64てぇてぇ『ゲームってぇ、やっぱりガチで楽しんだもん勝ちなんだってぇ』

【天堂累児視点】




 三人で自分の気持ちを話し合ったとガガから聞いたその日から、彼女達の本当の意味でのチームとしての日々が始まったと思う。


 食事の時に、参考になるゲームプレイ動画を話し合ったり、


「さなぎちゃん、この配信者の動画、多分さなぎちゃんの参考になると思う」

「ありがとうございます、マリネさん!」

「あとさ、この動画なんだけど、この位細かく指示出した方が良い?」

「ワタシは細かく出してもらっていい。そっちの方がやりやすい」

「わ、わたしはちょっと混乱するかも……」

「おっけ、じゃあ、その辺り指示出しは調整する!」



 ガガが二人の為にサンドイッチを作ったり、


「ねえ、先輩こんな感じでどうっすか!?」

「おお~、うまそうじゃん!」

「にひひ~」

「それにしても、お前がキッチンに立って二人の為にサンドイッチを作ってあげるなんてな……」

「な、なによ!? 普通でしょ! なんかしてあげたいと思うのって!」

「ん? なにこれ?」

「これは……先輩の分……。先輩がさなぎになんかまたなんか言うてくれたのあたし知ってんだから」

「そっか。ありがとな! うれしいよ!」

「~~~! じゃ、じゃあ! あたしも練習に戻るから!」

「ガガ! かわいいぞ!」

「ううううううるさい!」


 チームの話をしてくれたり、


「ルイジ、ガガはすごいのよ。すごく周りが見えてる」

「そうだな」

「さなぎはどんどん成長していくし、集中力がやっぱりすごい」

「わかる」

「ルイジ、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるけど! お前その話何十回目だよ! どんだけ嬉しいんだよ! 雑談配信でもリアルでも聞いて、もう俺てぇてぇが溢れすぎてしんどいわ!」

「だって、楽しんだもん」

「てぇてぇーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「だからね」

「お、おう……はぁはぁ」

「勝ちたい。折角ならみんなで。そして、ちょっとでも長くこのチームでいたい」


 ユニットやチーム、それは一時的なものだ。

 勿論、その繋がりが切れるわけじゃない。

 だけど、基本的にVtuberは個別に配信するのが基本だ。

 応援されたり、連絡とりあったりはあっても、一人で戦い続けなければならない。

 だからこそ、チームでいる時間が愛おしいのだろう。

 それは、時間が経つごとにみんなの目が変わっていく事で良く分かった。


 特に、大きく変わったのは、さなぎちゃんだろう。


 マリネの配信は、明るいトークと、急に人格変わったようなゲームモードの切り替え、そして、みんなで色んな意見を出し合いながら、ゲームを味わい尽くし、ガガの配信は大騒ぎでコメントも煽ったり一緒に悔しがったり応援したり楽しそう。

 ただ、さなぎちゃんは良くも悪くも純粋な子で、どんどんゲームや大会、チームに対する思いが溢れ、どんどん熱が入った配信となり、ファンも一緒になってどんどん熱くなっていっていた。


『さなフレの皆さん、お願いです……さなぎに飛ぶ方法を教えてください』

〈よし、今日こそ課題クリアしよう〉

〈さなぎちゃんなら出来る!〉

〈本気で応援してます!〉


 それは、さなぎちゃんとファン達との共同作業だった。

 CPU相手にさなぎちゃんはひたすら戦い続け、さなフレから徹底的に意見を貰っていた。正しい意見も間違った意見もあるだろう。

 さなぎちゃんはそれらをとにかく愚直に実践してみて、合ってるものを取り入れていく。

 そして、少しずつ少しずつではあるが成長していった。

 黙々とただただゲームをやる配信だと当然視聴者は多くない。

 さなぎちゃんのトークを聞きたい人も多い。

 だが、この姿を見て、ファンになった人も絶対いるはずそれくらいさなぎちゃんは一生懸命に努力し続けた。


 そして、それで心打たれたのはファンだけではないはずだ。

 その日、念のため用意しておいたガガ用の夜食とマリネ用夜食もなくなっていた。




 そして、大会当日。

 三人は、大半の予想を超える活躍を見せる。


 三人一組で挑むこの大会。

 基本的に、固まって戦うのがセオリーのこのゲームで、ガガチームは、ガガとマリネがコンビネーションで高速移動で暴れまわり、さなぎちゃんがそれに動かされた敵プレイヤーを遠距離射撃するという変則的な戦い方で圧倒していく。


