第59話 再び砂の国

ボクの名前はクロエ=ナーベ。

昔は不自由なく、家族とみんなで楽しく住んでいた。

 ある日、国王になる前のマクラが家にやってきた。どうやら、ボク達の家系、ナーベ家は貴族ではなく王族だったそうだ。


 デザートラベル帝国の3代前の国王は、ボクの曽祖父が勤めていたそうだ。後からパパから聞いた話だと、砂の国は魔の界岸ヴァルハラランドにある大帝国の属国だった。曽祖父は大英帝国の汚いやり方が好きではなかった。大英帝国に忠実だった曽祖父の父は国王になるまで、大英帝国に忠実な自分を偽り、国王まで上り詰めた。そして、曽祖父は砂の国を変えようと動いたが、それがバレて暗殺されてしまった。ナーベ家は裏切り一家となり、王族から貴族や堕ちたのだった。


 裏切り者である国王を討ち取ったマクラの父親が国王になってから、砂の国は飢える平民が増えていく。マクラの父親は砂の国の食材などを殆ど自分のものにして、自分勝手に権力を私欲に使う独裁国家に変貌した。


 そして、マクラはそんな愚かな一家を見にきた時に、クロエの美貌に惚れて無理やり結婚を申し込んだ。首を縦に振らないクロエに、マクラは家族を人質にして1人の少女が一年で稼げない額を支払うか、自分と結婚するかと言う条件で自由にすると約束したのだ。それがクロエが金を集めていた理由だった。


「はぁはぁ、一体なんだったのでしょうかね。ノーディさん、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫わよ。こんはものすぐ治るわ。本当、次会ったら、ぶち殺してやる。私の美しい体に傷物にするなんて。責任は取ってもらうわよ」


ノーディはレイヤに斬られた体を治療していた。

 自分の体に傷をつけた張本人を恨んでいた。そして、次々と病院からやって来た医者達が警備隊を治療する。医者と言う職業に勤めているのにも関わらず、みんながみんな痩せこけていた。


「それにしても負傷者多すぎない?相手はたった3人よ?」


「それが、暴牛王が居たそうなんです」


「ぼ、暴牛王って、ここ最近魔の界岸ヴァルハラランドで頭角を現し大暴れしている邪神教団にいる、人の言葉を喋る魔獣の事かしら?そんなヤバい奴が居たなんて...」


「それだけではありません。ノーディさんにやられた白髪の男も大暴れして、あまつさえマクラ国王様の結婚式に潜り込んでクロエ姫を攫ったそうなんです」


「マクラ様に喧嘩を売るなんて、なんて罰当たりなのかしら...一応アレでも王族なのよ」


ノーディは信頼する部下以外の者に聞こえない様に喋った。


「国王にしちゃ経験が浅く、その王と言う器ではないが...王族を手を出せば多額な懸賞を掛けられるのに時間の問題。その時はあの男は本当に終わりだ」


「終わりはお前らっすよ」


「あ?お前達は?一般市民の方でしたら、この時間は家から出てはいけません。ルールを破る平民は処罰を下される事は知っていますよね?」


「なるほど。あの嬢ちゃんが言う通り、この国は腐っているっすね」


 フミュウ、スイリュー、タットパムの3人が居た。タットパムは家に迷惑をかけない為仮面をつけている。


「武を極める人間として、これは見逃せません」


「それって関係あるんすか?」


「ありますよ。人を助ける、それもまた1つの武です」


「...なるほど。賊は3人だけじゃないみたいだわね?」


ノーディは立ち上がる。

そして、3人を囲む警備隊達。

パットパムは2人にある作戦を持ちかけた。


「2人とも、あの女みたいな男は自分がやるっす」


「図にのるな。なぜお前が私に指図するのですか?それに、この中で1番強いのはアイツですよね?美味しい所を持っていくな」


「はぁ、2人とも喧嘩は辞めてくれ。敵陣のど真ん中にいるんだぞ?」


敵の目の前で喧嘩する2人に呆れるタットパム。

 そして、タラタキとトルカはある場所に向かっていた。


「さて、各地に暴れれば国の兵が分担して、やりやすくなる。一人一人弱くても、数で押し負けるからな」


「くだらねぇ。俺は1人で国を堕とせる自信はあるぜ」


「はぁ、お前の自信はどこから来てるんやら」


トルカは次々とやってくる警備隊を殴り飛ばす。

タラタキは、トルカの後を追うのだった。


「弱い弱い弱い!!」


「トルカ。戦いの最中の酒は控えるべきだ」


「知らねぇ。こいつらが弱いのが悪いんだよ!」


「なら、本物の強い奴と戦いたいか?トルカ=オドレル」


「あ?お前は、確か...シラヌって言う逃げた野郎じゃねぇか」


2人の目の前に現れたのは、拳王大会で突然と消えたシラヌだった。


「なぜ、お前がいる?」


タラタキはレイヤにやられて、街外れの場所で治療をしていた。

シラヌがサガ達と大会を台無しにした場面を見ていなかったのだ。


「なんか、暴れてる奴がいるからやって来たが、まさかタラタキ!!お前がいるとは思わなかったぞ!拳王!!」


「拳王?俺は拳王じゃねぇ。俺は負けたぞ?」


「そんなの関係ねぇ!あの男は拳闘士なんかじゃねぇ!!俺が認めている拳王はお前だよ!タラタキ!!その拳王を拳を味合わせろ!!」


「おい、拳王だがなんだか知らねぇが。俺の問いに答えろ。俺を無視するんじゃねぇ。羽虫がぁ!!」


トルカがシラヌに攻撃しようと踏み込む。

だが、トルカの拳はシラヌではなく、ふんどし姿の丁髷男の胸筋に当たった。いや、正確には自分から当たりに行ったのだ。


「ううん!エクセレント!!なんて、良い拳なんだ!」


「ドーウェム。その雑魚はお前に任せて良いか?」


「任せろ、シラヌさん!!この男は俺が相手しよう!」


 そして、その頃。クロエの親がどこに隠れているのか探すのであった。レイヤ、クロエ、シャーロットは再び城の中に足を踏み入れるのだ。


「クロエ。親を助けたら、その後どうする?」


「それはパパ達に任せる。パパはお爺ちゃんの意思を継いで、この国を救いたがっている。だから、前国王はボク達家系を警戒していたんだ。王族から貴族に落ちたとはいえ、平民の支持率はナーベ家の方が高かった...パパ達を救いたいけど、この国も救いたい。ボクが育った国を...」


「分かった。クロエが救いたいもの全て救おう。俺らは大喰らいだ。やりたい事を全てやる賊だ...あ?お前は」


レイヤ達の前に現れたのは、パンダだった。

パンダの手には竹を持っていた。


「...どうして?」


クロエにとって、パンダがはじめて言葉を発した事だった。

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