第9話 冒険者は驚いた

 午後は家の周辺のランクBを討伐して鍛錬したリンド。夕刻になって庭に育っている野菜や果物を採取していると声がしてキース一行が戻ってきた。


「今から食事を作るよ。それと雑魚寝で悪いが皆の部屋はこっちだよ」


 リンドが案内したのは居間の奥にある倉庫になっているところだった。床には魔獣や野生動物の毛皮が敷かれていてクッション代わりになっている。


「広いし床も絨毯が敷いてるみたいにふかふかだ。これなら全然問題ないよ」


「そうかい?じゃしばらく休んでくれよ。それとこの家の裏側に川から水を引いて流し込んできているから、水浴びするならそこで適当にしてくれていいから」


 水浴びができると喜んだのはジェシカとクリスティで、先に女性二人が家の裏に水浴びに行った。リンドは料理を作るとキッチンに戻っていった。

 

 部屋に残った3人が床に腰を落として休んでいると


「おいっ、これ」


 戦士のコリーが立ち上がって指さした先、壁の棚にはリンドが倒したランクBの大量の魔石がいくつも箱に入ってる。それを覗き込んだ3人。


「見ろよこれ、全部ランクBの魔石だぜ」


「あいつが一人で倒して集めたってことか?」


「ランクBの賢者がソロでランクBの魔獣を討伐してるってことかよ?」


 3人が思い思いに口にして、しばらくの沈黙のあとでキースが


「滅多に街に行かないって行ってたよな。ランクに興味がないだけで実際リンドはランクBじゃなくてランクA、いやひょっとしたらそれ以上かもしれないな」

 

「ああ、おそらくそうだろう。ギルドのクエストも最低限しか受けてないはずだ。そしてこの森の中で毎日ランクBを相手にしてる。こりゃきっと半端ない強さだぜ、あいつ」


 コリーの言葉にうなずく他の二人。


 その後戻ってきた女性と入れ替わりに水浴びに出かけた3人。女性のジェシカとクリスティはキッチンに出向いてリンドの手伝いをして料理の準備をした。


 そうして全員が揃ったところで居間のテーブルの上に料理を置いていくリンドと女性。鹿の肉を焼いたものと野菜を炒めたもの、そしてスープだ。飲み物は果実汁と果実酒。


「ありあわせのもので申し訳ないな」


「いやいや、野営覚悟で来てたから火の通った肉とか野菜を食べられるなんて天国だよ」


 キースが言うと、隣のコリーは木のグラスに入った果実酒を持って


「酒まで飲めるとはな」


「果実から作った酒だからそれほど強くはないよ?」


「酒は酒だ、全然問題ないね」


 そう言ってぐいっと酒を飲んで食事が始まった。ミーはこの家だと食事がいらないのでリンドの腹の上でゴロンと横になっている。


 食事をしながらキースらはミディーノの街の話しやクエストで出向いた他の町の話しをする。どれもがリンドに取っては新鮮な話題で食事をしながら黙って聞いていた。


 キースらの話がひと段落するとクリスティがリンドを見て


「言いたくないなら言わないでくれても全然構わないんだけど、リンドってどうしてここに住むことにしたの?」


 リンドは持っていたスプーンをテーブルに置くと田舎から出てきて冒険者になったところから話始めて、


「ミディーノの街に知り合いはいないし、自分の性格として人と関わりを持つのが得意じゃないって分かってたから、いや、人嫌いじゃないんだけどね。何というか昔からマイペースが好きなんだよ。好きな時に好きなことをするっていうのがさ。そうなるとパーティを組んでもうまく行かなくて周りに迷惑かけるの分かってたから冒険者になったときからずっとソロで活動していて、そしてランクが上がってDになった時にソロで活動できる賢者になって、そして街の外に住んでみようと思って森を歩いている時にこの広場を見つけて家を建てたって訳。まぁ詳しいところは聞かないでくれよ」