『さな、そろそろ見えるよ』

『おけ。マリありがと』

『さな、今!』


 ガガとマリネにつり出されたプレイヤーがさなぎちゃんの射線に一瞬入る。

 その一瞬、ガガの声に合わせて、瞬時に微調整をしながらさなぎちゃんの操る魔法使いが遥か彼方の敵プレイヤーの頭を死属性魔法で貫く。


『ナイス、さな!』

『さなないす』

『移動する。ナイスヘイト、マリ。ナイス指示、ガガ』

『おけ。多分、南の塔空けるから、ちょっと慎重めに廃墟周りながら移動よろしく』

『おけ』

〈いや、マジでさなぎちゃん凄すぎんか〉

〈死属性は一番当たり判定厳しいからな〉

〈いや、ガガマリの誘導がうますぎる〉

〈ガガ、マリネに付与魔法しながら指示出してるからな〉

〈マリネも地形使うんうま杉〉


 ゲームエンジョイ勢のガガや初心者で大人しいさなぎちゃん、前世がトップアイドル的扱いだったマリネがいるために、かわいいアイドル枠だと捉えられてた彼女達のガチプレイっぷりに驚く視聴者もいるようだ。

 だが、ガチは伝わる。

 視聴者たちは彼女達のガチに、本気に、熱に、熱くなる。


〈すげええ〉

〈さなぎちゃん、かっこいい〉

〈なんか泣けてきた〉

『凄い集中力と精度だ! 何故!? 何故あの距離からスナイプ出来るのか!? そして、何故ここまで冷静に行動できるのか!? 正に死のスナイパー! そして、止まらない! 加賀ガガ・尾根マリネの脅威のコンビネーション! そして、そちらに気を取られれば、静かなる死神、十川さなぎの狙撃が一瞬の隙を突いて急所を貫く! 思わぬダークホースの登場に会場は興奮の嵐!』


 実況にも熱が入る。


 ゲームは楽しい。

 ゲームは遊びだ。

 でも、遊びだから本気じゃないわけじゃない。

 好きだから。遊びにも本気になれる。熱狂する。感動する。


 甲子園やプロの試合だけが本気なわけじゃない。

 どっかの小さな球場でも、ホールでも、集会場でも、公園でも、そして、ゲームの中でも。

 本気はある。ガチはある。そして、そこまでの努力がある。


『試合終了~! 予選Bブロック勝ち上がったのは、チームガガマサ! 圧倒的ポイント数で準決勝進出!』

『『『やっ……ったああああああああああ!』』』

〈さなぎちゃんよくぞここまで〉

〈マリネが受け入れてるだけでもう〉

〈ガチガガ最高すぎる〉

〈ガガマサてぇてぇ〉


 俺も泣いていた。勝ったガガマサも、負けたチームのVtuber達も、みんな頑張ってたことを知ってるから。


 そして、勝ちあがったチームガガマサの準決勝の相手は……


『さあ、ツノ様達の時間よ~』

『ツノ、暴れるのはいいけどノエの言う事聞きなさいよ! あと、うてめ……は、まあ、任せるわ』

『敵は全員弟を狙う愚か者どもなんですってね……殲滅するわ』


 瞬殺だった。

 ワルプルギスのゲームマスターツノ様は勿論のこと、うてめ様の情け容赦ない猛攻、そして、それをうまく誘導するノエさんのサポートによって、呆気なく負けてしまう。本当に強かった。

 そして、そんなうてめ様達のチームも決勝では負けてしまう。

 ゲームの世界は奥が深い。上には上がいる。


『あの、今日は、配信見てくれた人たちありがとうございました! 今日まで応援してくれた人たちありがとうございました!』

〈よくやった!〉

〈おつかれさま!〉

〈おつかれさな~〉


 大会終了後、さなぎちゃんはファン達に三人でコメントを送っていた。


『予選勝ち抜けて嬉しくて、でも、負けて悔しくて……もっともっとさなぎがうまかったらもっと勝てたかなとか思って……思って……う、うわああああああああ』

〈さなぎちゃん……〉

〈泣いてええで〉

〈がんばったもんなあ〉


 涙は映らない。Vtuber十川さなぎの顔はただ目を閉じて口を大きく空けているだけだ。

 でも、大粒の涙がそこには流れている気がして……そして、それはガガ達も同じで……


『さな、泣くなよう、泣いたら、ガガも泣くぞ! うあ、ああ、あああ』

『う……う……っ』

〈みんな泣いてるな〉

〈そりゃ泣くよ〉

〈泣くよな俺も泣いてる〉


 俺も泣いてる。


 姉さんたちの配信は淡々とというか、明るく元気に終えていた。

 けれど、声で分かる。彼女達も悔しがっていた。ただ、それを口に出さなかっただけだ。

 ファンは分かっていたし、それが彼女達の在り方だ。かっこいいチームだと思う。


 そして、さなぎちゃん達もまたかっこいいチームだ。

 本気でやって、本気で悔しくて、本気で泣いて。


『あの、ごめんなさい……悔しいです。でも、楽しかったです。このゲームも、このチームも、みんなと一緒に夢中になってゲームすることも。だから、またみんなで一緒に遊びましょうね!』


 あの三人で大会に出ることが今後あるかは分からない。

 けれど、彼女達の努力の跡と、伝わる思いと、てぇてぇは確かにあって、きっと彼女達と視聴者のガチな未来に繋がってる。


 そして、ちょっと先の未来で、へたっぴだけどガチで頑張ってゲームの楽しさを伝える初心者さなぎゲーマーが現れる。

 その子はゲームに本気で挑んで、本気で悔しがって、本気で楽しんでいた。みんなと一緒に。

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