※工事中※サイレント・アフェクション【魔術戦場より愛を込めて】

@CorS

1章【赤き少女とルワ】

第2話:街

 それから1年が経った。俺たちは10歳になった。

 10歳というと、魔術の才能が開花し始める頃だ。

 孤児院ではこの年になると魔導書庫に入れるようになって、魔術へ憧れる普通の子供たちはこぞって魔導書を読むようになる。……そして、小さな炎や氷を出せるようになった所で、飽きる。

 しかしそれにも意味は有るわけで、それが日常魔術の礎になる訳だ。


 よって、魔術に興味が無いという”変な子供”には特別措置が与えられる。

「今日の授業も退屈だったわね……」

「僕は楽しかったよ」

 魔導書庫での特別授業である。

 火ぐらい起こせないと生活に支障がでるから、最低限の魔術は教えられるのだ。

「ルワも早く出来る様になってよ、退屈なの」

「頑張ってるんだけどね……」


 1日目で火を出せるようになったフィアは、そんな事を言いながらも俺の授業に付き合ってくれていた。


「だって、ルワが居ないと洞窟に行けないじゃない!」

「……そうだね」


 その言葉を受けて、ちょっとだけ気分が陰ったのを覚えている。


 洞窟に関して言えば、あの日からずっと、フィアは取り憑かれたように通っていた。もちろん俺も巻き添えにして。

 木の棒とかを使い、小さな手で掘リ続け、その日ようやく10個めの石を取り除いた所だった。


「どれくらい大きくなったの? 幅は? 高さは? なにか見える?」

「大きさは僕たちの頭くらい。幅と高さはだいたい同じかな。奥は……なんか紫っぽいのが見えるよ。もう少しで通れると思う」


 夜目が効く俺は置いておいて、フィアからしたら何も見えないはずなのに、暗闇を掘って何が楽しいのだろう。

 しかしその時の俺は、それを聞くとこの関係が終わってしまう気がして聞けなかった。



 ――そんな生活がしばらく続いて、俺たちは街に出ることになった。

 追い出された訳では無い。10歳児は、一斉に行われる能力鑑定のために、代わる代わる街に送られる。その順番が廻ってきただけだ。


 それに伴って、俺たちは基礎的なマナーを叩き込まれる。

 正しい姿勢、言葉遣い、身だしなみ、スプーンとフォークの持ち方等々……。


 並行して俺は魔術の練習を行ったが、結局微かな火の一片すら出なかった。


 そして出発当日の朝、馬車がやってきた。

 貴族たちに比べれば質素な物だが、それでもここらへんでは珍しい。

「街の人たちって、衣装以外も窮屈なのね」

「……」

「どうしたの?」

 しかし馬車よりも、俺の視線は見慣れない赤いドレスを着たフィアに釘付けであった。

 聞くところによると孤児院から街に行く女子は皆、このドレスを着るらしい。

 無論、俺も見送りの時に毎回見ていた。

 

 しかし、その赤いドレスはまるでフィアのために存在するようだった。ドレスよりも少し濃い赤髪はくしで整えられていて、いつもとは印象がまるで違う。

 フィアの身体の成長は俺より早く、ドレスとヒールでそれが更に強調されていた。

「……どう?」

 フィアがその場で一回転して見せる。ドレスがフワリと膨らんで、白くしなやかな足が覗く。いつも見ているはずなのに、それがとても悪いことのように思えた。


 金色の瞳に見つめられて、単純に俺は恥ずかしかったんだと思う。「似合ってる」そう言えばいいだけなのに、柄にも無いことを言おうとしたものだから……。


「イチゴみたい」

「は?」


 結果として、出発は2時間ほど遅れた。





「見て、街が見えてきたよ」

「そうですわねー、楽しみですこと。フフッ」


 ガタガタと揺れる馬車の中。未だに怒っているフィアは言葉こそ丁寧だが、窓に肘を載せてガラ悪く外を見ていた。


「鑑定は明日だし、今日は街を見てまわろうよ。……どこ行く?」

「イチゴでも食べてればよろしいのでは?」

「でも、この時期には出回ってないよ」

「だったらジャムでも食ってろればよろしのでは?」

「ジャムかぁ! 良いね!!」

「チッ……」


 10歳児の知識を総動員して、場を取り繕うと考えるが、フィアの機嫌はますます悪くなっていた。


「到着致しました」

「あっ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます。ご機嫌麗しゅう」

 降りて一礼すると、馬車は走り去っていった。


 降ろされたのは宿の様な場所で、黒いドレスにエプロンを身に着けた女性が、こちらと目が合うとお辞儀をした。


「フィアさまとルワさまでございますね?」

「は、はい!」

「2日間よろしくお願い致します」


「部屋の方にご案内させて頂きます。こちらへお進みください」


 そういって宿の人が扉を開いた途端、空気が変わった。


 地面を覆う真っ赤なカーペットと、高そうな家具。

 触れることすら躊躇うほどに光沢を放つ手すりの横を通って2階に上がると、隣同士の部屋に案内された。


「ディナーは5時となっております。恐れ入りますが1階にお越し下さい」


「わ、分かりました!」

「ご親切にありがとうございます」


「失礼致します」


 宿の人は一礼すると、静かに階段を下っていった。

 2階の廊下に残されたのは俺とフィア。


「フィア、あのさ……!」

「ご機嫌麗しゅう」


 俺の言葉を遮るように、隣の部屋の扉が閉まった。

 

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