51てぇてぇ『年末特別配信・ワルナイ2nd・6時・さなぎガガの【突撃寝起き生電話】』

早朝6時。

5時の落狩倉おちかくらフランと本屋しおりの朝まで生フェチ論という濃厚なトークを摂取し、若干レバーブローを喰らっている俺だが、まだまだ寝るつもりはない。

このあとの時間はこの二人が頑張るわけだし、応援せねば。


「「ごちそうさまでした」」


さなぎちゃんとガガがふたりとも手を合わせている。

二人はこれから配信があるので、朝定食を用意しておいた。

しっとりめごはんに、みそ汁、温泉卵、みぞれ餡の鳥団子、それと、恒例のはちみつドリンク。


平常時もそうだけど、Vtuberは活動の主が夕方から朝にかけてだから、内臓が弱りやすい。

その上、今回は、ワルプルギスメンバーで交代していくとはいえ24時間。

中の肌荒れに気を遣って行かないと後に響いてしまう。

俺は、徹底的にレシピを研究し、今日に望んでいる。


「おいしかったです! るいじさん!」

「先輩、ごっそさん! いってきやす!」


二人が気合を入れなおし、配信に向かう。

俺が言うべきことは限られている。


「二人とも、楽しんでこいよ! 俺も楽しむ!」


そう言うと二人は顔を合わせ笑い、こちらに手を振っていた。





『『ガガさなの寝起きドッキリ~!』』

『はーい、というわけで、今回の進行は、加賀ガガと!』

『そ、十川さなぎでお送りします! えーと、こ、今回は、寝起きドッキリと言う事で、今からワルメンバーにモーニングコールをして寝起きボイスを聞こうという企画です!』


本来の寝起きドッキリは、寝ている芸能人の旅館やホテルに直撃だがVtuberにはそれは出来ない。

だが、モーニングコールをかけて起きた直後の声を聞く。

ひとによってはふにゃふにゃだったり、ガサガサだったり、また、返事の仕方や覚醒具合によって、個性が出ていて、個人的には好きな企画だ。


『最初の生贄はこちら! ででん! 神野ツノ先輩ですっ! では、早速モーニングコールしてみましょう! きっとババアボイスに違いない……くっくっく』

〈キター! ツノ様〉

〈ガガツノわからせ合戦〉

〈ババアボイスがかわいいんや〉


ガガが電話をかけているようだ。そして、ガガの瞳が揺れる。

ツノ様と繋がったみたいだ。


『あ、もしもし~』

『はあっはあ、ねえねえガガちゃん今どんなパン……』

『間違えました』

『ツッ……! 待って! ねえ、待っ』


そこで音声が途切れる。


『変態ババアがいましたね~。では、次行きましょう!』

〈変態ババアw〉

〈掛けられた方によるいたずら電話〉

〈思った以上に綺麗な声〉


いきなりの当たりだったようだ。

ツノさんは意外とこういう時、真面目だ。

社会人経験もあるらしいし、ちゃんとアラームで起きれるのだろう。

そして、彼女のちょいえろを生かした先制パンチならぬ先制パンツ。

ガガとの息もあっていた。


『は、はい! 次は塩ノエさんですっ! で、では、電話してみます!』


今度はさなぎちゃんが電話しているらしい。

そして、繋がる。


『も、もしもしぃ~……ノエ、先輩、ですか~』

『んんあ~、だれぇ~?』

〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉


いつものノエさんでは考えられない程かわいらしい声でもにゃもにゃ言っている。

正直かわいい。これが作られた声ではない。俺は分かる。


『お、おはおうございますぅ~』

『んん~、なにぃ、だれえ~?』

『あ……ガガちゃっ……!』

『おはよう、ママよ』


ガガが代わったようで、ママの振りをして寝ぼけているノエさんから恥ずかしいワードを引き出そうとする。


『ふええ、ままぁ……?もぅ、ごはん……? ママ、だっこぉ……』

『いい子ね。おいで、私の愛しい娘』

〈ドラク〇3か〉

〈娘て〉

〈だっこ、だと……おい、ガガ代われ〉


『うにゅ……ままぁ……』

〈うにゅ!?〉

〈うにゅ!?〉

〈うにゅ!?〉

〈ダメだ! コイツ等息してない!〉


『ほら、今日はノエの好きなものを作ってあげるわよ……何が良い?』

『カレーライスぅう』

『あら、良いわねぇ。じゃあ、今日の晩御飯はカレーにしましょうか』

『うん……やったー。でもぉ、甘口にしてねぇ』

〈星の王〇様にしといてもろて〉

〈今日は減塩ノエ様〉

〈物足りなく感じる俺は……どうしたら……!〉


『分かったわ。ところで、娘。今日のパンツはどんなの履いているの?』

『きょぉお? んーとねぇ、ちょっと、まってぇ、確認しゅる、から……』


暫くの静寂。


『あのね……あのね……』

『うん、ぶふ、うん……娘よ、聞かせて、あなたのママに』

『あのね……てめーなんかママじゃねーよーだ! ばあああああか!』


笑いをこらえながら待つガガに対し、大音量のノエさんの声が響き渡る。

絶対途中で気づいてめっちゃ恥ずかしくなって、騙されている振りをしていた振りをしているんだろうなあ。


〈草〉

〈かわいい〉

〈ノエちゃん可愛い〉

〈やっぱ朝弱いのかな〉

〈これが本当の寝起きなんだな〉


『あーあー! な、なに!? 騙されちゃった? あ、あんなことノエが言うわけないじゃない!』

『あ、あれれー、おっかしいぞー。じゃあ、ガガ的に質問なんですけど、ノエ先輩、最初にママの振りしたガガになんて言ったか覚えてますう?』

『な、何よ! そ、そんなこと覚えてないわよ! か、過去は振り返らない主義なのよ! そ、それより、次の人にかけなさいよ! じゃあ、私帰るわ! じゃあ、またね、さなぎ! ガガ、虐られろ!』

