第3話
「けど、何処に引っ越しましょう?」
折角のお引っ越し。
どうせなら、良さそうな場所へお引っ越ししたい。
シャスティルは、権能を使い空中に色々な場所の景色を画面にして映し出した。
そこには、発展した町並を多くの人類が行き交う画面や自然豊かな森林の中の画面、魔道具の様な機械で溢れる町並みの画面、人類同士、又は、人類と非人類の生き物が激しく争いあう画面、何も無い荒れた荒野が地平線まで続く画面。
多種多様な場所がシャスティルの目の前に映し出された。
「これは、また随分と偏りましたね。適当に選んで映したんですけど。これとか、正に戦争の真っ最中じゃないですか。それに、この荒野も目の前の大地同様に死んでません?」
シャスティルは「嫌ですね~こんな所に引っ越すのは」と人類同士や非人類が争ってる光景の画面と荒野が地平線まで続いている画面を消した。
そして、消した三つの画面を再び適当に場所を選んで映し出しす。
「お~~!!これは綺麗ですね!けど、これだけは外れですかね」
再び映し出された三つの画面には、綺麗なお城と城下町が広がる活気溢れる賑やかな町並みの光景。
豊かな山脈と湖が広がる大自然の光景。
そして、なんか机らしき物が沢山並んでる場所で一人頭を抱えて椅子に座ってる人類の男。
「何かあったんですかね?随分と苦労したのか頭の天辺の髪の毛が薄くなってます。まだ若いでしょうに。お気の毒です」
全身を黒色の綺麗な服を着ているその人類の男は、人類ならまだ三十歳か四十歳位の筈。
なのに、全てが終わったとでも言いたそうな絶望に満ちた表情で頭を抱えていた。
そんな頭の天辺は、髪の毛が抜け落ちたのか頭皮がうっすらと見えている。
自分も世界の管理者としての仕事で死にそうになってた時によく髪の毛が抜けて泣きそうになったものだ。
だから、本当若いのに気の毒に思えた。
けど、特に何か助けてあげるつもりもないし、そもそもとして神が例外的な何かがあったなら兎も角、生命一つの為に力を使うのはダメだ。
なので、サッとその人類の男が映る画面を閉じてお引っ越し先選びを再開した。
「さて、引っ越し先に選ぶとしたらこのどれかでしょうか?どれが良いですかね~」
目の前に映し出されている画面は合計で五つ。
発展した町並を多くの人類が行き交う画面。
自然豊かな森林の中の画面。
魔道具の様な機械で溢れる町並みの画面
綺麗なお城と城下町が広がる活気溢れる賑やかな町並みの光景。
豊かな山脈と湖が広がる大自然の光景。
この五つが、シャスティルのお引っ越し先の候補だ。
シャスティルは、何処にしようかと画面を眺めながら考え込む。
過剰に文明が発達してる様な場所は嫌ですね。
文明が発展し過ぎたせいで死にもの狂いで働いたかと思えば殺されたんですし。
別に管理者として仕事する訳ではないですが、出来たら遠慮したいですね。
だとしたら、逆に自然豊かな場所でしょうか?
けど、自然だけしか無いってのも少し物寂しいですね。
話し相手とかちょっとだけ欲しいかもです。
シャスティルは人類のせいで苦労した挙げ句殺されて肉体が一度死んだ。
恨み等が無いのかというと自身を殺した勇者や賛同した人類の王族、貴族に恨みは抱いてるが、だからといって別に人類全てに恨みを持ってたりはしない。
だから、別に人類と交友する様な事になっても嫌悪感を抱く様な事は別に無い。
なので、お引っ越し先で暮らす際に話し相手は可能ならちょっとだけ欲しかったりする。
ん~~それなら、これやこの辺りですかね?