 ランクDでこの森をここまで歩いてきて家を建てて住むというのが実際不可能であることを知っている5人だがそれ以上は聞かずに、今度はキースが、


「そうなんだ。ところでここでの生活はどうだい?」


「悪くないね。鍛錬の相手にには事欠かないし、野菜や果実は育てているし外には魚、鹿や猪もいる。ランクDになってからもギルドの冒険者の権利が剥奪されない様に月に1度はミディーノには出かけてたし、そこでクエストをして稼いだお金で街で買い物をして帰ってくる。杖をトムの店に売り出してからは生活もかなり楽になったし。ここでマイペースで生活できてるよ」


「じゃあずっとここに居るつもり?」


「そうだね。今の所ここを出ていく理由は見つからないね。もともと冒険者になったのも自分で食えるくらいに強くなれればいいと思っていたから特にランクをあげる為に他の場所に行ったりダンジョンに潜ったりする気はないかな」


 そうして食事が終わり、皆で果実汁を飲んでいる時にキースがリンドに


「よかったら明日は俺達と一緒に行動してみないか?」


 その提案に乗ったのは他の4人のメンバーで


「それいいね。ねぇ、リンドも一緒にやろうよ」


「俺はランクBで足手纏いになるんじゃない?」


「俺達はランクAだけど世間によく居る効率厨じゃない、たまには違ったことをするのも刺激になっていいかも知れないと思ってるから大丈夫だよ」


 キースやコリーの本音は目の前にいる賢者の実力を見てみたいということだ。キースの誘いにリンドの腹の上でゴロゴロしていたミーが身体を押し付けてきたので


「じゃあ明日だけお世話になろうかな。そしたら明日の夜もここに泊まってくれよ」


 その日の夜寝室で横になっているとミーがベッドに上がってきた。


「明日は私は姿を消してついてくから。それにしても今日のリンドの対応はよかったわよ。惜しげもなく杖をあげるなんて普通はできないじゃない」


「あれだけ使ってくれたらこっちも嬉しいよ」


「リンドが誠意を見せたからお礼に魔法袋をくれたんだよ。ちゃんと分かってる人は分かってるわね」


 そして翌日、朝食を食べたランクAの一行とリンドの6名は森の家を出て奥のランクAが生息する地域に向かった。先頭は狩人のクリスティがサーチを使いながらルートを指示しする。家を出て10分程歩いた時に、


「ランクAが1体。オークよ」


 とクリスティが言った。


 リンドは彼らのパーティから離れて後ろに引く。残りの5人はキースの指示で体型を作るとゆっくりとオークに近づいていった。狩人の矢がオークに当たって戦闘を開始。キースが挑発スキルを発動してオークのタゲを取って攻撃をがっちりと受け止めると、その横から戦士のコリーが斧で切り付け、精霊士のショーンが精霊魔法をオークにぶつけて戦闘開始から数分でランクAのオークを討伐した。


 見事なものだと見ているリンド。パーティの連携がスムーズで無駄がないと思っているとクリスティがさらに奥に同じオークを1体見つけた


「流石に森の奥だね。ランクAがうじゃうじゃ出てくる」


 ショーンが言うとキースはリンドを見て、


「今度はリンドも参加してくれよ」 


「わかった」


 そうしてさっきと同じ様にクリスティが遠隔攻撃でオークに矢を当てるとキースが挑発して向かってくるオークのタゲをキープする。戦士のコリーが殴り始めたタイミングでリンドは杖を前にに突き出して精霊魔法を唱えると雷の精霊魔法がオークに命中しその場でオークが後ろに倒れて絶命した。


 ランクAにちゃんと当たってよかったとリンドが一安心している中、他のメンバーはお互いに顔を見合わせていた。言葉にこそ出さなかったが全員がリンドの精霊魔法の威力にびっくりしている。こりゃランクBの冒険者が撃つ魔法じゃないぞと。

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