〈ぎゃくられろとは?〉

〈ノエ様は振り返らない〉

〈振り返らぬ女ノエ〉


『は、はい! さようならですっ! ノエ先輩!』

『ひぃー、ひぃー、く、苦しい。だ、だっこしてって言ってたんですよおノエせんぱぁい、はあはあ、お腹痛い……!』


ガガが笑い過ぎて過呼吸になっている。


『つ、次に行こうね! 次は、ノエ先輩と同期の鉄輪ワカナ先輩です!』

『ああー、2期の真面目先輩ね。電話して、さなぎちゃん、ガガ苦手』

『ええー、そんなこと言わずにー。えーっと、じゃ、じゃあ、さなぎが電話してみます』


すると、ほぼ待つことなく繋がり、落ち着いた大人な雰囲気の女性の声が聞こえる。


『あ、もしもし、十川さん? おはよう』

『お、おはようございます……。ワカナ先輩起きてたんですね』

『うん、起きて配信見てた。ウチのノエがすいません』

『いえいえ、こちらこそ……。それより、ワカナ先輩は……『今日はどんなパンt』……ガガちゃん黙って……!』

『はっはっは! 今日はね、勝負下着よ。同期でお揃いで買ったヤツ』


照れることなくスパッと気持ちよく答えてくれる。

それが、ノエさん達二期のまとめ役、鉄輪ワカナ先輩だ。

土の魔女と自ら名乗る彼女は、まさに縁の下の力持ちだ。


『えーと、ワカナ先輩は、これから何を?』

『あー、特別番組出るから、みんなの分のごはん作って、みんなで食べたら行くよ』

『みんな?』

『二期みんな集めてるの。アイツらみんな自由だから』


二期は、所謂ファンタジーでよく言う四大属性、火、水、土、風をモチーフ? にした魔女たちで、ノエさんは水の魔女、そして、黒羽クレアが風、火売ホノカが火なんだけど、それぞれ個性が強く、それをうまく纏める鉄輪ワカナは猛獣使いとも言われている。


『え? じゃあ、ノエ先輩もですか?』

『いるいるー。今、黒羽クレアと火売ホノカに馬鹿にされてキレてるよ~』


確かに、小さい声だが騒いでる声が聞こえる。


『なるほど……仲良いんですね。二期生みんな』

『そうだね。もう家族みたいな感じ。あ、そうそう、そういえば、うちの娘が迷惑かけたみたいでごめんね』

『だ、誰が、娘よっ!』


ノエさんの声が聞こえる。


『ママ―! 妹がクレアをいじめるよお!』

『ママは、あなたは認知しません』

『なんでぇえええ!?』


これは黒羽クレアさんかな。


『ママ、パパのごはんはまだかなあ』

『ゴリラがパパを語るな』

『うっほほー!!!』


火売ホノカ。ほんとに自由だな。

二期のやりとりに思わず笑ってしまう。

この互いへの遠慮のなさが二期の魅力だろう。


『黙れ、ダメ人間ども』

『『『はい』』』


この感じ。

それでいて、他と絡むときは抜群の対応力を見せる。

ノエさんもそう。不遇というか、まだ、売れてない時代を乗り越えてきた彼女達の強さを感じる。


『じゃあ、餌食べさせたらそっち行くんで、よろしくね』

『はい』

『あ、そうそう。お昼からのゲーム大会よろしくね。君達とマリネちゃん、そーだちゃんと私達二期の対決だよね。絶対私達が勝つからね』


そして、家族を誰より誇りに思っていて。


やっぱり、寝起きドッキリは面白い。


『はっはーん、ガガ達に勝てるとで……』

『負けません! ガガちゃんはすごいんです! わたしも足を引っ張らないよう頑張るし、マリネさんもそーださんも凄いから、二期の皆さんにも負けません』


みんなの見えなかった一面が見えてきたりするから。


『意外とそういうタイプなんだね。さなぎちゃん。じゃあ、お昼を楽しみにしてる。モーニングコールありがとう』

〈まさかのバチバチ〉

〈面白くなってきやがった〉

〈朝からアツい〉


『……さなぎ、絶対に勝とうね』

『ガガちゃん……うん! じゃあ、次の人に電話してくれる』

『さなぎ、掛けてね』

『もう興味がゲーム大会にうつってない!?』


そうして、寝起きドッキリ企画が終わると、二人が再びやってくる。


「先輩、ちょっと今日はエネルギーいっぱい入れときたいんで」

「もういっぱい貰っていいですか」

「準備は出来てるよ」


俺が、こうなるだろうと思って用意していた物を並べ始めると二人はちょっと驚いて、そして、笑った。


「おはようございます。私も一緒にいいですか?」

「ワタシも」


そーだとマリネがやってくる。配信見てただろうし、来るとも思ってたよ。

同期の絆って、てぇてぇよな。


俺は今日この後もいい配信が出来ますようにと心を込めて朝食を注ぐ。

そして、並べられた朝食に四人は手を合わせる。


「「「「いただきます」」」」


ワルハウスでは、みんな朝食をとるようになった。

最初の頃は俺が無理やり食わせてたけど、今となってはみんなちゃんと食べてくれる。

仲間に心配かけたくないから、大事なことが何か。

今の彼女達は分かっているから。


「さあ、今日と言う日もたっぷり味わってこいよ」


まだまだ今日は続いてく。




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