恋物語じゃない。

少覚ハジメ

第1話


 あっくんは、それはきれいな男の子で、隣に住んでいて、私と同じ年に生まれて、兄妹みたいに育ってきて、私も外見には恵まれた方だったので、互いの両親はお似合いだ、なんて言うから将来結婚する約束までしてしまったのは幼さゆえの過ちで、中学三年生になったいまも、一度もつきあったこともなければキスしたこともない。

 むしろあっくんを紹介してくれという女子には事欠かず、私も良さそうな子だと思えばそれとなく伝えたりはしたけれど、いつもあっくんは気がすすまないからとか、好きな子がいるからと断ってくるので、恋人がいたことはない。私に隠れて付き合っていれば別だけれど。

 たまに私とあっくんが付き合っているんじゃないかって言われることがあるけれど、そんな時は私はあっくんが好きなんだろうかなんて自問してみて、好きは好きだけど、この好きって何?ってなるから多分、そうじゃないよなあ、なんて気がする。ようするに、私は幼馴染で隣の家の男の子で、というくくりでしかあっくんを見たことがない。と言って、あっくんより好きな男子はいるのかと聞かれたら、それはそれで困る。

 そもそも、幼稚園から学校もずっと一緒で、同じクラスになることもちょくちょくあって、今も同じクラスだし、家に帰れば隣だし、部屋にもよく来るし、近すぎてわからない。他の男子と一緒にされても、答えようがない。今でもあっくんが、今日はうちに集合、なんて言うから要らぬ誤解を招く。何のことはない、家族同士集まって、庭でBBQをするとか、そんな話なのだ。


 学校から帰って、私服に着替えて、両親とあっくんの家にお邪魔する。庭にはバーベキューコンロに炭がもう入れられていて、準備は万端だ。

 少し時間が早いので、私はあっくんの部屋でマンガを読ませてもらう。真剣にギャグマンガに入り込んでしまって、大笑いする。

「お前の笑ってるの、いいよな」

 なんていきなりあっくんが言い出す。

「なに?いきなり。これ、おもしろいね。あっくんのチョイスは外れがなくて好き」

 そうするとあっくんは、座っている私に目線をあわせて、ちょっと近づいてきて、唇に何か触れた。

 あれ?っと思っていると、目の前にあっくんの顔があって…あれ?これもしかしてキスをしている?全然いやじゃないけど、いきなりなんだ?

 私は何だかぼーっとしている。するとそのうち、唇から何か入ってきて、私の舌にからみついて、なんだかほんのり気持ちいい。

 そうこうしているうちに、気づいたらベッドの上で、私は全裸で、あっくんも全裸で、私の体を、いろんなところに手を触れて、私はそのたびに感じるままに、たまに息を吐き出している。

 やがて、あっくんが私に入ってきて、最初は痛かったけれど、だんだん安心感を感じて、気づいたらきつく抱きしめていた。

 あっくんが、短く、んっと嘆くようにすると、動きが止まって、優しく額にキスしてくれて、ようわく私は今の行為が何であったか認識する。

 突然ではあったけれど、結局こうなることに決まっていたような気がしたけれど、そろそろ夕食の支度もできそうなので、私はのろのろ服を整える。

「あっくん、責任とってよね」

「だって、結婚するんだろ?」

 あの約束は、まだ生きていたようだ。

「そうだね。お金稼げるようになってね」

 私はあっくんに稼いでもらって、せいぜい楽をするのだ。結局、好きとはいってくれなかったけれど、私も好きっていわなかったし、まあ結婚してくれるなら別にどっちでもいいかなって、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋物語じゃない。 少覚ハジメ @shokaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る