言葉に、俺も負けないようみんなを支えようと心に決めたのだった。

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