始まりの島と始まりの冒険譚

第12話 ザファーレスト

「いや〜、君達のおかげで。少しの間だったが、楽しかったぞ」


「こっちも色々と良くしてくれて助かったよ」


「感謝するのは俺だよ。君達が居なかったら今頃グラトニー食賊団にやられていた。でも、まさかあんな簡単に首領グラトニーを倒すとは思わなかったよ」


「あはは、あれはたまたま運が良かっただけだ。もし奴が疲労がなく自分の力に慢心して俺の様な無名を見下さず戦っていれば多少は苦戦していたかもな」


「アハハハッ!なんか、君は大きくなりそうだな」


 ヘーストはレイヤの背中をパシパシと叩き、高笑いをするのであった。そして、お互い手を振って別れを交わす。船が見えなくなり、3人はザファーレスの街の風景を眺める。


「うわぁ〜人がいっぽいいる!」


ザファーレスはやはり盛んであった。

 人々は多く、屋台だけでも100を超えるのであった。


「ここが魔賊にとって始まりの島でもある場所なんですね」


「魔賊の聖地でもある、必然と魔導師も沢山集まっているな」


 ちらほらと武装している集団が街中を警備しているか様に周りを見渡していた。フウカは魔導師の軍服から、白いコートに着替えていた。


「大丈夫ですかね?」


「大丈夫だ。俺らは魔賊であるが、懸賞首は誰もいない。俺達から魔賊と名乗らない限り俺らを捕まえようとはしないだろう」


 魔賊名乗ってしまえば罪となるが、懸賞首の味方でも手下でもない限り、自分から名乗らなければバレず捕まることはない。今のレイヤ達ならば、街中を堂々と歩いていても一般市民と変わらないのだ。


「だから、リン。お前は余計な事を言うなよ?もし自分達が何者かと聞かれたら旅人と名乗れ」


「えぇ!なんで嘘つくの?」


「正直に正体を明かせば仲間は集まらないぞ?」


「...わかったよ。頑張って嘘つくよ」


 嘘が好きではない、いや正確には嘘がつけない性格のリンは分かりやすく肩をすくめるのであった。


「それで、まずは飯食おう。ちょうど近くに盛んそうな店が見える。あそこに行ってみないか?」


【DODORAN RESTAURANT】とデカデカと出入り口の真上に看板があった。中に入ると客がいた。だが、何故か一般市民ではなくガラの悪い連中ばかりだった。


「い、いらっしゃいませ」


 何故かレイヤ達が入ってきた事に店員と思われる人間が驚いて戸惑う様子を見せる。

 手をプルプルと震えた状態で席に案内をされる。リンは特に気にしてはいないが、レイヤとフウカは少し不思議そうに思う。3人は席に座りメニューを開く。


「うわぁ〜レイヤさんこのドラクエッグ、捕獲ランクCですよ!」


捕獲ランク

 それは食材を捕獲する難易度を示す。全てS、A、B、C、D、Eの6段階がある。上に行く連れに捕獲する事が難しいと言われいてる。1番難しい捕獲ランクはSとなっているが、それ以上の測しれない魔獣を全て特Sと認定されている。


「なにそれ?ゆで卵?」


「はい、ドラクエッグとは大きなトカゲみたいな魔獣で、肉自体は筋が多くあまり美味しくないと言われていますが、ドラクエッグが産む卵は黄身には栄養が多く美味しいと書いてありました」


「へぇ〜そりゃ気になるな。店員さん」


「は、はぃ!」


店員を驚いたのか肩がビクリとなる。

 呼んだのがレイヤ達だと分かり、少しホッとした様子で小走りで近づく。


「そんな、挙動不審でどうした?」


「い、いえ。だ、大丈夫です」


「まぁ、良いや。このドラクエッグサラダ3人前と、骨つき肉の盛り合わせ、カルボナーラを頼む。リンとフウカは?」


「あたしも骨つき肉の盛り合わせ!」


「あ、じゃそれを2人前で」


「はい」


「私は、この人面トマトのパスタでお願いします」


人面トマト

 トマトに人の顔の様な模様があり、人面トマトに合ったお湯加減で茹でると温泉に浸かる様な気持ちいい顔になれば旨味成分が倍増する。だが、逆にお湯加減を間違えると不機嫌な顔の模様になり不味くなると言われている。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員さんはレイヤ達のメニューをメモり厨房へ向かった。そして何分か待っていると料理が机の上に運ばれる。


「んまい!」


リンは美味しそうに肉をかじる。

 レイヤとフウカはドラクエッグの一口サイズに切られてあるゆで卵をフォークで刺し口の中に運ぶ。


「美味いな。なるほど、確かに栄養が多く含まれてるな」


「はい。飲み込んだだけで、体の血液の流れが良くなったと感じる様な感覚ですね。前菜にぴったりな食材ですね」


「おい」


 3人が美味しく食べていると、少し離れた場所で酒を飲んで騒いでいた連中の一部がレイヤ達を囲む様に来た。


「よく見たら、そこの嬢ちゃん達べっぴんさんだな。どうだ?俺達と一緒に飲まないか?」


「すみません。私そう言うの興味ないので」


「モグモグ」


 フウカはキッパリと断り、リンは興味を向けるどころか肉を食う事に集中して無視をする。


「おい!俺達はあのピルグ魔長の戦闘員だ!俺達を無視する事や断る事はピルグ魔長に楯突く事と一緒なんだぞ!」


「誰だが知らないが、偉いのはそのピルグって奴でお前じゃねぇんだろ?なんでそんなデカイ顔出来るだ?それに俺はお前らのご自慢の魔長にじゃなくてお前自身に言ってるんだ、自分より強い名前の奴を盾にして脅す奴は弱ぇ奴がやる事だ」


「テメェ!絶対殺す!!」


 男は腰にあるピストルを抜き、銃口をレイヤに向ける。引き金に指をかけようとした時、その指はピタリと止まる。何故ならば彼の頬には切り傷があったからだ。血がゆっくりと流れる。


「え?」


「それをしまえ。食事中だぞ」


 レイヤは持っていたナイフで頬を切ったのだった。フウカとリンは料理をモグモグと食べながら見ていた。


「レイヤ、喧嘩?あたしも入るよ?」


「いや、これは俺が始めた喧嘩だ。俺1人で片付ける」


「そう。怪我しないでね」


 レイヤは血のついたナイフをナプキンで拭き、立ち上がり男達と睨み合う。


「こっちは腹減ってんだ。食事を邪魔されるのが嫌いなんだよ」


レイヤは首の骨をポキポキと鳴らすのだった。

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