シャスティルは、ん~と悩みながらも「これは外しましょう。後、これとこれも」と三つの画面を消す。
そして、目の前には二つお引っ越し先の候補の画面が残った。
「このどちらかですかね」
残った画面は、綺麗なお城と城下町が広がる活気溢れる賑やかな町並みの光景の画面と豊かな山脈と湖が広がる大自然の光景の画面。
このどちらかをシャスティルは、お引っ越し先にする事に決めた。
後は、この二つのどちらかに決めれば良いだけ。
なのだが
「どっちが良いんでしょう?」
十分経ってもシャスティルは、選べずに困っていた。
どっちも別に悪い所はそんなに無さそうでお引っ越し先に良さそう。
そのせいで、どっちが良いのか決めきれず数分経っても選ぶ事が出来ずに困っているのだ。
いつも物事を選択する時は即断即決で決めてたが、今回は大事なお引っ越し先選び。
いつもの様に合理的に取捨選択する事は出来なかった。
「ん~~どうしよう」
人類が行き交う笑顔で賑やかな活気のある町並み。
きっと、自身が紛れても毎日を元気に楽しく生活出来る事だろう。
多くの生命が溢れてるだろう豊かな山脈と湖が広がる大自然。
ここで暮らしたら毎日が心穏やかに過ごせる事だろう。
どちらも良い。
余程の問題が起きない限り恐らくどちらを選んでも後悔する様な事は無いと思う。
だからこそ、どちらを選べば良いのか悩んでしまう。
本当にどちらが良いんでしょう?
どちらを選んでもきっと良い場所でしょうし。
悩みますね~。
ん~~~~………………あ。
その時、シャスティルは一つの事を思い付いた。
どちらを選んでも良さそうで、きっと後悔は無い。
つまり、どちらを選んでも問題は無い。
ならば
「どうせなら、ここは天に任せてみましょう」
事の選択を天に任せてしまおうと。
「そんな訳で、木の棒を用意してっと」
シャスティルは、権能で三十cm程の長さの棒を一本準備すると棒の先端を右手の人差し指でおさえて地面に真っ直ぐ立てる。
そして、棒の左右にお城と城下町の画面と豊かな山脈と湖が広がる大自然の光景の画面を移動させた。
「…………えい!」
そして、周囲で微かに吹いていた風が止んだ瞬間、えい!と掛け声と共に棒を押さえていた人差し指を離した。
指の支えが無くなりバランスを崩す木の棒。
それは、ふらりと傾いたかと思うと一瞬にして地面にカランと倒れた。
「左ですか」
棒が倒れたのは斜め前向きの左側。
そして、左に移動させた画面は綺麗なお城と城下町が広がる町の光景の画面だった。
「決まりましたね」
これで、シャスティルのお引っ越し先は決定した。
お城と城下町が広がる町。
ここが、シャスティルのお引っ越し先だ。
「そうと決まれば、早速引っ越しを開始しましょう!」
決定したなら即行動開始!
シャスティルは、お引っ越しするべく早速準備を始めた。
とは言っても、別に荷造りみたいな荷物をまとめたり古くなったり足りない家財道具を新たに買い直したり等の準備をする訳ではない。
そもそもとして、シャスティルに荷造りする様な私物や家財道具の類いは全く無いのだから。
神域には一応、百年位前に使ったベッドやお風呂の類いは置いてたがそれだけ。
服の類いは権能で創れて新しく創り直す度に毎回最低限汚れたり劣化しないようにしてたので予備なんて無い。
そして、長年管理者の仕事で一切の余裕が無かったので人類の様なお洒落等も当然してこなかったのでお化粧や指輪、ネックレスの様な装飾品も一切無い。
なので、シャスティルがお引っ越しにおいて人類の様に荷造りの準備をする必要は無いのだ。
だったら、シャスティルが一体何の準備をしているのか。
「世界の特定良し。転移先も決定。権能も発動可能。神力も充分。良し、転移可能です!」
それは、お引っ越し先への転移の準備だ。
シャスティルは、お引っ越し先の場所を詳しく特定。いきなり転移しても大丈夫な様に安全な転移先を探す。
そして、転移の為の権能の発動確認とエネルギーである神力が充分に足りているのか確認をしたのだ。
そうして、確認を終えていつでも転移してお引っ越し可能な事が確認出来た。
「それでは」
権能を発動。
転移を開始する。
「さらばですマルスト!生命達!いざ、異世界へと引っ越しです!!」
次の瞬間には、シャスティルは朽ち果てた神殿から姿を消し、空間を越えてマルストに自身の痕跡を残さずお引っ越ししたのだった。
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