第45話 Sランクになったら?

 食事が終わるとリビングから奥の部屋に行ったリンド。すぐに戻ってくると両手に何本かの杖を持っている。


「この杖、精霊士の杖と僧侶の杖なんだけど最近またスキルが上がってね。以前よりも2割ほど効果がアップしているんだ」


「2割?」


「うそでしょ?」


 ファビーナとロザリーが同時に声を上げた。他の3人もびっくりして部屋に戻ってきたリンドを見る。リンドは両手に持っていた杖を居間のテーブルの上に置いた。


「こっちが精霊士用、こっちが僧侶用。好きなのを1本ずつ差し上げるよ」


 メンバーが驚いている中、マーガレットは置かれた杖を見ていた。


「いろんなデザインがあるのね」


「この前辺境領のハミルトンに行った時に本屋でデザインや建築の本を買ってきたんだよ。家の増築の際にも参考になったしこうして杖のデザインにも使わせてもらっているんだ。どの杖でも効果が変わらないのはミディーノの武器屋のトムのお墨付きだよ」


 精霊士のファビーナと僧侶のロザリーがどれにしようかと杖を見ている。リンドは顔を狩人のユリアーネに向けると、


「ユリアーネの弓も新しいのを作ってあげるよ。僕の風魔法の威力も強くなってるから今ならそれよりも良い弓を作れると思うんだ」


「本当に?じゃあお願いしていい?」


 そう言って予備の弓をリンドに差し出した。


「リンド、悪いわね」


 杖を選び終えた2人が新しい杖を持っている中マーガレットが言った。リンドは首を横に振って


「僕からのランクS昇格のお祝いだと思って。マーガレットとコニーには渡せるものがないので申し訳ないんだけど」


「私たちはいいわよ。それより3人の装備の質が上がればパーティとして討伐が楽になるしね」


 コニーが言うとその通りとマーガレットも頷く。


 翌朝、彼女らが森の奥に出かけるとリンドは新しい弓作りを始める。イチイの木を風魔法で丁寧に削り上げて形にすると樹液に浸して綺麗に仕上げる。そうしてランクSのオークの脚の筋を撚っては弦にして弓を作っていった。


 作業を始めてから半日もたたずに新しい弓を2つ作ったリンド。時々後ろから見ていたミー。


「いい感じよ。彼女が今使っている弓よりもずっと効果があるわね」


 師匠からお褒めの言葉をいただきリンドの表情も緩む。


「いい仕上がりになったよ」


 そう言ったリンドの前には綺麗に仕上がった2つの弓が置かれていた。当人も納得できる仕上がりだ。


「これでまた彼女らの討伐が楽になるわね」


「事故の可能性が減るってことだろう?いい事だよ」


 夕刻に森の奥から戻ってきた一行。手伝うわよとリンドと一緒に夕食の準備をする。女性5人なので普段よりもずっと夕食の準備の時間が短くそしてメニューが多い。


 大抵は肉を焼くか魚を焼き、それに野菜と果物というメニューのリンドだがマーガレットら5人はただ肉を焼くんじゃなくて細切れにして野菜と一緒に炒めたり、魚も蒸してみたりと手がこんでいる。


「こりゃ美味いよ」


 彼女らが作った料理を口に運んだリンドが言うと


「冒険者だけど皆料理が好きなのよ」


「ここはいい素材があるから料理のし甲斐があるわね」


 と口々に言いながら料理を口に運ぶ。


「リンドにもらった新しい杖、すごい威力だったわ」


「本当ね。以前の威力なら魔力も抑えられるし使い勝手がいい杖よ、ありがとう」


 ファビーナとロザリーが言った。


「そりゃよかった。明日はユリアーネも新しい弓でやってみてよ。この弓はミディーノのキースのパーティの狩人のクリスティにも上げたんだけど好評でね」


 ユリアーノの横には食事前にリンドが手渡した新しい2つの弓が置かれている。


「そうなんだ。クリスティも一流の狩人よ。彼女が良いって言うのなら本物ね。というか私も持っただけでこの弓が優れものだってわかるもの」


「リンドはその弓も武器屋に卸すつもりなの?」


 やりとりを聞いていたマーガレットが聞いてきた。リンドは首を横に振って


「その気はないんだよ。トムの武器屋に卸すのは杖だけだね。お陰様で杖の注文も多いしこれ以上弓まで作ったら自分の時間が無くなっちゃうよ」


「ここでのんびり過ごすのがリンドの目的だものね」


「その通り」


 夕食が終わるとそのまま雑談になる。全員が果実汁を飲みながら居間のあちこちに思い思いに座っていた。ミーは猫階段の上で蹲っているが両耳はピンと立っている。


「Sランクになると何か変わることってあるの?」


「う〜ん、特にはないかな。ギルドの指名クエストが出るのはAランク以上で同じだしね。ランクがSになって定期的にギルドのクエストをこなさなくても良くなったくらい?」


 雑談がひと段落ついた時に聞いてきたリンドにコニーが答えた。


「コニーが今言った通りで基本変わらないわね。ただSランクということで周りの見る目が変わったの。最近ようやく慣れたけど最初の頃は結構プレッシャーがあったわよ。無様なことはできないしね」


 マーガレットが昇格当時の事を思い出して言った。王都は冒険者の数も多い。いろんな冒険者から注目されていたのだろう。しかも女性ばかりのパーティだ。自分が思っている以上に大変だったんだろうなと思いながら聞いているリンド。


「リンドもSランクになったらわかるわよ」


 木製の大きな容器に入っている果実汁のおかわりを自分で注いだロザリーに言われて無い無いと否定するリンド。


「Aランクでもおこがましいって思っているのに。ランクはもういいよ」


「本当にマイペースよね」


 ロザリーに続けて言った精霊士のファビーナの言葉に大きく頷くリンド。


「冒険者になった時の目標がある程度強くなって1人で生活できるって事だったからね。今はまさにその状態だろう?自分に取ってはこれ以上望むものはないね」


 聞いていた5人のSランクはある程度強くなっているどころか相当強くなってるわよとリンドの言葉にそれぞれが内心でツッコんでいた。


 マーガレットらは結局1週間リンドの家で過ごした。ユリアーネにあげた新しい弓は彼女の想像以上の威力だったらしくいたく感激していた。


 しっかりと鍛錬をした彼女らはここでの鍛錬に満足し、ミディーノ経由で王都に戻るとリンドに伝えた。出発の朝、家を出る時には、


「また鍛錬目的でお邪魔してもいい? Sランクの複数体がいる狩場ってあまりないのよ」


「問題ないね。いつでも来てくれて構わないから」


「それもいいけど一度王都に来てみたら?もちろん鍛錬じゃなくて観光でよ。来たら私たちが案内してあげる」


 マーガレットらは紙に王都での自分達の住んでいる家の場所を書いてリンドに渡した。王都の城門と通りと家というシンプルな地図だが家の屋根が赤で周囲と違う色だから一眼でわかるらしい。


「ありがとう。もし王都に行った時は世話になるよ」


 地図を受け取ったリンドが礼を言った。


 じゃあまたねとマーガレットらがリンドの自宅を出るとそれまで賑やかだった家が静かになる。


「彼女らならいつ来ても問題ないわね。悪い人じゃないし」


「ミーもそう思うだろう?Sランクなのに威張っていないしさ。立派だよ」

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