63てぇてぇ『ゲームってぇ、色んな人と出来るんだってぇ』

【十川さなぎ視点】




 今日は二回目の合同練習。

 前回、わたしが休憩時間で寝過ごしてしまった一回目から結構時間が空いてしまった。


 緊張する……。

 でも、今日の緊張は、前回とは違う。

 わけわかんない不安じゃなくて、今の自分の持っているものがうまく合うかの挑戦的どきどきだ。


 わたしが先にゲームに入ってパソコンの前でどきどきしながら待っていると、お二人がやってくる。


 わたしがどれだけ分かっていなかったのかよく分かった。


 このゲームは物凄く面白かった。


 ストーリーモードでは魔法使い派閥それぞれのドラマが悲しくてやりきれなくてそれでも戦い続ける姿がかっこよかったし、敵を倒せた時の達成感や見つからないように逃げ切るドキドキ感はとっても楽しかった。

 そして、もっと違う視点で見れば、色んな事を覚えやすいように作り手さんはとっても工夫して下さっていたし、魔法の種類や使い方もすごくバランスを考えて作られているんだなあと実感させられた。


 そして、色んなことをファンのみなさんから教えてもらったわたしのゲーム配信は、わたしが全然へたっぴだったにも関わらずとても高評価で、配信を見てこのゲームに興味を持ってくださった人がいっぱいいた。


 少しだけど、分かりあえた、気がした。

 なら、


『お待たせ』

『ちーっす』

「お、おつかれさまです! あの、前回は、すみませんでした! あの……!」

『ちょっと待って』


 わたしの謝罪をマリネさんが遮る。

 そして、


『手紙を書きました』

『「え……? 手紙?」』

『読みます』


 マリネさんはそう言うと何やらガサガサと音を鳴らし始め、どうやら本当に手紙を書いていた様でそれを開いているみたいだった。

 ガガちゃんも知らなかったみたいで『え……? なにそれ……』と驚いている。


「え、あの……」

『前略』


 前略から入るんだ……。


『ワタシは社長にゲーム大会に出ないかと言われました。そして、誰と一緒に出たいかと言われた時にガガちゃんとさなぎちゃんを挙げました。ガガちゃんは、顔見知りだったけどあまり話した事なかったし、先輩後輩が入れ替わってしまったからやりにくい所があるかもなあと思ったけれど、ガガちゃんのゲームプレイは凄く楽しそうで一緒にやっても楽しそうだから一緒にやってみたいなあと思いました』


 いつも通りの淡々とした声の普段のマリネさん。でも、分かる。耳を済ませれば少し息遣いが荒いような気がする。きっとマリネさんも、緊張してる。

 でも、分かる。ガガちゃんのプレイは本当に楽しそうで、わたしもガガちゃんのこのゲームの配信を見る度に、わくわくして自分でもやってみたくなった。

 あれはガガちゃんの魔法だ。


『そして、さなぎちゃん。さなぎちゃんは、すごく努力家で色んなことを頑張って覚えて頑張ってやっているところを見て、一緒にやってみたいと思いました。あと、集中力が凄いから、向いているんじゃないかなあとも思いました』


 マリネさん……そんな事を考えていたんだ。

 というか、マリネさんは誰とやってみたいか希望を言ってたんだ。

 そして、そのうちの一人にわたしを……。


『なので、ワタシはこの三人で大会に出たいです。一緒に頑張りたいです。普段のワタシは非常に面倒くさいヤツだとルイジにも言われますが、出来るだけ面倒くさい存在にならないよう頑張るので、よければ仲良くしてください、敬具』


 敬具で終わるんだ……。

 じゃなかった! マリネさん、手紙まで書いて自分の気持ちを伝えようとしてくれて……。


『はあ!? そんなん当たり前ですけど!?』


 ガガちゃんが声を荒げる。


『そもそも一緒にやりたくなさそうだったり、シナジーなさそうだったら、事務所や先輩が止めるに決まってるじゃないですか! それに、あたしは本当にやりたくない、やれないと思ったらやりませんよ! やれるかも、いや、やりたい……一緒にやりたいと思ったから、二人と一緒に頑張りたいと思ったからチーム組んだんですけど!』


 ガガちゃん……。

 ガガちゃんはすっごく自由に振舞ってるけど、凄く周りに気を遣う良い子だ。

 先輩って慕うルイジさんにも遠くからじいっと見て今日は大丈夫そうだと思ってから飛びついている。自分の気持ちに正直になっちゃう子だから、居ない方がいいと思ったら直ぐにその場を後に出来る。


「わたしも……。あの、わたし、このゲーム、いっぱいやってみたんです」

『見た。すごくさなぎちゃん上手になってた』

『分かる! すっごい時間かけて色々試して、聞いてよ! って思ったけど』

「で、このゲーム面白いなって思ってから、二人のゲーム配信見たらもっと楽しくなれて……わたし、二人と一緒にゲームやりたいなあって、二人と一緒に勝って一緒に喜んだりしたいなあって」

『うん』

『当たり前でしょ!』


 わたしは団体行動が苦手だ。

 わたしが何かミスをすればそれがみんなの迷惑になるから。

 だから、なんでみんなあんなに部活とか一緒にやれるんだろうって不思議だった。


 でも、今なら分かる。

 分かち合えることが楽しいこともあるって。

 全部が全部はまだ分からない。だって、一人の方が楽しい時だってあるし。

 でも、もしかしたら、二人となら、怖いや嫌よりわくわくや楽しいが勝つかもしれない。

 そう思えたから。


「だから、あの、これから一緒にわたしと、あの、ゲームしてください!」

『こちらこそ』

『だから、当たり前でしょって言ってるじゃん!』


 わたしたちは全然バラバラだ。

 ゲームも配信者としてもまだまだ初心者で、おっちょこちょいで引きこもりぼっちのわたし。

 配信者としては大先輩でゲームは作り手の事まで考えてとことん味わい尽くしたいクールだけど人付き合いを頑張ろうとしているマリネさん。

 マリネさんよりは歴は浅いけど配信が大好きで、ゲームも大好きでわいわい元気で周りも見えるガガちゃん。


 それでも、三人でゲームをする。大会に出る。一緒に頑張る。

 年も性格も経験もセンスもバラバラな三人だけど、ゲームの中で一緒に。


『頑張るわよ! 三人で!』

「うん」

『おけ』


 それぞれのパソコンの前、肩を並べてるわけでもないのに、わたしたちは今、チームになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る