NHK総合・午後五時五十四分

「本日結びの一番、制限時間いっぱい。三度目の立ち合い……おっと、待ったです。行司、三度みたび待ったをかけました。立ち合い不成立です」

「いやぁ、なんとも……なかなか見られる光景じゃないね、こりゃ。こんな世紀の一番でまあ、なんてことだろう」

「おっと、大地竜今度は先に両手を付きました。軍配……返りました! 立ち合い成立です! 大地竜、右に動きました! 右からのおっつけ! 横綱、まわしに手がかかりません!」


 泰牙の左目が強度の弱視だという事実を知っている者は、現役の力士たちの中にはほとんどいない。部屋の親方などは別だろうが、当然、箝口令が敷かれている。


 だが、大地竜は知っていた。かつて土俵上で彼の左目を奪ったのは、ほかならぬ彼なのだから。


「三度の立ち合いで全て左からのおっつけを狙いに行っていた大地竜、なんと四度目で右に動きました! 横綱、まわしを……届かない! まわしに手が届きません! 大地竜強力なおっつけ!」


 獅子は。


「大地竜、両腕で一気に押し込む!」


 兎を討つのにも全力を尽くすものだ、という。まして、その相手は。


「横綱、これは苦しい! ……いや、土俵際残りました! そして……下手、いやもろ差し! なんと大地竜が横綱の両まわしをとってもろ差しの形になりました!」


 兎などではない。それは、史上最強の、虎であった。


「大地竜、がぶる! がぶる! 横綱、」


 だが。


「横綱、土俵際で懸命に堪えます!」


 彼もまた、虎であって、木鶏ではなかった。木鶏にはなれなかった。


「崩れ落ちました! 寄り倒し! 大地竜横綱を破りましたぁぁぁぁ!!」

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