ふつかめ!

Chapter.4 お揃いにする

「こんにちは!」

「……くっつきすぎ」


 ぎゅーっとトゥーレちゃんにしがみついて、まるで盾にするかのように背中に隠れながら挨拶する。と、トゥーレちゃんすら含む形で警戒した目で見られてしまいました。


 トゥーレちゃんに申し訳なかった。狭い村なのに。

 でもやめない!


 またまたぎゅーっとその左腕に抱き付くと、トゥーレちゃんのやれやれとしたような嘆息が印象的でした。


 本日! 二日目の朝は、これから共同生活をするにあたっての必要なものを買いに来ています。昨日は本当に紹介してもらっただけだった分、今日は存分に楽しむ。


 まず向かったのは雑貨屋さん。店主は丸眼鏡をかけた美人エルフさんだ。

 眼鏡……なんか新しい! 眼鏡を掛けているエルフさんもいるんだ! すごくかわいい!

 ちょっと感動します。わたしと一緒ですよ!


 あとなんかすごく色気のあるお方でした。

 そこはわたしとぜんぜんチガウ……。


「でもトゥーレちゃんのほうが好き……」

「ん?」

「ううん」


 でもほんとにみんな美男美女さんばっかりだ。

 エルフさんを見ていると、特にトゥーレちゃんを見ていると胸が幸せ一杯になる。

 なんかね、癒し動画を見ている時みたいな気分になってきます。


 わたし、そんなに面食いなほうではなかったはずなんですけど……さすがエルフ。


「本当に色々あるね!」

「うん」


 店内にはアンティークなものが多くて、どれもその意匠はかっこいい。

 雑貨らしく飾るものだったり、本当に色々な用途であるけれど、特にわたしの目を引く道具が魔法を動力源とする製品!


 これがまたすごくて、ちょっとした生活の便利グッズとして、現代にある電化製品より機能面では優秀だったりするみたいなんです。すごい。

 しかもですね、道具のなかに魔法陣みたいなものが刻まれていて、スイッチのオンオフみたいに発動させることが出来るのだとか。わたしにも使えるわけです。楽しい。

 いつか生の魔法も見てみたいところ!


「良いなぁ良いなあ」

「楽しい?」

「んっ、うん! うんうん! すごい楽しいよ!」

「そっか」

「ふふ、ありがとうございます」


 背後からそんな声が聞こえて、びっくりした! 振り返る。

 眼鏡美人店主さんがにこって微笑んでくれました。

 めっちゃ美人……!

 いやいや、わたしには心に決めた人が……って思ってチラッとトゥーレちゃんを見てみると、彼女は食器の類いを熱心に見ていて、むー。

 これは由々しき問題ですよ。


「トゥーレちゃん、なにを見ているんですか?」


 すすすーっと近寄って彼女の視線を追い、同じところを見つめてみる。

 ちょっと背丈が離れているので難しいけども。

 んー? お椀かな? 色とりどり、様々な形で取り揃えてあるお皿をじぃっと見つめていた。


「……いや、なんでもない」

「どうしたの?」


 ん、えっ、急にそっぽを向かれると困ります……。

 何かしましたかわたし! どうしたんですか! ごめんなさい!

 えぇ~……なんでぇ~……。

 しつこ過ぎたんでしょうか……うう、自重します……。


「そういえばトゥーレ。彼女が例の?」

「はい。そうですよ」

「かわいらしい子じゃない」

「………はい」

「もっと素直にならないとダメよ」

「はい」


 いつの間にかトゥーレちゃんは、店主さんと雑談していました。

 ちょっとわたしの話になったから耳を傾けてみたけれど、ううぅむん!

 店主さんはそうやって簡単に言ってくれるけど、トゥーレちゃんの反応に胸が痛いです。


 す、すごく気まずい……。

 でもでも、昨日ああ言ってくれたのは事実ですもんね? ね? 夢なのかな?

 ……いやいやいやいや。

 不安になります。

 ちょっと、居心地悪くなってしまった……。

 たぶんこれから、もっと仲良くなれるまではずっとこの調子なのかなと思う。

 ついつい色々考えてしまう。

 トゥーレちゃんと仲良くなれれば一番だけど、今の調子だったらどうにもならないし……。


 いや!

 ううん、頑張ります!

 あの時のトゥーレちゃんの言葉を信じる!


「トゥーレちゃんトゥーレちゃん!」

「ん?」

「これ見てください」


 棚ひとつ向こう側にいるトゥーレちゃんをその隙間から覗いて呼び寄せた。それがなんかちょっと楽しく感じられてしまいながら。


「じゃーん! お揃いにしませんか!」

「ぶっ」

「わあ」


 噴き出すトゥーレちゃんは新鮮ですね……とと、大丈夫かな? なにも出来なくておろおろとしちゃう。

 口許を抑えてちょっと前屈みになったトゥーレちゃんは、どうしたんでしょうか。


 何気なく店主さんのほうを見てみたら顔を背けて肩を上下に揺らしていた。笑ってるのかな? これ笑った方がいいやつなんでしょうか……。

 ちょっとワカラナイ。


「ん、んん、大丈夫。……なに?」


 とんとんと胸を叩いて深呼吸するトゥーレちゃんは、非常にかわいらしさに溢れてると思います。どこがツボなのか分からなくて、わたしは苦笑いするしかないんですけども。


「あっはい、じゃん! これ!……じゃなくてもいいけどっ、なにかお揃いにしたいなって!」


 わたしが持っているのは水色の石のブレスレットでした。ターコイズだっけ、見覚えがある、明るい水色の宝石。わたしが好きな色の石。


 ブレスレットというよりはバングルのほうが近いかも。シルバーの幅が数ミリほどのやつで、宝石がちょこんと埋め込まれている。シンプルで美しいデザインです。いまさらだけど高そう。


 とても目が惹かれてしまって、つい、手に取ってしまったんですよね。

 ちょっとお高いのかもしれないと思うから、じっくりと顔色を伺うことにする。


 値札が読めないのはだいぶ致命的な気がしますね……。ちょっとでも表情が曇ったらすぐに控えさせてもらおうと思っていると。


「ん……いいね。うん。そうしよう」


 なんか、いつになく饒舌に納得されてしまって、違和感だ。

 うーむ? どうしたんでしょ?

 と思わず小首を傾げていると、トゥーレちゃんが微笑みながらわたしを見てくれていた。

 ちょっと照れながら見つめ返す。……あああ、やっぱりだめだ! 参りました。

 イケメンはずるい。


「でもユズ」

「はいっ?」


 ととと、名前を呼ばれたので元気に返事をします。

 わんわん! なんて。尻尾をふりふり振っちゃいます。


「指輪じゃなくていいの?」

「ふあ」


 あっ、え、ちぅおっ、待って待って待って待って。

 んん? んんん!? ええええ!?

 指輪でもいいんですか!?!?

 ――いや違う違う違う違う、そうじゃなくて、どういうことだ。

 そういうこと? えへへ……。

 じゃなくてなくて、うわあああ! 恥ずかしいな!


「ゆ、び、わ、え? って、なにゃんですか?」


 噛んじゃった。ああっ、トゥーレちゃんが楽しそうにしてる。珍しく悪い顔をしてる! 初めてこんな顔みたよ! うー、いじわるなんですかぁ。


 これは試されているんだろうか、それともドッキリ?

 はいって答えたら引かれちゃったりする? ややや、トゥーレちゃんはそんな人じゃないんですから……。

 うー! ダメだ、頭が回りません!


「どうせ一緒にするならね。ユズはどうしたい?」

「あうあうあ」


 にゅあああああああああ!

 どうしよ! せっかくだから指輪って言いたいなー! どうせならトゥーレちゃんに嵌めてほしいなー! 嵌めてあげたいですしね!


 あああああ! ああああああ!(語彙力)


 んふふふふふふ。

 あへへ、えへへ、ぬへへへへ。ふぁあ。


 妄想がフライアウェイしている。あれ、薬指を見たらなにもなかった。妄想が進みすぎているようです。

 やばいやばいやばいやばい。


 あ、あとにじかんまって……。


「しんじゃうかも……」

「ちょっ、ユズっ?」


 ………。


 ……………。


 ……………………。



 ブレスレットになりました。



 わたしのバカ!!

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